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虹の瞳を継ぐ娘  作者: 冬野月子
第5章 虹の架け橋

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09

ふいに馬車が止まった気配を感じた。


「…何だ」

ヘンリクがわずかにカーテンを開けた。


「殿下」

馬車の外から男の声が聞こえた。

「どうした」

「それが…突然馬が動かなくなりました」

「どういう事だ」

「分かりません。調べるのでお二人共外に出て頂けますか」

「…分かった」

馬車の扉が開くと、昨夜と同じようにヘンリクはイリスを抱き上げて降りた。



「ここは…」

寂しい風景が一面に広がっていた。

栄養のない痩せた土と、わずかに植物が生えるばかりの、生命を感じられない大地。

遠くに見える人工物らしきものは、朽ちた建物だろうか。


「ここは我が国の領地…と言いたい所だが。手がつけられずに持て余している、海神の加護が及ばぬ土地だ」

———そうか。

ここはもう、かつてシエル聖王国だった場所なのか。

馬上のラナへ視線を送ると彼女はわずかに頷いた。


「寂しい…」

胸に湧き上がった感情が知らず言葉から漏れる。


こんな場所に女神は一人眠っているのか。

寂しい。悲しい。

あんなに美しかったのに。

ここは…この地は、女神の造った理想郷だったのに。


湧き上がる感情はイリスのものなのか、女神のものなのか。

「…っ…」

心の奥底から溢れ出そうとするそれが熱を帯びて、イリスは息苦しさを覚えた。



「…姫?」

異変に気付いたヘンリクがイリスの顔を覗き込んだ。

「どうした」

「っはぁ…」

「姫!」

苦しい。

熱い。

体内から湧き上がる何かを———縛られた術に阻まれて外に放出する事ができない。


「姫!大丈夫か?!」

苦しさに喘ぎ始めたイリスにヘンリクは困惑した。


「殿下…姫君を封じる術を解くのがよろしいかと」

黒いローブをまとった男がヘンリクの傍に立った。

「しかし」

「姫君は尋常でない様子。このままでは…」


その時、イリスの胸元が光った。

「っ…」

「何だ!」

光はどんどん強くなっていく。

その光に呼応するように、大地が強い光に満ちた。





「何だ?」

突然前方が光輝き出し、レナルド達は馬の脚を止めた。


「光…?」

「あれは!」

光の中から虹色に光る柱が立ち上った。

柱はゆっくりと空に向かって登っていく。


それはひどく美しくて幻想的な光景だった。



「何が…」

「橋が———」

クリストファーは目を見開いた。

「女神の橋が…架かった」


「橋?」

「女神が目覚めた!早くイリスの元へ!」

クリストファーは強く手綱を引いた。

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