07
「イリス!」
突然叫んだクリストファーの声に、レナルドははっと目を覚ました。
大神殿にある貴賓室で、レナルド達は仮眠を取っていた。
「クリストファー?」
「イリスが腕輪を外しました」
「何だと!」
横たわっていたソファから飛び起きると、レナルドはテーブルに置かれた地図の前に駆け寄った。
「居場所は分かったのか」
「今…」
地図を見つめるクリストファーの黒髪が一瞬ふわりと揺れると光を放ったかのように艶めいた。
「ここ」
それは先刻この辺りとユーピテルが示した位置から、更にサルマント王国へと近づいた場所にあった。
「…イリスの位置は正確に分かるのか?」
「ええ。…今は移動していないようです。おそらく休憩を取っているのではないかと」
「それで腕輪を外す隙が出来たのだろうな」
レナルドの後ろから地図を覗き込んでいたバーナードが言った。
「急いで出立すれば追いつけるかもしれん」
「そうだな、行くぞクリストファー」
「はい」
「僕の剣を。馬の用意!」
何かあればすぐに発てるよう、王宮からレナルドの馬と装備を取り寄せておいた。
クリストファーやバーナードも剣を取る。
「私も行きます!」
オレールが声を上げた。
「魔術ならば得意です!」
レナルドは問うようにクリストファーを見た。
確かに魔法攻撃力の高いオレールは重要な戦力になるだろう。
だが、彼はイリスがシエルの巫女である事を知らない。
場合によってはそれを知られてしまう可能性があるのだ。
「…馬には乗れるか」
クリストファーはオレールを見た。
「はい」
「ならば来い。もう二人ほど魔法が使える者がいるといいが」
「用意します!」
オレールは部屋を飛び出して行った。
「いいのか」
「———イリスの安全が優先です。秘密だの何だの言っている場合ではありません」
クリストファーは素早く傍にあった紙に何事か書き込むと、それを畳んで息を吹きかけた。
紙は鳥の姿へと変化し、羽ばたくとその姿を消した。
「…フェリクスへか」
「はい」
「その手紙…イリスへは送れないのか」
「それは危険ですね。向こうにどんな魔術師が付いているか分かりません。こちらがイリスの居場所を知っている事を知られてはなりません」
「…そうか、そうだな」
レナルドはため息をついた。
『我の力を貸そう』
ユーピテルの声がクリストファーの頭の中に響いた。
『馬を早く走らせる加護を。それからしばらくの間、お主に我の力を与える』
クリストファーの身体が光に包まれた。
「クリストファー…その目!」
光の消えたクリストファーを見たレナルドと、部屋に戻ってきたオレールが目を見開いた。
「赤くなっている」
「……ああ…」
赤い瞳を宿したクリストファーは、己の中にあるものを鎮めるように長く息を吐いた。
「…この目が赤い間はユーピテルの力を使えるようだ」
「何と…」
オレールの後から入ってきた祭司長達がクリストファーの言葉に息を飲んだ。
「行きましょう、殿下」
「ああ」
急ぎ足で出て行くレナルド達を、祭司長が深く頭を下げて見送る。
「祭司長…」
「イリス様だけでなく兄君まで…彼らは何者なのであろうな」
一行の後ろ姿を見つめながら祭司長は呟いた。




