05
「殿下。どうなされました」
先触れもなく突然大神殿にやってきたレナルドやクリストファー達に、出迎えたオレールは首を傾げた。
「イリスが攫われた」
「は…い?」
「犯人はおそらくヘンリク殿下だ」
「まさか?!」
目を見開いたまま呆然とするオレールを横目に、クリストファーはイリスに与えられている部屋へと入っていた。
『すまぬ』
クリストファーの頭の中にユーピテルの声が響いた。
『我の加護を封じられた』
「———イリスの居場所は分かりますか」
『あやつら、海の魔法を使いおった』
「海の魔法?」
『オーケアノスの力を使った魔法だ。巫女に目眩しをかけられてはっきりとした居場所は分からぬが、かすかに気配は感じる』
「大まかな居場所なら分かると?」
『そうだ』
「クリストファー?」
独り言ちるクリストファーをレナルドが訝しげに見た。
「…イリスは海神オーケアノスの魔法で隠されています。大まかな場所なら分かるらしい…誰か、地図を」
「クリストファー?何故そんな事が分かった」
「今ユーピテルから聞きました」
レナルドは目を瞬かせた。
「…まさかクリストファー、お前も声が聞こえるのか?」
「つい最近聞こえるようになりました」
「最近?」
「———私とイリスはユーピテルの血を引いているそうです」
「は?」
「ええ?!」
「…はるか昔に遡る話ですが」
驚くレナルドやオレール達をちらと見て、クリストファーは神官が持ってきた地図を広げた。
「どのあたりですか」
『この大神殿より西。もう少し、そうそのあたりだ』
クリストファーは地図を指し示した指を止めた。
「この辺だそうです」
「…随分と遠いな。どうやって移動しているんだ」
示された場所を見てレナルドは眉をひそめた。
『移動にも魔法を使っておる。このままでは明日にも国境を越えてしまう』
「明日…」
『国境を越えられれば、我の力も加護も及ばぬ』
「何とか居場所を正確に見つける方法はないのか」
レナルドはクリストファーを見た。
「それに追いつく方法も…」
オレールがため息交じりに呟く。
「せめてイリスが腕輪を外してくれればいいのだが…」
クリストファーは言った。
「腕輪?」
「あの腕輪はイリスの本来の力を封じています。それを外せば私はイリスの場所を感じる事ができますから」
「…前にここで矢を射った時のように?」
「ええ」
「そうだ、あの時みたいに…神の弓でイリス様の場所へ導けないのですか」
オレールが縋るようにクリストファーを見た。
「———あの時ははっきりとアルセーヌ殿下の姿が見えていたが、今はぼやけて無理だそうだ」
祭壇に置かれた神像に視線を送り、クリストファーは答えた。
「神の力は万能ではない…あの時の相手はまだ力が弱い邪神だったが、ヘンリク殿下に付いているのはユーピテルと同等の力を持つ海神オーケアノスだ。術を解くのも難しい」
「…イリス…!」
レナルドはテーブルに拳を叩きつけた。




