04
ゆっくりと意識が浮上する。
なにか温かなものに包まれている感覚。
(…だれかの…うで…?)
「…レナルド…」
(ちがう…この感触は…誰…?)
「———私の腕の中にいるのに他の男の名を呼ぶとは。姫は薄情だな」
はっとイリスは目を開いた。
「…殿下…?」
すぐ目の前にヘンリクの顔があった。
「目が覚めたか」
「え…?!」
イリスはヘンリクの膝の上に乗せられ、抱きしめられている状態だった。
「なっ…」
逃げ出そうとして、手首に痛みを感じ視線を落とす。
見るとイリスの両手首と…両足首が青い紐で縛られていた。
「な…にを…」
「すまない。国に帰るまで辛抱してくれ」
優しい声色でそう言うとヘンリクはイリスの額に口付けを落とした。
「この紐には封印の術を掛けてある。姫の魔力を封じ、奴らが姫の居場所を探れないように」
どうして…いつの間に…。
イリスは意識を失う前の事を思い出そうとした。
———馬車に乗り、ヘンリクからの封筒を開いて…
「まさかあの封筒…いえ貝殻に…」
「これは海の魔法だ」
ヘンリクは封筒に入っていた青い貝殻をイリスの目の前に差し出した。
「海の魔法?」
「我がサルマント王家に伝わる魔法だ。毎日貝を姫に贈っていただろう。それで少しずつ姫に魔力を掛けていた。姫には強力な加護が掛かっているようで苦労したが…私の元に呼ぶくらいには掛けられたよ」
「呼ぶ…?」
「姫の乗っていた馬車からこの馬車へ転移させたのだ」
言われてみれば、イリスは馬車の中にいるようだった。
けれど不自然なほどに揺れる感じも、音もしない。
「この馬車は海神オーケアノスの加護に守られている。通常の馬車よりずっと早く走れるし、アランブール王国の者には我々の居場所は見抜けないし破れない」
イリスの疑問が顔に出ていたのか、ヘンリクは笑みを浮かべてそう言った。
「明日には国境を抜けられる。そうすればこの紐も外せるからそれまで辛抱してくれ」
混乱する頭でイリスは自分の状況を整理しようとした。
———つまりヘンリクはイリスを攫うためにあの花と封筒を贈り続けていた?
「こんな事…殿下は計画していたのですか…?」
「姫を手に入れるためならば何でもする」
「…どうしてそこまで…こんな人攫いみたいな…」
「何度も言っただろう。姫は私の運命なのだ」
イリスを見つめるヘンリクの瞳に熱が宿る。
「その色彩、美しさ、聡明さ…それに魔力の高さ。姫以上の相手は望めない」
「わ、たしは…妃になど、なれません」
「姫が拒んでももう決めたのだ。国に戻り、海神の前で婚姻の儀式を行いその祝福を受ければもう貴女は私の妃だ」
潮の香りが自分を包み込んだような気がして———イリスは目の前が真っ暗になった。




