03
「王子」
王宮内の通路を歩いていたレナルドは振り返った。
「バーナードか」
「良かった、戻る前に挨拶できて」
「…またどこかへ行くのか?」
バーナードは十年間、シエルの民を探す旅に出ていた。
それは一通り終わったと聞いてたのだが。
「スミアラにな。また近いうちに王都にも来るよ」
「そうか…その時はまた指導を頼みたい」
「ああ、王子は鍛え甲斐があるからな」
王都に滞在していたバーナードは折をみてはレナルドに剣の指導を行っていた。
巫女イリスの未来の夫という事で、その指導にも熱が入る。
この短期間でレナルドは更に腕を上げていた。
「殿下!」
イリスに付けていた護衛騎士が二人、慌てて駆け込んできた。
「どうした」
「申し訳ございません…!」
騎士達はレナルドの前で膝をつくと深く頭を下げた。
「何事だ」
「イリス様が消えました」
「は…?」
「どういう事だ」
バーナードが騎士に詰め寄った。
「ご自宅までお送りして…馬車の扉を開くとイリス様のお姿はございませんでした。荷物は残っていたのですが…」
「確かに馬車に乗られたのを確認しております。全く異変はございませんでした」
レナルドはバーナードと顔を見合わせた。
「その馬車の所に行く」
レナルドは騎士達に向いた。
「魔術局のオービニエ親子も呼べ」
「殿下!」
レナルドが先に馬車の所に着いていると、クリストファー達が慌てて駆け寄ってきた。
「イリスが消えた」
「…今追跡魔法を発動させているのですが…全く反応がありません」
「何だと?」
フェリスクの言葉にレナルドは目を見開いた。
二年前、アルセーヌが邪神の術にかかり、追跡魔法を振り切って姿を消した事があった。
以来、特に王族に対する追跡魔法は強化されていた。
そしてイリスにもそれと同じくらいの追跡魔法を施しているはずなのに。
「ともかく…馬車の中を確認しなければ」
クリストファーの言葉に、護衛騎士が場所の扉を開いた。
椅子の上には鞄が置かれているばかりだった。
「…イリスの気配は残っているな」
中を見渡したクリストファーは床に落ちているものに目を止めた。
「これは…」
「ヘンリク殿下が帰り際にイリスに渡していた封筒だな」
「…ああ、毎日届けられていた」
封筒を開くと、奇妙な香りがそこから漂ってきた。
「何だこの匂いは」
「それは海の匂いだ」
バーナードが答えた。
「海?…中は何も入っていないか」
「クリストファー、それを渡せ」
フェリスクはクリストファーから封筒を取ると鼻を寄せた。
「父上?」
「———かすかに魔法の気配がする。何だこれは…こんな魔法は知らないぞ」
「…サルマント王家は独自の魔法を使うと聞いた事がありますが」
ぞくり、とレナルドの背中に何かが走った。
嫌な予感が胸に湧き上がる。
「…まさか…ヘンリク殿下がイリスを…?」
呟くと一同が一斉にレナルドを見た。
「いやだが…まさか王太子がそんな事を…」
「———殿下。ヘンリク殿下はいつ国に戻られると?」
「…今日の終業式が終わったらその足で発つと言っていた。王宮への挨拶は昨日済ませてある」
「学園からそのまま?それは随分と忙しない…」
「まるで逃げるようだな」
バーナードの言葉に、急速にある可能性が全員の胸に広がっていく。
「ヘンリク殿下の所在をすぐに調べろ!」
レナルドは傍の騎士に命じた。
「クリストファー、家に届けられていたヘンリク殿下からの贈り物を調べよう」
「はい」
フェリスクと顔を見合わせてクリストファーは頷いた。




