03
「そろそろ一太刀浴びせたいな」
「そうね…かなり対等に戦えるようになったものね」
イリスとレナルドは王宮内にある訓練場へと向かっていた。
今日はクリストファーと手合わせを行う日だ。
まだ勝てた事はないが、レナルドの力はかなりクリストファーに近づいてきていた。
レナルドが勝てる日がくるのも時間の問題だろう、と騎士団長にもお墨付きをもらっている。
「それにしてもクリストファーは強すぎる。何であんなに剣が上手いんだよ」
「それは昔…」
「お嬢!」
突然大きな声が響いて二人は振り返った。
大柄でとても体格の良い、無精髭を生やした———まるで熊のような、四十歳くらいの男が立っていた。
「おお、すっかり大人びたなあ」
「……バーナード!」
イリスはパッと顔を輝かせると男に向かって駆け寄った。
「帰ってきたの?!」
「ああ、スミアラに行ったら三人とも王都に出てきていると聞いた。せっかくだからついでに古巣に顔出ししようかと思ってな」
「イリス?その男は…」
レナルドは訝しげに眉をひそめた。
「この人はバーナード・アウティオ。お兄様の剣の師匠よ」
イリスはレナルドを振り返った。
「バーナード…アウティオ…?」
何かに気づいたようにレナルドは目を見開いた。
「まさかあの伝説の?!」
「伝説…?」
「騎士団史上最強と謳われた騎士で…一人で百人の盗賊を倒したとか、片手で熊を捻り倒したとか、騎士達から色々聞いている」
「ははっ、熊は倒したが盗賊百人は言い過ぎだな。せいぜい七十くらいだ」
「…そこまでくると変わらないような…」
「お嬢、彼はもしかして婚約者の王子様かい」
「あ、ええ…」
「レナルドだ」
「よろしくな王子」
バーナードはレナルドの手を力強く握りしめると人懐こそうな笑みを向けた。
「俺は昔ここの騎士団で隊長をやっていたが、今は各地を回って人探しをしているんだ」
「人探し?」
「百年ぶりに念願の虹の巫女が生まれたからな。それを各地に散らばっているシエルの民に知らせるんだ」
「…バーナードもシエル聖王国の人間だったのか」
「代々神殿の護衛職だったよ」
三人は訓練場へ向かいながら会話を交わした。
「バーナードは私が生まれてすぐに騎士団を辞めて、うちに来てくれたの」
「大切な巫女様を守らないとならないからな」
「それでお兄様にも剣術を教えていたのよ」
「伝説の騎士直伝か…それは強いはずだ」
レナルドはため息をついた。
「ほう、クリストファーはそんなに強いか」
「毎年王宮の剣術大会で上位に入っているわ」
「あいつは子供の頃から何でもそつなくこなすからなあ」
訓練場には既にクリストファーや騎士達が揃っていた。
同期だという騎士団長がバーナードを紹介すると、あっという間に興奮や羨望の眼差しを宿した騎士達に囲まれてしまった。
レナルドとクリストファーの手合わせが始まった。
もう何年も剣を合わせ続けているため、互いの手の内は知り尽くしている。
僅かな油断や隙を狙いながら何合も斬り結ぶ様を、騎士達は息を詰めて見守っていた。
「クリストファーもあれから更に上達したな。それについて行く王子も大したもんだ」
バーナードは満足そうに頷いた。
「しかし…まさかクリストファーがお前の弟子だったとはな」
バーナードと並んで見ていた騎士団長のブラス・サージェントが言った。
「あの通りの腕だ、何度も騎士団に誘っているのだが断られ続けている。お前からも口添えしてくれないか」
「ああ無理無理。あいつには騎士に一番必要なものが足りないからな」
「それは?」
「忠誠心だよ」
前を見つめたままバーナードは答えた。
「クリストファーは王家や国といったものには興味がないからな」
「…ああ、それはあるな…」
普段からのクリストファーや父親のフェリクスの態度を思い出して騎士団長はため息をついた。
手合わせはクリストファーが一瞬の隙を付いてレナルドの剣を落として決着が付いた。
「よーしクリストファー、久しぶりに手合わせしてやる。王子と二人まとめてかかって来い!」
そう言いながらバーナードが訓練場へと降りていったのでイリスは慌てて回復魔法を二人へ掛けた。
大きな身体から想像もつかないほどの速さと動きで二人の剣を軽々と躱していくバーナードに、騎士達から感嘆の声がもれた。




