01
「ああ…もうドキドキし過ぎて心臓が痛いですわ」
フランソワーズが胸を押さえながら嘆息した。
「決勝が始まるまでまだ時間はありますよ」
今年学園に入学したジュリアン王子がフランソワーズの様子を横目で見ながら応じる。
「準決勝も兄上の圧勝だったではないですか。そんなに心配しなくとも良いのでは?」
「でも相手はオレール様ですし…」
「オレール殿はそんなに強いのですか?」
ジュリアンは隣に座るレナルドを見た。
「そうだな…去年も優勝したし。普段大人しそうな顔をしてるくせに、魔法使う時はえらい好戦的なんだよな」
「ああ…アルセーヌ兄様と同じタイプなんですね」
ジュリアンは納得したように頷いた。
イリス達は三年生に進級し、最後の剣術大会と魔術大会を迎えた。
レナルドは二日前の剣術大会で宣言通り三年連続優勝を果たし、これから魔術大会の決勝を迎える。
決勝に進んだのは前年の優勝者オレールとアルセーヌ。
アルセーヌは二年前の騒動を起こした責任があると言って去年は不参加だったが、この二年間の成長を認められ周囲の強い勧めもあって今年は参加する事になったのだ。
「…あれから二年経ったのですね…」
感慨深そうにフランソワーズがため息をついた。
「色々ありましたわね」
「ええ」
フランソワーズに同意するようにイリスは頷いた。
「それにしても驚きましたわ…まさかあの時のミアー様と、クリストファー様が婚約なさるなんて」
「———そうですね…」
二年前。
魔術大会でアルセーヌは、呪いをかけられていたミアー・マクレーンと対戦し邪神アポフィスに取り憑かれそうになった。
その後マクレーン子爵は商売敵を呪い殺そうとした罪で爵位剥奪の上投獄され、ミアーも被害者とはいえ貴族社会にはいられなくなり学園を中退し姿を消していたのだが。
この春、クリストファー・オービニエがそのミアーと婚約したという話題が衝撃と共に社交界を駆け巡ったのだ。
実はミアーはイリス達の母方の実家、スミアラ家に預けられていた。
彼女の魔力は邪神の憑代として目を付けられるほどであり、今後もそういった事に巻き込まれる事のないよう、呪いに詳しいスミアラ家で教育を施す事にしたのだ。
そのミアーとクリストファーがどういう経緯で婚約に至ったのか、イリスはよくは知らない。
だが貴族社会とはなるべく付き合いたくないクリストファーにとって、その貴族社会を去り魔力も高く、さらにスミアラ家の事も知るミアーは結婚相手として都合のいい相手であるのだろう。
その都合のいいミアーが断れる立場ではないのをいい事に一方的に決められたのではないかとイリスは危惧したが、春休みにスミアラの家に行った時、ミアーが頬を染めてクリストファーを見つめていたのでその辺りは問題なさそうだった。
その優秀さと見目の良さで未婚青年貴族の中で一番の注目株だったクリストファーが、よりによって犯罪者の娘と婚約したという事に周囲からは反発の声が強く上がったが、父親のフェリクスは「これで煩わしい売り込みから解放される」と喜んでいるし、本人達にとって悪い話ではないのならイリスも特に不満はない。
義理の弟になる予定のレナルドも「これでまた僕は王位から遠のくな」とむしろ歓迎していた。
周囲の騒音をよそに、オービニエ家は祝福の空気が流れていた。




