00:SIDE S
人気の完全に途絶えた、廃墟と化した神殿の最奥に二つの光があった。
『これで良かったのか』
光の一つから男の声が響いた。
『せっかくここまで造り上げたのであろう』
『…どこで間違えたのであろうな』
もう一つの光から女の声が響く。
『我は手を掛け、大切に育ててきたつもりであったのだが』
『人間の心は複雑だ。我ら神であってもそれを制する事は難しい』
光がゆらりと揺れ、広がると中からひとりの男が現れた。
逞しい身体に白い緩やかなシルエットの服をまとい、白銀の髪は光を放つように輝き赤い瞳は力強い光を放っている。
『ジュノー。其方はよくやった』
『———だが我は失敗した』
残りの光が同じように広がると女の姿を取った。
同じ白銀の長い髪に憂いを帯びた赤い瞳を持つその容姿は、かつてここにあった女神像にとてもよく似ていた。
『なに、そういう事もあろうよ』
男はそう言って妻を見つめる目を細めた。
本来、二人は夫婦神としてアランブール王国を治めていた。
けれど妻のジュノーが自身の理想の国を造ってみたいと、王国の一角に自身の領地を得て小さな聖王国を造り上げた。
加護を与え、恵みをもたらし、最も美しい国となるよう育てた———はずだった。
敬虔な信仰と忠誠を持っていたはずの民はいつしか奢りを覚え、結果国を滅ぼしてしまった。
『手を掛けすぎたのがよくなかったのであろうか』
どこで間違えたのか。
全てが壊れてしまった今となっては、その分岐を見つける事は無理であろうけれど。
『それで、また新しい国を作るのか?』
ひとり思考を巡らせる妻に、ユーピテルは声をかけた。
『我としてはそろそろ戻ってきて欲しいのだが』
『———いや、我はしばらく眠りにつこう』
『眠りに?』
『我は疲れたのだ』
ジュノーは天を仰いだ。
『ここでしばらくの間眠りたい』
『しばらくとはいつまでだ』
『そうだな…あの巫女の子が我を呼びに来るまで』
最後まで女神の傍に従い続けた巫女。
歴代の巫女達のなかで、あの娘の瞳が一番好きだった。
『…そうか』
『すまぬな、我儘な妻で』
『何、そんなお主に惚れたのだ』
ふたりの身体が光に包まれる。
廃墟を一面に満たした光が消えると、深い闇夜が包み込んだ。




