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虹の瞳を継ぐ娘  作者: 冬野月子
第3章 呪い

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14

その部屋にはフェリクスとクリストファー、そして手足を拘束されてベッドに横たわる少女がいた。


「ごめんね、疲れているのに呼び出して」

入ってきたイリスとレナルドを見てフェリクスが声をかけた。


「もう大丈夫よ。それでお父様、手伝いって?」

「この令嬢の呪いが解けなくてね」

そう言ってフェリクスは顎で少女を示した。

「この人…アルセーヌ殿下と一緒にいた…?」

「そう、クリストファーが試みているんだけどなかなか効かなくて。イリス、手伝ってくれるかい」


「呪いを解く?イリスが?」

「…シエルの神官は解呪が得意なの」

「ふーん…」


「あれ、イリスは殿下に自分の事を教えたの?」

イリスとレナルドの会話を聞いてフェリクスは尋ねた。

「…今朝、女神が夢に出てきて…。昨日の事もあったし…」


「そうか。その様子だと殿下に受け入れてもらえたようだね」

フェリクスはレナルドに向いた。

「殿下。イリスは私の娘ですが、女神ジュノーからの大切な預かりものでもあります。———殿下には、この子が負っているものを含めてイリスを受け入れる覚悟はございますか」


「ああ、もちろん。僕は何があってもイリスの傍にいる」

フェリクスに向かってレナルドは迷わず答えた。

「ありがとうございます。…クリストファー、お前もそろそろ殿下を認めてもいいんじゃないかな」

「私に剣で勝てば認めますよ」

「本当にお前も強情だね」

苦笑する父親を横目に、クリストファーはイリスへと向いた。


「それじゃあ始めようか、イリス」

「ええ」

イリスは腕輪を外すと、少女———ミアーの傍にある椅子へ座った。



「殿下」

フェリクスはレナルドを見た。

「イリス…巫女の力は〝媒体〟です」

「媒体?」

「他の者の魔力を自身に取り込んで使ったり変化させる事ができるんです。例えば神の声を聞いたりその力を宿すといったように」

「…これからやるのは?」

「クリストファーの力を増幅させます」


イリスは手を伸ばすとミアーの額に触れた。

反対側の手をクリストファーが握ると、手のひらの重なった間から光が溢れ出した。


ミアーの身体がびくりと震えた。

「……う…あぅ!」

苦しげな呻き声を上げるとその身体が大きく跳ねた。


「っ…」

イリスが眉根を寄せた。

はっと息を吐く。

「イリス…!」

昨日の倒れたイリスの姿が脳裏に浮かび、思わず駆け寄ろうとしたレナルドの肩をフェリクスが抑えた。

「殿下」

「フェリクス…イリスは大丈夫なのか」

「そこはクリストファーが見極めますから」


「ああっ」

大きく開かれたミアーの口から黒い影が飛び出るとすぐに霧散した。




「———ふう…」

大きく息を吐くと、イリスは椅子へともたれかかった。

「お疲れ」

クリストファーはイリスの前に膝を付くと、妹の顔を覗き込みその顔色を確認した。


「イリス…大丈夫か」

「ええ」

心配そうなレナルドにイリスは笑顔を向けた。

「…昨日はごっそり魔力を持っていかれたから辛かったけど、それに比べれば楽よ」


「クリストファー。どんな呪いか分かったのか」

「魂の束縛かと。随分と古い術を使っているようです」

クリストファーはフェリクスの問いに答えて立ち上がった。

「やはりスィスターンと関係があるのか」

「おそらくは」


「…ぅ……」

小さく呻くと、ミアーが瞳を開いた。

幾度か瞬きをすると不思議そうに周囲を見渡す。


「ここは…」

「ミアー・マクレーン嬢」

フェリクスがその傍へ立った。

「…はい」

「気分はいかがですか」

「え…あの……悪くはない…です」

「お話を伺ってもよろしいですか」

「?はい…」

「クリストファー、尋問を始めるから呼んできてくれ」


「尋問…?」

ミアーは呟くと、改めて周囲にいる人間を確認するように見渡した。

「え……殿下?!」

レナルドの姿を認めて目を見開く。

「あ、あの私?ここは…え?!」

慌てて上体を起こそうとしたが、自身の手足が拘束されているのに気づいて狼狽えるその様子は、自分が何故ここにいるか全く分かっていないようにみえた。


「マクレーン嬢、昨日の事を覚えていますか」

「昨日…?」

拘束を解きながら尋ねるフェリクスに、ミアーは首を傾げた。

「…昨日は…今日の魔術大会に備えて早く休もうと…」


「魔術大会?」

レナルドは思わず声を上げた。

「それはもう一ヶ月以上前の話だぞ」


「え…?」

「マクレーン嬢、では最後に覚えているのは?」

「え…あの…アルセーヌ殿下と対戦していて…」


「———あの時からの記憶がないのか?」

レナルドはイリスと顔を見合わせた。

「…ミアー様の魔力が変化したと感じた、あの時に呪いの術が発動したって事かしら」

「それでアルセーヌが…」


「呪い…?アルセーヌ殿下…?」

自分が何かをしでかしたらしいと察したミアーが顔を青ざめさせていると、クリストファーが尋問の役人を連れて戻ってきた。

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