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ずっと現実感がなかった。
時折変わる瞳の色も、高すぎる魔力も、巫女である証だと言われてきたけれど。
神の声を聞くという事がどういうものか分かっていなかった。
けれど王都に来て、ユーピテルの声を聞き、その力を身に宿して———そして女神の声を聞いて。
ようやく実感してきたのだ。
———自分は巫女としてあの地に…女神の眠るあの神殿へ行かなければならない。
その為に…必要ならばレナルドとは…
「行くというのは、イリス一人で?」
レナルドがイリスの髪を撫でながら言った。
「いいえ…お兄様や、他のシエルの生き残りの人達と…」
「すぐに行くの?」
「…それは…分からないわ。方法も分からないし、何年後になるか…」
「僕も行っていい?」
「え?」
イリスは視線をレナルドへと戻した。
「レナルドも?どうして…」
「イリスと一緒にいたいから」
レナルドは髪を撫でる手を止めた。
「イリス。…僕との婚約を解消しようと思っただろう」
思わず目を見開いたイリスに苦笑するように、レナルドは口端を歪めた。
「確かに、僕も君も厄介な事情を抱えている。でも、ずっと二人一緒にいられる方法もきっとあるから」
もう一度、イリスの頭をひと撫でするとレナルドはその撫でた所へ口付けを落とした。
「言っただろう、君にどんな秘密があっても僕はイリスが好きだし、結婚したいと思っている」
「レナルド…」
「———それとも、イリスは僕の事がそこまで好きじゃない?」
「そんな事は…」
視線を合わせてそう言うと、イリスは慌てて首を横に振った。
「じゃあ、イリスも僕と結婚したいと思ってくれているの?」
「…えっ」
見る間に赤く染まった頬に口付けると、レナルドはイリスを抱きしめた。
「イリス。大好き」
耳元で囁かれ、耳たぶに口付けされたイリスの身体が震えた。
「…レナ…」
それを抑えるようにさらに強く抱きすくめるとレナルドの腕の中から抗議の声が上がる。
「イリス…何があっても僕は君の傍にいる。…君を守るから」
「…ありがとう、レナルド」
腕を緩めるとレナルドはイリスの顔を覗き込んだ。
そのまま、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「…っ」
「ダメ?」
思わず顔を引こうとしたイリスを引き止めるように、その耳元へと手をかける。
観念したように、イリスは瞳を閉じた。
互いの唇が触れそうになるほど近づく。
コトン、と小さな音が響いて二人は慌てて身体を離した。
見るとテーブルの上に鳥の形をした紙があった。
「…お兄様だわ」
「———まさか…見張ってるのか?」
そんな事はないはず、と否定しようとしたけれど、あの過保護な兄の事だから可能性は捨てきれない…と思いながら、イリスは鳥を手に取るとそれを開いた。
「何て?」
「…殿下がそこにいるだろうから、一緒に馬車に乗せてもらって王宮まで来るように、ですって」
「王宮に?何故」
「昨日の事で手伝って欲しい事があるみたい」
手紙をレナルドに見せながらイリスは言った。




