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「王宮に居なくてもいいの?昨日の事で大変なんじゃないの?」
「ああ、今日は例の男達と、アルセーヌと一緒にいたミアー・マクレーン嬢とその父親の取り調べをやってる」
応接室に移動し、レナルドはイリスをソファに座らせるとその隣に腰を下ろした。
「他にも色々動きがあってね。僕も身の振り方を考えないとならないから、イリスと相談しようと思って」
「身の振り方?」
「———今回の件で、アルセーヌを王位継承から外した方がいいという声が出ているんだ」
「え…?」
昨日のアルセーヌが行方不明になった事件は、王宮内に大きな衝撃を与えた。
少し前からアルセーヌの行動は問題視されていたらしい。
無事戻ってきたものの、邪神に取り憑かれ怪しげな男達に連れ去られそうになったという事で、王の側近の一部から不安視する声が上がったのだという。
王となる者が、容易く操られる事があってもよいのか、と。
「アルセーヌはまだ目覚めないし、何故あんな事が起きたのか原因も対策も分からないからまだ何とも言えないけど…場合によってはアルセーヌは王に相応しくないとされるかもしれない」
そうなると、レナルドか二歳下のジュリアンのどちらかを王太子に、という事になる。
「僕は王になる気はないけど、王宮内は揺れてるから…今僕の意見を押し通し過ぎるのもなんだし」
王太子を決める期限は、ジュリアンが成人する五年後。
それまでにアルセーヌが信頼を回復出来るか、ジュリアンが王に相応しいと周囲に認められるかしないとならない。
「それでね」
レナルドはイリスの顔を覗き込んだ。
「もしもだけど、イリスは王妃になる可能性があるって言われたらどうする?」
「それは、あり得ないわ」
やや間があってからイリスは答えた。
「私は王妃になんてなれないもの」
「それは、身分の事?」
「それだけじゃないけれど…」
「———じゃあ、昨日の事は関係ある?」
レナルドの瞳が真っ直ぐにイリスを見つめた。
「ユーピテルの声を聞いた事、矢を射った事…それと王妃にはなれない事と、関係があるんだろう?」
しぼらくレナルドを見つめていたイリスが視線を逸らせるように目を伏せた。
「ねえ、イリス」
レナルドはイリスをそっと抱きしめた。
「僕はイリスが好きだ。君が何者でも、どんな秘密を抱えていても、君と結婚したいんだ」
「…レナルド」
イリスは口を開いた。
「私は…行かないとならない場所があるの」
「…どこに?」
「今はサルマント王国になっている…昔、シエル聖王国と呼ばれていた所へ」
「何のために」
「———前に〝シエルの悲劇〟について教わった事を覚えている?」
「確か…女神の加護を失って滅んだ国だったか」
「ええ。でも全てがなくなった訳ではないわ。女神への信仰を忘れていない者達は今も生きているの」
「……もしかしてイリスも…」
イリスは顔を上げるとレナルドを見た。
「私の母方の先祖はシエルの神官と…巫女だったの」
「巫女?」
「女神ジュノーの声を聞く事ができる、唯一の者よ」
ゆらり、とイリスの瞳の中が揺れた。
青い瞳の中に…黄色や緑といった色が現れる。
「その瞳は…」
「これは私が女神の声を聞く事ができる証。私は…百年振りに生まれた虹の瞳を持つ巫女なの」
レナルドはイリスの頬に手を添えるとその瞳を間近で覗き込んだ。
いくつもの色が混ざり合うその瞳は、吸い込まれそうなほど神秘的で美しかった。
「———イリスは…昔から神の声を聞いていたの?」
「いいえ…この間大神殿に初めて行った時が最初よ。あとは昨日と…それから、今朝」
「今朝?」
「夢の中で初めて女神の声を聞いたの。私が…女神の元へ戻るのを楽しみにしているって」
瞳を瞬かせると、イリスは視線を逸らせた。
「女神が望むなら、私は行かなければならないわ」




