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「失礼ですが…イリス様について調べさせて頂きました」
貴賓室にはイリスとクリストファー、レナルド、オレール、それに祭司長と二人の祭司がいた。
「それは先日の大神殿での事でですか」
「ええ、大神殿としてあのような現象は見過ごす訳にはまいりませんから」
祭司長はクリストファーを見た。
「お二人の母方の実家、スミアラ家は神官の家系なのですね。オービニエ領の近くにある、大神殿の管轄外になる神殿の」
「大神殿の管轄外?」
レナルドが聞き返した。
「そんな事があるのか?」
この国の各地にある神殿は全て大神殿が統轄していると聞いていた。
「大神殿でも全ての神殿を把握している訳ではありません。領主が個人的に建てたり、この国が成り立つ前からあるような古くて小さなものなどまでは管理しきれません。スミアラ家の仕える神殿は後者の様ですが」
レナルドにそう答えて、祭司長は再びクリストファーへと視線を戻した。
「かなり古い神殿という事は分かったのですが、創建や由来といったものは分かりませんでした。———古いといえばクリストファー様は古い神について詳しいようですし、神の言葉を伝える力も古にはあったと聞きます」
祭司長はイリスへと視線を送った。
「もう一つ。珍しい事にスミアラ家では女性も神官を継ぐそうですね。お母上も元々は神官だったとか」
レナルドはイリスを見た。
青い瞳は何か考え込んでいるように、じっと宙の一点を見つめている。
「それで、あなた方が知りたい事は分かったのですか」
「いいえ」
クリストファーの言葉に祭司長は首を振った。
「どうやらお二人は古い神や力といったものに関わりがあるらしい、と推測する事しかできません」
「確かに母は神官でしたが。昔の話です」
そう言うと、クリストファーはイリスの頭を撫でた。
「イリスが生まれてすぐの頃、ゆくゆくは神官としたいと向こうから話があったそうですが。魔力が高すぎて不安定だったので立ち消えになったと聞いています」
「イリスを…神官に?」
「正直、イリスの力は分からない事が多いです。神の声を聞くというのも、どう関係あるか」
「クリストファー様でも分かりませんか」
「そうですね」
祭司長に向かってクリストファーは答えた。
「そう言って誤魔化してきたんだね」
二人の話を聞いてフェリクスは頷いた。
「誤魔化しではありません。言える事だけを言ったんです」
「隠し事もしているんだろう」
フェリクスはクリストファーからイリスへと視線を移した。
「力を使って、身体は大丈夫かい」
「直後は魔力の使い過ぎで辛かったけれど、すぐに治ったわ」
「それは良かった。神の声が聞こえた事を、大神殿は何か言っていたかい」
「———それについてはまた改めて調べさせて欲しいと」
「そうか。スミアラの家にも伝えないとならないね」
ふう、とフェリクスは息を吐いた。
「王宮も大変だったよ。アルセーヌ殿下といた男達の取り調べに魔術局も駆り出されてね」
「魔術局が?」
「怪しい術を使うようなんだが、我々の魔術と違うから中々尋問が進まないんだ。クリストファー、〝スィスターン〟という言葉に聞き覚えはあるかい」
「———古い王国の名前でしょうか。西の方にあって短期間で滅んだ」
「連中はそこと関わりがあるらしいという事までは何とか分かったんだ」
「黒魔術や呪法といった怪しい術が盛んでしたね。殿下に取り憑こうとした邪神アポフィスも信仰されていた筈です」
「ああ、流石だね。明日はお前にも取り調べに同席してもらおうか。誰にも分からないし文献も見つからなくてね」
「この国の者達が知らな過ぎるだけでは?」
「アランブール王国はユーピテル神の力が強いからね、他の神の事は興味がないんだよ」
フェリクスはそう言いながら、イリスの頭を撫でた。
「力を使ったから疲れただろう。明日は学園も休みだし、ゆっくりお休み」
「はい、お父様」
イリスは頷いた。




