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虹の瞳を継ぐ娘  作者: 冬野月子
第3章 呪い

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07

それは以前この神殿で聞いた声だった。


(…ユーピテル様…?)


『よくないものが王子に取り憑き、我の加護を侵食してきているのだ』

(よくないものとは…?)

『異国の神よ。邪神ともいう。あの小娘に取り憑いていたものが王子を狙っておるのだ』


「邪神?」


「イリス?」

思わず声に出してしまったイリスを、レナルドが訝しげに見た。

「どうした」

「あ…ええと…」


『早く王子をここへ連れてこないと手遅れになるぞ』

(でも…どこにいるのですか?)


「イリス様」

祭司長がイリスの前に立った。

「今、〝邪神〟と言われましたか」

「…異国の…邪神が…アルセーヌ殿下に取り憑こうとしているって…」

「何?」

「早く…ここに連れてこないと…手遅れになると…」

「———何故そんな事がお分かりに?」

「…声が…頭の中で…」


『巫女よ、そなたの力を貸せ。神の弓と呼んでおる神器がある。それが王子の元へ導こう』


「〝神の弓〟を貸して下さい!」

イリスの言葉に祭司達が騒ついた。


「すぐに持ってこい」

「…はっ」

祭司長の命に二人、慌てて部屋を出て行く。




「イリス」

レナルドはイリスの肩を掴んだ。

「どういう事だ?アルセーヌが取り憑かれる?」

「ええ…」

「誰がそんな事を言った?」


「———ユーピテル様よ」

「ユーピテル?」

「…つまり、イリス様は大神の声が聞こえたという事ですか」

祭司長の言葉に、イリスはこくりと頷いた。

「あの…アルセーヌ殿下と一緒にいた令嬢が…邪神に取り憑かれているって。それで、次は殿下を狙っていると…」


「祭司長」

祭司の一人が小声で囁いた。

「本当でしょうか、神の声を聞いたなど…」

「だが〝神の弓〟の存在を知っているのは祭司だけだ」

存在はしているけれど、使う事も、使い道も分からない、古より伝わる道具。

神の弓はそんな神器の一つだ。

大神殿の中でも見た事がある者の少ない、王族ですら知らないその存在を、伯爵令嬢が知っているはずもない。



「お持ちしました」

しばらくして箱を抱えた祭司達が戻ってきた。


それは白い、武器として使うには小さい弓だった。

弦は張られておらず、硬い、石のような素材で弾力もない。


「これをどうなさるのですか」

「…お借りします」

イリスは嵌めていた腕輪を外すと、弓を左手に取り、天井へと向けた。

右肘を曲げ後ろに引き手を握り、弓矢を構える姿勢を取る。



『我の言葉は神の言葉』

凛とした声が響いた。


『光よ。ユーピテルの矢となり、翼となれ』

イリスの右手が光ると、そこに白い矢が現れた。

『ユーピテルが加護するアランブールの王が長子アルセーヌの元へ導け!』

握り込んだ手を開くと弓で放たれたかのように矢が飛び、宙で白い鳥へと変化した。


「何…?」

「これは…」


「この鳥がアルセーヌ殿下の元へ導きます」

ざわめく周囲を見渡してイリスは告げた。

「間に合わなくなる前に、早く追って下さい。…なるべく大勢の方がいいと思います」


「神官戦士達を向かわせろ!」

ふわりと鳥が部屋の外へと出て行くと、数人の神官達が後を追った。

「…僕の護衛も連れて行け!」

レナルドは叫んでクーパーを見た。

「王都で捜索中の騎士達も合流させろ」

「はっ!」


「———っ…」

室内が慌ただしくなる中、激しい目眩を覚えてイリスは目の前が真っ暗になるのを感じた。


「イリス様!」

オレールの声に振り返ったレナルドが、大きくふらついたイリスの身体を慌てて抱き留めた。

「イリス!大丈夫か!」

「…魔力…使いすぎて…」

「イリス!」

腕の中で意識を手放したイリスを、レナルドは強く抱きしめた。

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