05
予感通り、事態は悪い方へと流れてしまった。
アルセーヌが二年生の女生徒と二人きりで親しくしている、という噂はあっという間に学園内に広まっていった。
廊下を歩いていたイリスは立ち止まった。
フランソワーズが窓辺に寄りかかり、悲しげな顔で窓の外を見つめていた。
フランソワーズの視線の先に目をやると、アルセーヌが件の令嬢といるのが見えた。
最近では人目に晒されるような場所でも二人でいる姿をよく見かけるようになっていた。
ゆるりとフランソワーズがこちらを向いた。
「イリス様…」
泣き出しそうな、ほっとしたような笑みを浮かべるフランソワーズにイリスは歩み寄った。
「…大丈夫ですか」
青白い顔は、少しやつれたように見えた。
「…私……」
「イリス」
声を掛けられ、振り返る。
「フランソワーズ嬢も。少しいいか」
レナルドとオレールが立っていた。
「アルセーヌに聞いてみた」
四人は談話室に来ていた。
密会防止の為に廊下側の全面に大きな窓がはめ込まれているが、声が漏れないようにオレールが防音魔法を施した。
「あの令嬢だが、魔術大会での事を謝りたいと言われて会ったのが最初らしい。その後、魔法の話で気が合って会うようになったそうだ」
「…だからといって…あんな二人きりで、疑われるようなら行動を取っていいのかしら」
「僕もそう言ったら別にやましい事はしていないと、にべもなかったよ」
ふう、とレナルドはため息をついた。
「———どうも、様子がおかしいんだよな」
「おかしい?」
「話している途中でぼーっとしたり、会話も…上手く噛み合わない時もあったり。いつものアルセーヌとは違うんだ。…城の連中も違和感を感じているようだ」
「それはいわゆる恋煩いという…」
言いかけた途中でレナルドに睨まれて、慌ててオレールは口をつぐんだ。
「…私、は———」
フランソワーズは膝の上でギュッと手を握りしめた。
「幼い時から…アルセーヌ様をお慕いしていますけれど…アルセーヌ様にとっては…所詮、政略結婚の相手なのですわ…」
ぽたり、と握りしめた手の上に雫が落ちる。
「アルセーヌ様が…どなたをお慕いになっても……」
「フランソワーズ様」
身体を震わせるフランソワーズを抱きしめると、イリスはオレールを見た。
「魔術大会での魔力の暴発の原因は分かったのですか?」
「…いえ、まだだと」
「イリス?それが何か…」
「あの時…魔力が変化したように感じたの」
イリスはレナルドに顔を向けた。
「魔力が変化?」
「魔力はその人によって質というか…気配みたいなものが異なるのだけれど、あの暴発が起きる直前…対戦相手のそれが変わったように感じたの」
「…それが、あの暴発の原因と関係があると?」
「もしかしたら。それに…」
オレールの問いにイリスは言い淀んだ。
「それに?」
「…何か、よくない感じがするの」
イリスは一同を見渡した。
「よくない感じ?」
「上手く表現できないのだけれど…何かよくない事が起きるような…嫌な感じがするの」
「父に…祭司長に報告します」
オレールが言った。
「イリス様の予感は大事にすべきと思います。それに王族に何かあれば大神殿としても見逃せませんから」




