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虹の瞳を継ぐ娘  作者: 冬野月子
第2章 王都と学園
15/66

03

「え…?」

見回すと真っ白な空間だった。

隣にいるはずのレナルドも、目の前の祭壇も…何もなかった。


「ここは…」

『そなたの心の中だ』

「心の中?」

『話がしたいと思っていたが、そなたは私の巫女ではないからな。ここまで来てもらわないとならなかったのだ』

「———ユーピテル様…?」

周囲を見回すイリスの目の前に、光の塊が現れた。

ゆらりと揺れながら、人の様な形をとる。

「話、とは…」


『他でもない、我が妻の事だ』

「…女神の…」

『あれは長い眠りについている。百年前からだ』

イリスは息を飲んだ。

「…それは…あれ以来ずっと…ですか」

『そうだ。我らは永き時を持つとはいえ、いい加減あれの顔も見たいし声も聴きたいのだ』

少し拗ねたような、まるで人間のような、相手への愛情を感じさせる声にイリスは思わず笑みをもらした。


『百年ぶりにやっと〝虹の瞳〟を持つ娘が生まれた。———巫女イリスよ、我が妻の眠りを覚ます事ができるのはそなただけだ』

「…どのように…ですか」

『鍵はそなたの中にある。あれの眠る場所で、鍵を開けて欲しい』

「眠る場所…それは…」

『かつて神殿があった、かの地であれはひとり、眠っているのだ』


「何故…女神は眠りについたのですか」

『———あれは疲れたのだ』

目の前の光が大きくなると、イリスを包み込んだ。


『ジュノーが目覚めるまで、代わりに我が加護を与えよう。巫女よ頼んだぞ』


イリスの身体に吸い込まれる様に光は消えて行った。





「イリス!」

レナルドの声にイリスは我に返った。

「あ…レナルド…?」

「大丈夫かっ」

「…今……?」


「突然イリスが光に包まれたんだ」

不安な表情のレナルドがイリスの顔を覗き込んでいた。

「光…」

先刻頭の中で響いていた言葉と光がよぎる。

———あれは私にしか聞こえなかったんだ。

自分に〝そういう力〟があるのは知っていたが、実際に声を聞いたのは初めてだった。


「祭司長、今の光はなんだ」

ぼうっとした様子のイリスの身体を抱き寄せて、レナルドは神官達を見回した。

祈りを捧げていると突然眩しさを覚え、目を開くと隣のイリスが光に包まれていたのだ。


「…さあ…このような事は聞いた事がなく…」

祭司長も戸惑ったような表情を見せた。

「イリス、どこか具合が悪い所はない?」

「…大丈夫よ」

再び顔を覗き込んだレナルドに笑みを向ける。

「本当に?」

「…少し身体が熱い気はするけれど」


「大丈夫じゃないじゃないか!」

加護を与えると言われたからそのせいだろう。

イリスはそう思ったのだが、事情など知らないレナルドは焦ってイリスの額に手を触れた。

「…本当だ、熱がある」

言うなりレナルドはイリスを横抱きにして抱き上げた。


「っレナルド…!」

「横になれる場所はあるか」

「大袈裟だから…」

「何かあったらどうするんだ」

「…休息室へ案内して差し上げろ」

祭司長の指示で神官達がバタバタと動き出すと、イリスを抱きかかえたレナルドを拝殿の外へと連れて行った。



「———祭司長」

残った祭司長に、傍に控えていた祭司が声をかけた。


「過去、似たような件がなかったか調べろ」

祭司長は小声で告げた。

「それからあの少女の素性についても詳しくだ」

「はっ。…これは神殿にとって凶事でしょうか…吉事でしょうか」

「お前は気付かぬか?この部屋の空気に」

「空気、ですか」


「少なくとも我が大神はあの少女の存在を喜んでおられるようだ」

口元に笑みを浮かべて祭司長はそう答えた。

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