初日 東京へ(3)
たしかにシゲルさんの中に、もしかしたら成りえたかもしれない自分の姿をみていた。
でも客観的に見ると二人は、まったく違う人間なのかもしれないし、どちらにしてももう確かめようもない事だった。
最後に僕は、前から聞いてみたかった問いかけをした。
「どうして結婚しないんですか?」
シゲルさんは、少し考えてから、言った。
「感じ、だと思うよ、それは」
「感じ、ですか?」
「うん、大学に入って初めて建築の図面をひいた時とか、初めてギターを弾いた時、なんだかいけそうだな、って思ったんだ、自分は。そこには、なんの根拠も無かったんだけど・・・けどそれは、まるっきりでたらめというわけでも無くて、結局そういう感じが有ったから、自分は建築の道に進んだのだと思う。そしてギターもいまだに続けているんだと思うよ」
「・・・だから?」
「だから、僕は女の子と付き合った時に、いけそうだって、感じを持った事が無くて・・・ずっとやっていけるっていう感じをさ。だから自分はまず、そういう感じを持てる女性を、捜すところから始めないといけないんだ。まあ、見つける自信も無いんだけどね」
シゲルさんは笑った。
僕はその答えに満足した。
「泊まる所は有るの?」
居酒屋を出る時、シゲルさんに聞かれたので、ホテルを予約してあります、と答えた。
ホテルにチェックンすると、とりあえずテレビをつけ、ユニットバスに湯を張った。そして湯がたまるのを待つ間に、弟に電話をした。弟とは明日会う約束をしていた。七歳下の弟は東京の大学に通っている。
「――おかけになった電話番号は、現在、電波の―――」
電話はつながらなかった。弟は、しょっちゅうそうだった。明日もう一度電話してみることにして、風呂に入り、歯を磨き、ベッドにもぐり込んで、死んだように眠った。