たのもー!役所!
入るとそこはリアル役所のファンタジーバージョンと言ったらわかりやすいのだろうか。
そんな場所だった。
窓口受付がいくつも並び、入口で機械から番号を受け取り、バーニャさんと待合所で待つ。
アナウンスとともに空中に浮いたモニターに待ち番号と場所の番号が映し出されたら、そこへ向かうようだ。
そこはリアルとそう変わらない。
だが種族によって体格の差が大きいからだろうか、機械の位置が普通ところ、かなり低いところと高いところにあったり、椅子も同様に大きさが違うものが用意されている。
そしてリアルに比べると、堅苦しさがなく、温かみを感じさせるのは基本的に木材を使っているからだろうか。
リアルとの違いを楽しみながら待合所で待っていると、私の番号が呼ばれた。
ドキドキしながら窓口に向かうと、茶色い垂れ耳の犬の獣人のお姉さんが待っていた。
「おはようございます。担当のサリーです。本日はどうされましたか?」
ゆっくりと優しい声色に少し緊張がほぐれる。
「おはようございます、えっと……そのですね……」
「メリアちゃん、説明が難しいようだったら変わりに私がしましょうか?」
「わ〜バーニャさんありがとう。私じゃどう説明したらいいかわからなくて……お願いしますっ」
「はい、任されました。……今日ここに来たのはヌーに関することよ。この子がワンワン広場で幸運のヌーにテイムを持ちかけられたみたいで、一応役所に報告した方がいいと思ってここへ連れてきたの。テイムは保留にしてもらってるわ」
少し声を小さくしたバーニャさんが伝えると、サリーさんは目を見開き、手で口を押さえている。
「幸運のヌーと……テイム……」
「びっくりするわよね。私も聞いた事ないわ。それで、どうしたらいいかしら」
「わ、私では判断しかねますので、上の者と相談してきます。少々お待ちいただけますか?」
バーニャさんが了承すると、サリーさんは慌てて奥へ引っ込んだ。
「バ、バーニャさん。大丈夫かなあ?」
思っていたよりも大変な出来事なんだと感じ取って不安になった私はバーニャさんを見つめると、にっこりと安心させるような笑顔と共に手を繋いでくれる。
「大丈夫よ、おばあちゃんがついてるからね。」
心強い味方に感謝しながら、しばらく待っているとサリーさんが戻ってきた。
「お待たせしました。所長のマルコが個室でお話を聞かせてほしいとのことです」
こちらへと案内してくれるサリーさんについていく。
関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉をぬけて、最も奥の他よりも豪華な作りな扉を開けると、男が待っていた。
40代くらいだろうか真面目そうな顔立ちをしており、ピシッとしたシャツを身につけている。
「おや、バーニャじゃないですか!お久しぶりです」
「ええ、マルコ。お元気?」
バーニャさんと所長さんは知り合いのようで、さっきまでの少し緊張した空気が散った。
そしてお互いに軽い近況報告を終えると、こちらに顔を向けてくる。
「それでバーニャ、そこの可愛らしいお嬢さんを紹介いただけますか?」
「メリアちゃんよ。さっきワンワン広場で知り合ったの。異世界からきたばっかりみたいだから私がここへ案内したのよ。」
「初めまして、メリアです。」
「やあ、私はマルコ。この役所で所長を務めている者だ。よろしく。」
にこやかに握手を交わすと、さて…とマルコさんは話し始めた。
「サリーから聞いた話によると幸運のヌーにテイムを持ちかけられただとか。それは間違いないかね?」
「間違いないです」
「ふむ……それでそのヌーはどこに?」
「あ、頭の上に。ヌー出てきて」
呼びかけると、頭の上からホーと鳴き声がし、ふわふわと目の前にヌーが現れた。
飛んでいる姿はまるで綿毛のようである。
手を出すと手のひらに止まったので指でうりうりと撫でてやると目をふにゃーっと細めて気持ちよさそうだ。
「なんと……驚いた」
マルコさんはポカーンとした表情でヌーを見つめていて、サニーさんははっと息を飲んでいる。
「マルコ驚くのはわかるけど、しっかりしてちょうだい。これからのことを話したいのよ。」
「あ、あぁ。すまない。テイムは保留とのことだが、するのは構わない。というより合意のテイムに他者がとやかくいう権利はないのでな」
それを聞いて安心する。
これからもこの可愛い子と一緒にいれるんだっ!
「よかったあ。ありがとうございますっ」
「あぁ。ただ、ヌー……特に幸運のヌーは目撃すら珍しい上にテイムなんて聞いたこともないんだ。騒ぎには確実になるだろうし、危険に晒されるかもしれない。なにか対策をとらないと」
「そうね。メリアちゃんに何かあったらと思うと恐いもの。万全の対策をお願いしたいわ」
そうして沢山の意見を交わしながらマルコさんとバーニャさんがあーでもないこーでもないと真剣な表情で話し合う。
私のことなんだから私も参加したいけど、この世界のことはちんぷんかんぷんである。
せめて邪魔しないように、静かに見守る。
そして話し合った上に出た、とりあえず今のところできる対策が、
・街の中ではヌーに姿を隠すこと
・信用出来る人にだけ教えること
・テイマー協会に登録すること
だった。
1つ目の姿を隠さないといけないのは少し可哀想だなあと思いながらも、危険に合わせないためとヌーに伝えるといいよーと言うようにホーと鳴いた。
あまり気にしていないようだ。
2つ目は元からそのつもり。
3つ目もその予定だったからいいけれど、なんでだろう。
疑問に思い聞いてみると、テイマー協会に協力要請、そしてなにより登録者限定で『従魔の守り石』というアイテムが買えるらしい。
『従魔の守り石』は持ち運べる従魔用のお部屋で、はいってもらうと微力ながら回復を早める効果もあって、テイマーには必須アイテムらしい。
べ、便利すぎる!
それは最優先で手に入れなきゃだ!
「マルコさん、サリーさんお世話になりました。さっそくテイマー協会行ってみます」
こうしちゃいられないと2人にお礼を言って、早くテイマー協会に向かおうとした時、サリーさんが声をかけてきた。
「メリア様、冒険者登録はされましたか?」
……冒険者登録?