始まりの街ワンワン
「わあああ!綺麗……」
思わず独り言をもらしてしまうほど、素晴らしく綺麗な場所だった。
大きな噴水は光を浴びてキラキラと光っている。
青々とした芝生にはうさ耳の親子がピクニックをしていたり、地面に着きそうなほど長い髭を生やしたご老人がヨガをしていたり、ギターで弾き語りをしているエルフなんかもいてそれぞれが自由に過ごしている。
時間がとてもゆったりと流れている感じだ。
しばらくベンチでぼーっと眺めていると、2人分空けて隣におばあさんが座った。
鞄からパンくずが入った袋を取り出すと、少し離れた地面に撒いた。
するとどこからかフクロウのような見ためだが手のひらサイズの薄緑色の鳥が3羽飛んできてパンくずをつつき始めた。
ホッホッホッとまるで笑っているかのような鳴き声と見た目の愛らしさに思わずクスクスと笑っていると、おばあさんに話しかけられた。
「おはよう。お嬢さんもヌー達にあげてみる?」
「おばあさんおはようございます。この鳥さん達ヌーって言うんですね。あげてみたいです!」
おばあさんはにっこりシワを深めると、メリアの手のひらに少しパンくずを分けてくれた。
少しつまんで撒くとまた新たなヌーが飛んできた。
そのヌーは他のヌーと違い薄ピンク色をしている。
パクパクと落ちた分を全部食べると、足りなかったのか飛んできてメリアの手のひらから直接食べ始めた。
ホッホッホッと機嫌が良さそうなので人差し指でそっと撫でてみると気持ちよさそうに擦り寄ってくる。
「あらあらまあ。珍しいこと。幸せのヌーがこんなに人に懐くなんて」
目を丸くしたおばあさんの話によると、このヌーという鳥は鳴くと魔力を大地に溶かすのだという。
ヌーが沢山いる街は魔力で溢れ、恩恵を受けられるため、とても大切にされる。
だが、自由命な鳥なので無理に捕まえるとすぐ死んでしまうのだそうだ。
その中でも希少な薄ピンク色のヌーは幸せのヌーと呼ばれている。
普通のヌーは魔力を大地に溶かすが、幸せのヌーは人に溶かすからだそうだ。
鳴くだけで魔力回復をしてくれる鳥。
欲にかられた者達がどうにか飼えないかと試行錯誤したが、全てすぐ死んでしまったらしい。
数が少ない上に警戒心もかなり強い。
「私はそう認識していたんだけどねえ。お嬢さんには不思議な魅力があるのかもしれないわねえ」
私に人差し指でうりうりとされて完全に蕩けているヌーを見ながら感心したようにおばあさんは言った。
「この子が特別人懐っこいのかなあ?可愛いなあ」
ついにはお腹まで見せてくるヌーにメロメロになりながらしばらく愛でていると、ポーンッといった軽快な音と共にウィンドウが開かれた。
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【ヌーがテイムしてほしそうです。テイムしますか?YES or NO】
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「テイム……?」
ヌーを見るときゅるるんとした目でこちらを見つめてくる。
可愛い。
でも、希少なヌーをテイムしてもいいんだろうか。
「おばあさん。ヌーがテイムして欲しいらしいんですけど……大丈夫かとかわかりますか?」
「ヌーがテイムを!?」
穏やかそうなおばあさんにしては大きな声で聞いてくる。
そして少し考え込んでいる。
……やっぱりだめなのかな。
こんなに可愛いし、懐いてくれてるからこれからも一緒にいたいんだけどな。
「コホンッ。取り乱してしまってごめんなさいね。テイムはお互いが納得していれば自由だから構わないとは思うけれど、ヌーは特別な生き物だから一応役所へ報告した方がいいとは思うわ。あとテイマー協会へも行くことをオススメするわ」
「役所とテイマー協会……」
ってどこにあるんだろう?
それになんだかお堅そうなイメージだし、行くの怖いなあ。
「お嬢さんは異世界人さん……よね?ヌーのことを知らなかったみたいだし。もしよかったら、私が案内しましょうか?」
ポーンッ
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*クエスト
【住人に街を案内してもらう】
この世界の住人に始まりの街ワンワンを案内してもらおう。
(プレイヤーLv1、ゲーム開始から24時間以内に限ります)
*報酬
5000コイン
MAPの解放
住人からの好感度up
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わわっ!初クエスト!
こんな感じなんだね。
5000コインは最初から貰える額と一緒だからこれで一気に手持ちは倍!
いいことしかないし、もちろん受ける。
「助かります。よろしくお願いしますっ!」
「ふふふ。こちらこそ。ヌーは私にとって特別な鳥だから、テイムを申し込まれたお嬢さんのことが気になるしね。そういえば、いつまでもお嬢さんじゃ失礼ね。私はバーニャ。お名前聞いてもいいかしら?」
「メリアです。バーニャさん、お世話になります」
「メリアちゃんね。じゃあさっそく役所に行きましょうか」
そう言うとバーニャさんがすくっと立ち上がったので、私も慌てて立ち上がる。
手のひらで蕩けていたヌーは驚いたのかホッと少し飛び跳ねた。
「わわっ驚かせちゃってごめんね。もう少しテイムは待ってね。可愛いお名前も考えるからね。わかってくれると嬉しいなあ」
話しながらゆっくり撫でてあげると安心したようにホーとひと鳴きしてまた手のひらの中で落ち着いたようだった。
「ヌーは言葉を理解する賢い鳥だから、わかっていると思うわよ」
そうバーニャさんが言うとヌーは羽を上にあげてホッと返事をした。
ねっとバーニャさんは茶目っ気たっぷりにウインクをする。
とっても可愛いおばあさんである。
「さて出発、の前にヌーが懐いているところなんて見たら街の人がびっくりしちゃうからねえ。目立たないようにできるかい?」
「確かに……。ポケットはないし、手で隠すしかないかな?それでもいい?」
ヌーに聞くと首をふるふると横に振る。
そしてぱっと消えた。
「えっ!?」
びっくりして声を上げるとホッ?とまた姿を現した。
まさか……
「透明になれるの?」
そう聞くとホーと誇らしげに鳴いてまた消えた。
透明なヌーは頭に乗ることにしたようで、頭に少しの重さを感じた。
なんとも便利で賢い鳥である。
そうして私達は役所に向けて歩き出したのだった。