隠し洞窟⑧
同じことを繰り返すというのはかなり精神を使うらしい。
現実では指1本動かしたわけではないというのに、どこか疲労感が残っている。
お昼ご飯を食べて、眠って眠ってすっきり回復した頃にはもう陽は落ち始めていた。
予定より寝ちゃったなあ。
あの状況であまり起きるのが遅いと白さんが心配するかもしれない。
慌ててDIVE INする。
目を開けると柔らかい日光が私を包んだ。
ランラン草を採取した場所に移動したようだ。
傍で地面に突っ伏し、祈るように手を組んでブツブツと何かを呟いている白さんという存在がいなければ、清々しい目覚めと言っても過言ではなかっただろう。
「おはよう」
思ったより出にくい声に、喉を痛めていたことを思い出し現実とのギャップに驚く。
「あぁ、私の願いを初めて聞いてくれた名も知らぬ神よ。感謝します。……心の臓が止まっていたんだよ。私のせいで恩人を死なせてしまったのかと思った」
生きていることを確かめるように握られた手が微かに震えている。
私が考えていたよりも、心配させてしまっていたらしい。
そういえば異世界人ということは伝えていなかったかもしれない。
眠っている間は心臓が止まるんだ。
何だか悪いことをしたなあ。
「ごめんね。私異世界人だから眠ったらそうなるみたい。伝え忘れてたね」
そう伝えると白さんはすんなり納得したようだった。
やっぱり異世界人という存在はこの世界に生きる者に浸透しているみたいだ。
「そうか、神が僕の願いを聞くなんておかしいと思ったよ。まあ君が無事ならなんだっていいんだ。よかったよかった」
心底ホッとしたように言うから、その言葉の悲しさと嬉しさで変になってしまった顔を俯いて見られないようにした。
慌てて話題を変える。
「そういえば場所、移動したんだね」
「ああ、あそこはいい思い出がないからね。勝手に運んでごめんよ」
「それはいいんだけど、これからどうするの?」
ようやく掴んだ自由をどうするのか気になった私はそう尋ねた。
「そうだなあ。どうしようか。なんでも出来るとなると迷うものだね。君はこれから予定はあるの?」
顔を傾けて白さんは聞いてくる。
逆に質問されてしまった。
予定かあ……。
「んーこれといってはないんだけど、行ったことない場所に行ったり美味しいもの食べたりしたいかなあ」
「ふうん。じゃあそれに僕がついて行ってもいいかい?恩返しもしたいしね。僕はそれなりに使えると思うよ」
名案だ!と言ったように弾んだ声で提案してくる白さんは楽しそうだ。
「いいけど、白さん大っきいから街には入れてもらえないかも」
なんせ街で見たどの種族よりも大きい。
歩くスペースは車道くらいしかないのではないだろうか。
そんな心配をしていると、「ああ、それなら」と白さんがしゅるしゅると縮んでいき、わたんと同じサイズにまで小さくなった。
それを見て目を白黒させていると、説明してくれる。
「体が大きい種族は大体『縮小』か『擬態』持ちなんだよ。僕は『縮小』持ち。これなら街にも入れるだろう?」
問題は無いよねと白さんは得意気に口角をあげた。
何だかその態度が可愛くてクスッと笑ってしまう。
こうして私は新たなお友達と行動を共にすることになったのだった。
わたんを右肩に、白さんを左肩に乗せて洞窟を抜け出す。
やっぱり空の下に出て、体いっぱいに日光を浴びるととても気持ちがいい。
私は体をぐっと伸ばし、わたんは周りを気持ちよさそうに飛んだ。
そして、白さんは「青が好きだったことを思い出したよ」と空を見上げて嬉しそうに笑った。




