Cafe 猫の足跡
夜ご飯に政にぃ特製カレーライスを食べて、すぐにまたインする。
今度は何しようかなあ。
またレベル上げしに行こうかなあ。
そう思いながら表通りを歩いていた時だった。
「そこの女の子!避けて避けてー!」
そう声をかけられた時にはもう私は地面に転がされ、なにか息の荒い生き物に上に乗られ顔を舐め回されていた。
「こら、ベス!ダメやろ!ごめんな!ほんっまにごめんな!」
無事救い出されたかと思えば、今は謝り倒されている。
ベスこと、大きく毛むくじゃらな犬のような生き物が私に乗っかってきたらしい。
今もまだ私を狙っているのか、リードをひっぱりまくり、飼い主らしき女の人を困らせている。
私が頭を撫で、ようやくベスが足元で落ち着いた頃には飼い主である猫獣人のランドリーさんと少し仲良くなっていた。
「メリアちゃん、ほんまごめんなあ。いつもはこんなことしないんやけど……。近くにうちの店あるからお詫びになんか奢らせてーな」
ガバッと私の背の高さより低い位置まで腰を折って再度謝ってくる。
目の前でオレンジ色の短い髪がぴょんぴょん跳ねている。
それがなんだか妙に可笑しくて、いつもならもっと警戒するのだけれどゲームの中ということもあって、そのお誘いに乗ることにした。
ランドリーさんについて裏路地に入って行き、着いたのはひっそりとしている隠れ家的カフェのようだ。
小さな小さな木の看板には『Cafe 猫の足跡』と書かれている。
「さっ、はいってはいってー!」
ランドリーさんに誘われるがままにそこにはいると、珈琲の香りが、オルゴールの音色が、アンティークな雰囲気が迎え入れてくれた。
とてもお洒落なのに落ち着く不思議な空間だ。
まだ開店前だったのだろうか、店員も客も1人も居ない。
木目が美しいカウンターに座ると、ランドリーさんにメニューを渡される。
軽食やドリンクメニューが主のようだ。
聞いたことがないものが殆どで、わかるのは珈琲やミルクぐらい。
「えっと、ランドリーさんのおすすめをお願いします」
わからない時はおすすめを頼むと失敗しにくいし、お店の自慢が出てくるからお店の味がよくわかる。
政にぃに教えてもらった方法だ。
そう言うとランドリーさんは少し瞳孔をキュッとしぼってこちらを観察してくる。
そしてニッと笑うと
「ウチのおすすめ、やね!りょうかーい」
と言って奥に引っ込んだ。
なんだか含みのある言い方だったけど、変なものは出さないよね……?
少し心配になってソワソワしながらしばらく待っていると、ランドリーさんがケーキと飲み物、そして分厚い古い本を脇に挟んで戻ってきた。
「お待ちどーさん!イチロンをたっぷり使ったケーキとミルミル茶。ウチのお気に入りセットや」
美味しそう!まずは赤と緑のマーブル模様の果物?とクリームが沢山使われたケーキから頂く。
……うん!これ苺とメロンだ!
甘酸っぱさととろりとした食感がとても美味しい。
クリームもこんなに沢山使われているのに、くどくなくてとても調整されたケーキなのがよくわかる。
一緒に出されたミルミル茶ともよく合うなあ。ミルク味が強いのだが、さっぱりとした後味だ。
1口1口に感動しながら食べているとじっと視線を感じた。
そちらをそろっと確認してみるとランドリーさんがニコニコとこちらを見て笑っている。
うっ……ちょっとはしゃぎすぎたかな、恥ずかしい。
「いや〜メリアちゃんめっちゃ美味しそうに食べてくれるなあ。……気に入った、気に入ったで!その様子やと偶然なんやろうけど、合言葉もゆーたしな」
合言葉?なんのことだろう……
ランドリーさんはコホンと1つ咳払いをすると、先程までの陽気な雰囲気を引っ込めて真面目な顔付きになる。
「情報屋CAT EYEへようこそ。猫の目はいつでもどこでも見ています。あなたの知りたいこともきっと見ていることでしょう。……さて、何か知りたいことはありますか?私、ランドリーが知っていることならばお応えしましょう」
情報屋?猫の目?
全くついていけずポカーンとフリーズしてしまう。
口も空いていたかもしれない。
するとランドリーさんが真面目な顔を保てなくなったのか、ぶっと吹き出し、変な顔で笑う。
「ごめんごめん。いきなりやとそうなるわな。やー最初くらい真面目にしよかおもたけど、無理やわこれ。えっとなーウチ情報屋みたいなことしとんよ。このカフェは趣味と窓口みたいなもん。んで、合言葉の『ランドリーのおすすめ』って注文してくれたお客さんに情報売っとるってわけ。」
な、なるほど……?
「あーまだ理解しとらん顔やねぇ。初回やし、ベスのお詫びもあるしタダで教えたるよ。なんか知りたいことないん?」
知りたいこと……知りたいこと……。
知らないことの方が多すぎて、決められない。
「せやなあ。したいこと、でも構わんよ。強くなりたいとかコイン稼ぎたいとか」
「強くなりたいしコインも欲しいです!」
まさにしたいことだったため、条件反射のように返事をしてしまう。
「メリアちゃんは正直やなあ。そういうの嫌いやないよ。じゃあ始めよか」
にししっと笑ったあと、ランドリーさんはあの古びた本をテーブルに置くと、どこからか取り出した杖を構え、本をトントンと軽く叩く。
「聞いとったな?記録の本。『ランドリーの名の元に命ずる。メリアの願いに合うものを示せ』」
するとパラパラと本が独りでに捲れていく。
そしてピタッと何も書かれてないページに止まるとじわじわとインクが浮き出し、目の前が見えなくなるほどの光に包まれた。