絡まれる
「可愛いねー天族?装備的に始めたばっかっしょ?お兄さんの知り合いも天族でさ、色々教えてあげれると思うんだよね。これから暇?よかったらお兄さんがレベル上げ手伝うよ。あっ俺はジェネシス・ブラック。君の名前は?いやーそれにしてもまじ可愛いね」
金髪に絡まれた。
広場に着くと先程のゆったりとした雰囲気はなくなっていた。
人が増え、がやがやと騒がしい。
それは噴水に近付けば近付くほど激しくなっていく気がする。
これは政にぃと菖蒲ねぇを見つけるの大変かもしれないなあと思い、ぼーっとしていたのがいけなかったのかもしれない。
だけどそれだけでこんな絡まれ方するとは思わなかった。
私が一言も了承してないにも関わらず、話は進み何故かこの金髪男の中ではこれから一緒にパーティーを組んでレベル上げし、この人の所属するクランにはいることになっているらしい。
大袈裟な身振り手振りに、マシンガントーク。
聞いてるこっちが息切れしそうである。
確かに、銀で統一されたフルアーマーや大剣からして少なくとも私よりはこのゲームに詳しいだろう。
だからと言って見知らぬ相手にここまでグイグイこれるとは……。
「暇じゃないです」「ごめんなさい」「無理です」とはっきりきっぱり断っているにも関わらず聞いてくれない。
遠慮もしてないし、恥ずかしがってもないんだけど……。
周りの人もチラチラと視線はよこすものの、助けてはくれない。
まあ、関わりたくはないよね。
ついには痺れを切らしたのか、フレンド登録をしようと手首を握られ、無理やり握手をさせられた。
さすがに怖くなり、すぐ手を振り切る。
もう走って逃げようかと思ったその時、
「違反」
たった一言。
なのにその場の温度が、一瞬にして氷点下を突き抜けたように凍った。
小さい声にも関わらず広場によく響き、あんなに騒がしかったそこはシーンと静まり返った。
ザッとモーゼの十戒のように人が避けたかと思うと、そこから女と男のペアが堂々とそこを歩いてこちらにくる。
女は銀に黒のラインがはいった、体のラインがくっきりとでたパイロットスーツをきており、胸はささやかなものの上品にきゅっとあがった小さいお尻や、脚線美を惜しげもなく晒している。
前髪がアシメのショートカットの黒髪が、機械じみた頬を撫でただけで色気を溢れさせる。
その冷たく、無表情の顔を歪めさせたい願望に駆られた男達が何人いることだろうか。
男はカーキ色の軍服を着こなした獅子獣人だ。
ガタイがよく背筋がビシッと伸び、黒の重量感のありそうな編み上げブーツで歩く姿はまさに、幾千もの戦場を潜り抜けてきた軍人のようであった。
洗練された筋肉の持ち主であることが服の上からでもわかる。
軍帽から覗く深夜の海のような瞳は鋭く、深く、仄暗い。
普段の面倒みの良さが滲み出た瞳はなりを潜めているようだった。
「精密スナイパーと鉄壁の獅子だ……」
誰が漏らしたかわからないほど小さい、普段では掻き消えてしまうであろう声が、静まり返っているこの場ではよく響き、耳に残った。