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願いの丘

作者: 雪四光
掲載日:2017/10/02

 見たことない景色だった。人工物が一つもない。私は小さな丘の上に立っていた。普段見ているものより1周り、2周りも大きい月が明るすぎる。星が見えないどころかそこには青空が広がっていた。

 明らかに夢の中だろう。明晰夢という言葉は知識としては知っているが、実際に見たことも、見たいと思ったこともない。夢の中で空を飛べようと、魔法が使えようとただ虚しいだけだ。絵空事の能力、妄想の産物に意味などない。

 それでも心のどこかでは、醜い欲望が根を張っているのか、だからこんな夢を見ているのか。

「あなたは、何を望むのか」

 いつの間にか目の前にいたそれの質問に私は答える。脳で考える前に、言葉がスッと、そんなに長くない文で。


 朝だった。窓を見ると月に替わって、小さな日が昇っていた。

 リビングのある1階へ降り、朝食を作る。顔を洗い、歯を磨き、学校へ向かう。イヤホンからは何も流れない。周りの無音を私の耳に入らないようにしているだけ。

 黒板には文字が書かれている。教科書を要約した、教科書通りの、不必要な情報をカットした、文章が。ヒトの意図など存在しない、とてもわかりやすいもの。それをノートに写す。脳に映す。その内容を覚えれば、覚えてさえいれば、良いのだから。

 家に帰り、夕飯を作る。身体を洗い、歯を磨き、布団へ向かう。物音は何もしない。その無音は私を眠りへ誘うだけ。


 見たことのある景色だった。人工物が一つもない。私は小さな丘の上に立っていた。明るすぎる月がヒトを照らす。何を話しているわけでもない。皆1人で何かをしている。私もそのうちの一人だった。周りと同じ、十分なのかもしれない。

それでも心のどこかでは、願いがあったのか、だからこの夢を見ることになったのか。

 「あなたは何を望むのか」

 いつの間にか目の前にいたその人の質問に答える。それを答えるのに一瞬ためらった。少し恐怖を感じた。それでも私は……。


 朝だった。空を見上げると月の代わりに日が高く昇っていた。

 お腹は空いてなかったが、食べ物を探す。食べられそうなものを見逃さないように目を凝らす。周りの無音の中に、他がいないかと耳を傾ける。

 木に果物が生っていた。それを手に取り食べる。舌先で変な味がしないかを判断する。周りに異変がないかを見る。それができれば、それさえすれば、良いのだから。

 日が沈んできて、安全な場所を探す。物音は何もしない。その無音は私に安心感を与えてくれる。周りが暗いのか、私が目を閉じているのか判断がつかなくなる。


 見たことのある景色だった。周りにたくさんのビルが建っていた。そのせいか、月を見ることはできなかった。明るすぎる街明かりが人々を照らす。楽しそうに話しながら信号待っているもの、1人で少し笑顔浮かべながら歩くもの、様々だった。

 皆楽しそう、そう思ったが、私は優越感に浸っていた。楽しそう、醜く見えた。そう感じていた、感じようとしていた。

 「あなたは何を望むのか」

 いつの間にか目の前にいたその人の質問。悩んだ。このまま進んでいいのか。ここまで来たら戻るはいけなかった。心の長いとは違う言葉が声帯から、舌から発せられた。


 時間も分からない。場所も分からない。分かるのは私には何もなくなっていたということ。目を開けているのか、耳があるのか、存在しているのかも分からない心で私は感じた。

 私は今、この世界で一番、幸福であるということを。


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― 新着の感想 ―
[一言] 少し自分には難解でしたが、分からないなりに何か伝わってくるもののある語りだったと思います 語り部は周りを見下しているようで、その実羨ましくも思っているのでしょうか。自分はあそこに迎合しないと…
2017/10/02 10:17 退会済み
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