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第3話 職に就く

 


「それで、冒険者になりたいんだって?」


「はい! 大丈夫ですか?」


「ふふっ。大丈夫よ。じゃあここに手を乗せてね。」


 色白金髪の美女はそういうと乳白色の石版のような物を受付台へと取り出した。


「これが加護石というやつですか?」


「ええそうよ。これで適正を調べるの。フィン君にも適正があると良いわねっ」


 色白きんぱ−−もといシアは微笑みながらフィンの右手を取り加護石の上に持ってくる。


「あっ」


「どうかした?」


「いえ、何でも無いです……」


 フィンは少しうつむき、顔が熱くなっているの感じた。

 間違いなく赤くなっているであろう顔がばれないように気持ちを落ち着かせた。

 フィンは以前王族であったが、ぶっちゃけ童貞である。残念なことにそういう相手に恵まれなかったのだ。


 とかなんとか考えてるうちに適性検査が終わったらしい。

 なにやら加護石の表面に文字が浮かんでいる。

 なぜだかわからないがフィンにも理解出来た。


「んーっと、なになに〜。これは料理人……ね」


「りょ、料理人……?それって冒険者の職業じゃないような……?」


 シアは困った顔をしながら指を唇に当てている。


「んー、今までこの適正を出した人がいないからなんとも言えないわね……」


 転生者だしもっと「勇者」とか「大賢者」とか凄いの想像していたフィンは肩を落とす。


「でも適正があるという事はちゃんと加護を与えられるはずよ! きっといいことあるわよ!」


「は、はあ」


 そういうと次は左手を乗せるように促される。

 乗せる前に文字を確認すると


【年齢 10歳】【料理人】【スキル 料理】


 と書いてあった。


 やっぱり10歳なのね、とフィンは思いつつ左手を乗せる。


 そうすると一瞬左手がぼんやり光り、すぐさま輝きを失った。


「これで完了ですか?」


「ええ、終わりよ。あなたは冒険者になりました!」


「あまり実感はないですけどね」


 そうフィンは笑いながら次の質問を投げかける。


「では次にこれを換金したいのですがよろしいですか?」


「ええ! 見せてくれる?」


 フィンは布袋から角を4本取り出しシアへと渡す。


「あら、ウルディウムの角じゃないの! フィン君、これどうしたの?」


「この街に来る途中に襲われまして、返り討ちにしました」


「……フィン君が?」


「はい」


 一応行商人ダリルと一緒ではあったが倒したのはフィン一人だったので、そう答えておいた。」


「ちょっと信じがたいことだけど、本当ならすごいわ!」


「本当なのですが……」


 分かっていても信じてもらえないのはちょっと悲しい……。


「実は最近トラム街道にウルディウムがでるって情報があって、討伐依頼が出されていたの。倒した証拠として角を3本以上という内容だったんだけど、フィン君の……きっとそれだよね……」


「は、はい。恐らくは」


「私としても信じてあげたいんだけど誤情報として討伐完了にしてしまったら被害者が出てしまうし……どうしましょう……」


 どうやらシアはこの件を依頼完了として受けるかどうかを悩んでいるそうだ。

 シアが悩んでいると受付台の端っこの隙間で寝ていた猫……のような生き物が目を覚ましこちらに寄ってきて、



「シア、それは僕に任せると良い。他の討伐以来を受けてもらってほんとにこの子が倒したのか、僕がこの目で判断するよ」


「ね、猫がしゃべった!!」


 白とベージュの配色のもふもふを携えながら話しかけてきた。


「あらツマル! 話聞いてたのね。ほんとに良いの?」


「うん。ここにいてもどうせやる事ないし、この子のことが少し気になるんだ」


 当たり前のように猫とシアが話している。



「あの、この猫?は?」


「この子はツマル。昔からここに住み着いているの。まあ【魅惑の溜まり場亭】の主と言えなくもないわ。半分はペットだけどね」


 とシアが笑う。


「シア、僕はペットじゃないよ。これでも結構強いんだからね!」


「はいはい、分かってるって!」


 と会話を繰り広げている。

 色んな種族がいるくらいだから猫が話してもなんら不思議ないのかなとフィンは考えた。


「つまりこの猫と一緒に依頼を完了すればいいわけですか?」


「そういうこと! まあ僕は手を貸さないけどね」


「分かりました。ツマルさん」


「ツマルで良いよ、フィン。よろしくね」


「はい、ではツマルよろしくお願いします」


 そういうとフィンとツマルは握手?を交わした。


「それで、どの依頼をこなせばいいのでしょうか?」


 ツマルが掲示板の前で張り紙に目を通す。


「そうだね、これはどうかな」


【ケルピーの角の採取】:【トラム森林の湖周辺に生息するケルビーの角を1本取ってきてくれませんか?】


 という依頼だった。ケルビーと言えばシカのような獣だった気がする。


「これなら難易度はそこまで高くないし、実力を測るのであれば十分だと思う!」


 ツマルは有無を言わさない勢いでその張り紙を掲示板からちぎり取り受付台に戻ってくる。


「でも今日はもう遅いから明日にしようか。フィン、お腹空いてないかい? 今日は冒険者になった君の祝いだ。たらふく食べていくと良い」


「え! ほ、ほんとにいいのですか!」


 ちらりとシアの顔を伺うとにっこり微笑んでくれた。

 大丈夫という事なのだろう。


 フィンはお腹をさすりながら口の中で唾液が分泌されるのを感じていた。


「あ……ちなみに僕無一文でして、今日の宿も探さなきゃいけないのですが……」


「なるほど、それならギルドの奥の部屋を使うと良い。明日の朝になったら起こしにくるよ」


 この猫ちゃん、なんていい子なんだろう……。

 もふもふしてもいいかな……などと考えているとテーブルに案内され料理が運ばれてくる。


 野菜と肉の炒め物や、ビーフシチュー、揚げ物やらなんやらがたくさん運ばれてくる。


「いっただきまーす!」


 といって食べ始めると、隣でツマルも何やら皿に顔をうずめて食事をしている。

 たべてる姿は猫そっくり。なんて可愛いんだろう……とフィンは触りたい衝動に駆られるが食事中の為抑える。

 明日こそはモフろうと心に決めつつ食事を続けお腹を見たしていった。




 ーーーーーーー




 食事を終え、ギルドの奥へと案内されベッドにもたれ込む。


(転生初日だったけどいろんなことがあったな。今の僕はやさしく丁寧に接する事も出来るようだし、本当に生まれ変わった気分だな……。明日からも頑張ろう……)


 そう思いながらフィンはベッドに身をなげやり、意識を闇のそこへと追いやった……。



(−−君が食べた料理はもう君の物だ……。君が欲すればいつだって作れるよ。作れるよ……作れるよ……)



 その夜、フィンは奇妙な夢を見た。







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