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ヒロインによる(悪役)令嬢溺愛日記

作者: あかねあかり

ひたすら彼がかわいそうです。

よろしくお願いします!!

「ティア、今すぐそいつから離れろ」

「……は?」


 そいつ、と言いながら彼が指さしたのは、私の向かいに座り、優雅にティータイムを嗜むお姉様。

 お姉様は青い瞳を伏せ、「やっぱりこうなるのね…」と軽く頭を抱えています。


 私はそんなお姉様を気にしながら、紳士あるまじき彼の無礼を窘めようと立ち上がり対峙します。まあ、彼の方が私よりも遥かに背が高く、見上げる形になってしまうのですが。


「そいつ、とはどなたのことを指していらっしゃるのですか? それと、人様に指を指してはいけないんですよ」

「そいつはそいつだ。クロッカス侯爵令嬢のことだ。いいからティア、こちらへ来い」

「まぁ、お姉様(・・・)をそいつ(・・・)と仰ったんですか? いけませんよ、殿下。いくら殿下といえども、礼儀は」

「いいわ、ティア。気にしないで。私如きを庇ってくださるなんて、ティアは本当に優しい子ね」


 褒められたことが嬉しくて、頬を緩め彼女の元へ戻ろうとした瞬間、腕を捕まれ引き寄せられる。

 彼は嘲りを含んだ厳しい声で、お姉様に告げた。



「気安くティアの名を呼ぶな。今からお前を断罪する」



「…………は…?」


 冷たくお姉様を睥睨する殿下と、諦めたように微笑むお姉様。

 状況が全く理解できていない私は、彼の台詞に視線をさまよわせた。


 ***


 クロッカス侯爵令嬢といえば、大変魅力的な女性であると知られている。

 猫のような愛らしい赤い瞳に、赤銅色の艶やかな髪。いわゆるぼんきゅっぼんな、大人っぽい美女なのである。


 一時期は王子の婚約者候補として名を連ねていたのだが、一年前に王子の結婚相手について誰も触れることがなくなってからは、彼女は学院に通うようになる。


 ここで私はお姉様と出会う。


 慣れないことばかりで逃げ出した先にいたお姉様は、理由も訊かずに私を助けてくれたのです。あのとき、私は一種の恋に落ちました。

 それからは、お姉様をお姉様と呼び慕い、暇さえあればお姉様に会いに行く、という生活を送ってきた私なのですが…。





「お前は、ある少女を階段から突き落とし、怪我を負わせた」

「殿下…?」


 唐突に、彼は罪を上げ連ね始めた。

 私は彼に庇われたまま、背中越しに微笑むお姉様を見つめる。こんなときにも優雅さを失わないお姉様が好きだ。


「そして少女を云われない中傷の的にした」


 人の視線がお姉様とお姉様を断罪する彼に集まる。戸惑いの声と嘲りの声が混ざり合って、酷く不快になる。

 殿下の服を引っ張って、止めるようにアピールするも、その手をぎゅっと握られてしまう。

 余計なことはするなということですか。


「少女から本を奪った。少女から宝石を奪った。少女に暴力を振るった。少女を罪人の塔に監禁した。少女の魔力を利用した……!!」

「アル様!」


 名前を呼べば、彼は我に返ったようでやっと私の方を見てくれた。

 私は一歩後ろに下がり、彼の手から逃れる。痛いくらいに握っていた腕に痛みがじんじんとくすぶるが、大したことはない。


「お姉様」


 お姉様は戸惑いの色を浮かべて私を見ていた。赤い瞳が揺れている。

 しんと静かな講堂内に、私の声が響いた。




「王太子、アルフリード殿下に、離縁を願い出ます!」



「………………………………は?」



「殿下、私たちはやはり分かり合えないのです。婚約を解消しましょう」

「意味が分からない!! なにをアホなことを言っている!?」


 あ、あほとは失礼な。


「だって、殿下訳わかんないんですもん!」

「ティア、『もん』は駄目ですよ。控えましょうね」

「ぁ、はい、お姉様」

「クロッカス侯爵令嬢、ティアに何か言える立場か?」

「しつこいですよ、殿下。お姉様があんなことするわけないじゃないですか!」

「可哀想に、ティア。手遅れなくらい洗脳されてしまったようだ」


 先程から彼はとても失礼ではないかと。

 いくら殿下といえども、淑女への暴言は紳士のあるべき姿の見本とは言えません。ここは心を鬼にして注意しなければ!


「殿下、先程から黙って聞いていれば、聞き過ごせないお姉様や私への暴言が山のようにありましたけど、それは紳士としてどうかと思うわけです」

「お前に言われたくはないが、ティア。なぜ今このタイミングで、俺がクロッカス侯爵令嬢を断罪しているのかわかっているか?」

「わかりませんし知りませんが、許しません! 離縁してください!」

「あーはいはい。百年後にな」

「言いましたからね!!」


 全く、お前と話していたらいつまでも本題に入れない、と殿下がため息をこぼす。

 よく言われます。


「それで、殿下。証拠はあるのですか?」

「…ああ」


 静かな落ち着いた声で訊ねたお姉様に答えて、殿下はテーブルに物的証拠を並べていきます。

 赤い髪、象牙の櫛、耳飾り、エメラルド。そして、魔力入りの石。


「これらが、ティアの私室とお前の私室で見つかった。特にこの魔石…誰かの魔力入りのものがお前の部屋にあった。どういうことだ?」


 周囲がざわめき出す。なんだって魔石が。侯爵令嬢が盗んだのか? だとか。


「それは…」

「私がお姉様にプレゼントしたものです」


 弁明しようとしたお姉様を遮って、殿下に申し出る。


「なに?」

「最近寒くなってきたので、お姉様が風邪を召されないようにと、その魔石を差し上げました」

「とても助かっています」

「……へえ」


 俺にはくれないんだ。

 だって殿下、いつも暖かそうですし。



「では、これはどう説明する? これは俺がティアに送った耳飾りだ」

「あの、私、誤って壊してしまって…。お姉様が直してくれるって言ってくれたので」

「もう済んでいますよ。留め具がひとつ足りていなかっただけです」

「ありがとうございます、お姉様!」

「……」


 何をして壊した?

 用途がわからなかったので、とりあえず分解して戻らなくなったんです。



「ならばこのエメラルドの宝石は…」

「交換したんです! 私がお姉様にエメラルドを」

「私がティアにルビーを差し上げて、ね」

「はいっ」

「……………」


 ちなみにそのルビーは?

 お部屋の宝箱に入ってます!



 だんだん訊くのにも疲れてきたのか、殿下は何も仰られなくなりました。

 いつの間にか、周囲で野次馬だった方々も散り散りになっていて、奇妙な空間ができていました。


「殿下。今更ですが、罪状の『少女』とは、ティアのことでよろしいですか?」

「ええ!?」

「そういうことだな」


 ええ~、まさかあのいじめを受けていた『少女』って私のことだったんですか。

 最初から、んなわけあるか、な話でしたが、私のことだと知った今からしてみれば、馬鹿馬鹿しくて有り得ない話です。


「もう、殿下は早とちりなんですよ。私、お姉様からそんな手酷い仕打ちなんて受けたことありませんからね?」

「しかし、お前は泣いていただろう」


 いつも。夜になると。部屋の隅で小さくなって。


「みていたのですか?」

「ああ」


 なんだか恥ずかしくなって、照れ笑いを浮かべると、殿下は驚いたように目を見開きました。


「確かに、少しだけ、泣いたこともあります。私、こんなだから。皆さんには受け入れがたかったのでしょう。それこそ階段から突き落とされたり、酷い言葉を言われたり、殴られ蹴られ、罪人に仕立て上げられそうになったこともありますが、私はお姉様に会えて、殿下に優しくしてもらうようになって、幸せを知りました」


 普通の人では有り得ない、銀色の髪とエメラルド色の瞳。

 私はこの姿を好きになれないけれど、お姉様が好きだと言ってくれたから、私はとても救われて。


 救われないと泣いていたこともあった。

 異質な見た目と魔力量から、親に捨てられ、実験所に連れて行かれ、友もなく愛も知らず、生きてきた。

 でも、あなたたちが。


「二人が、私に光をくれたから、もう泣いていませんよ」

「ティア…」

「殿下もお姉様も、大好きです。ずっと一生、一緒にいましょう?」


 殿下は微笑み、お姉様は私を抱きしめながら、応えてくれました。


「もちろん、ティア」




 たくさん、愛をあげる。


 ***


「…あれから半世紀が過ぎたわけですが、陛下は一向に老けませんね」

「それを言うならお前もだろう。俺は多少老いたが、お前は十六の姿のままじゃないか」

「私だって悲しいですよ! 十六から全く大きくなれないんです。やっぱり魔力量が異常だから…」


「あなたたち、私を何だと思っているの」


「いいなあ、お姉様。時の流れに沿って生きていけるなんて」

「暗に老けたと言っているのか」

「けれど大変ね。ティアは、あと何百年生きるのかしら」

「それは俺にも言える。魔力量はティアよりは少ないが、充分だろう」

「ああ、なら安心だわ。私が死んでも、ティアには陛下がいるのね」

「お、お姉様ぁ」


「大丈夫よ。ずっと一緒。ほらほら泣かないの。ふふ、ティアは本当に泣き虫ねえ」

「お姉様の遺骨は、私が持っていても良いですか?」

「まぁ…。陛下、この子大丈夫かしら? 一気に不安になったわ」

「ティア、遺骨は流石に駄目だろうから、ルビーで我慢しなさい」

「エメラルドは…」

「私とともに灰になってもらおうかしらね」


「……ルビーと、お姉様の眼球が欲しいです」


「…………」

「…………」



それは無理だ。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

初の乙女ゲームものです(∩∀`*)キャッ

ただ、ヒロインサイドから書いたので分かりにくかったかと……悔やまれます。


殿下は殿下でしたね!

ざまあというか、えぐいと言うか……

好感度で大幅にお姉様に負けてる王太子殿下でしたーヾ(。・v・。)


ちなみに主人公のティアですが、彼女は本来学院の生徒ではありません。

研究対象の魔法使いとして王宮で保護されています。

それでもいるのはお姉様目当て5割、殿下目当て3割、生徒気分を味わいたい2割です。

しかし浮きに浮きまくっています。


今回も書きたくても書けなかった設定が盛り沢山なので、好評であれば続きを書きたいと思います!

長々しいあとがきにお付き合いいただきありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 淑女の部屋に無断で侵入した挙句、家探し…? 証拠もなく罪人扱いですね。 普通そんなことする前に本人に話を聞くべきでしょう? 王子が単独でやっても非常識極まりないけれど、兵士もつれていた…
[一言] 当事者に聞き取りもせず、完全なる独りよがりの勘違いで馬鹿を晒した王子が無事王になれたとか信じがたいですね。 この国大丈夫ですか…?
[一言] が!?ぐぁ、眼球ッッ!!? ヤんどるー。
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