あまあま夫婦の出来上がり方!
あまあまな話を書きたくなってしまったんです……。あんまりよくできてないかも……。
私は転生者だ───という事実を、たった1秒前に知りました!
どうしようどうしようどうしよう! ここって乙女ゲームの『俺の心は君のモノ』、略して『俺物』の中だよ! 今更思うけど、題名『折れ物』みたいだね!
何で私、記憶思い出しちゃったの!? もう17歳なんですけど! しかも私ったら悪役令嬢!! もうイベントとか始まってるしぃいいいっ!!
しかも前世のことこと思い出したら、15歳で死んだことに寂しさが……。お母さぁん……! ごめん、親不孝もので……。
いや、本当に申し訳ない。心配してくれたのに『うるさいババア!』とか言っちゃってごめん。今の両親は私を王家に入れる道具としか見ていなくて、改めてあなたの偉大さを知りました。
そう、ここは乙女ゲームの中。そして私はアリア・グライトス公爵令嬢。かっこ悪役令嬢かっこ閉じ。しかも第2王子の婚約者。
いやぁ、嫌な予感しかしない設定の数々。
もうヒロインに苛めとかしちゃったしなぁ。いや、苛めじゃないよ? あの王子にあんまり馴れ馴れしくしてるから、『もっと貴族として自覚を持ちなさい』くらいのことを言っただけだよ? でも変に私があの子をいびったっていう噂立ってるから、苛めたって世間に認識されてる。
ヒロイン、子爵令嬢で貧乏だからさぁ……しっかり者には育ったけど、礼儀作法がなってないんだよね。
あー、もうあの王子……フィアエグ・マルディン殿下はもうヒロインの虜さぁ。私のこと見ると顔しかめるし、もう嫌われてること確定! この先に待つのは公爵家没落の未来だけ!!
お父様何やってるの!? 不正とかしないでよ!! おかげで没落しちゃうじゃん!!
もうやだ……。何で死んじゃったの? どうしてこんな世界に転生しちゃったの?
というか何で思い出しちゃったのさぁ……。私ったら、学園の庭ですっ転んで頭打っちゃってぇ。おかげで思い出しちゃったよぉ!!
泣きたい……泣きたい……泣きたい……。ここって医務室だよね……? 見た感じ先生もいないし……、
泣こう。
「くそったれぇえええっ! もういっそ滅べやボケぇえええっ!! うぁああああああああっ!」
こんなに泣くの、何年ぶりだろう。今世では押し黙って心で泣くタイプだったから、前世以来だ。
「……ひっく。何で嫌われなきゃなんないんだぁああああっ! 私なんにもしてないし!! 理不尽だ! みんなみんな、大っ嫌い! 公爵が何だ! 夫人がなんだ! 婚約者がなんだぁあああああ! 何でもかんでも私のせいにするんじゃねぇえええうわぁあああああああああんっ!!」
誰もいないことを良いことに、私は文句を叫び続けながら泣いた。そりゃもう、30分以上。
……だけどね? 泣き止んでから私は気付いたんだ───医務室の前の廊下、誰か通りかかっていたら絶対ビビられた、と。
でも問題ないよね! 声だけ聞いて私だって分かる人いないだろうし! 医務室のドアは開かれていないって、この目で確認しているからだいじょうブイ!
さぁて教室に戻るか……。この腫れた目で行くのか……。
サボろう。まだ目覚めていないって設定で。
───────
記憶を思い出した次の日の放課後。私は婚約者の第2王子、フィアエグ・マルディンに、寮の本人の部屋に呼び出された。
あれぇ? もう婚約破棄? まだ10月なんだけど。待ってよ、没落までに生きるための術を学ぼうとしてたのに、まだ準備終わってない!!
部屋に到着して、ノックしてから入ると、フィアエグいた。当然だけど。……ヒロインに虜の人達全員で私を糾弾するものと思っていたのに、予想が外れた。
放課後という時間帯で、窓から鮮やかなオレンジ色の太陽の光がフィアエグの後ろから見えて、なんとも幻想的。
フィアエグの柔らかい金髪が輝いて見える。濃紺の瞳は光の加減によって黒いかのよう。
あぁ、フィアエグ……フィア。最初から私のことを政略結婚の相手としか見ていなかったよね……でも結構好きだったなぁ……。
第1王子殿下と比べられてストレス感じている姿とか、なんかこう……今思い出すと、萌えるよ……! いつもはクールなのに、そういう表情をされたらもう……ッ。ぜえはあ。
「お待たせしました、殿下」
フィアは私をちらと見た。色気のある眼差しだ。それで何人の婦女子を虜にしてきたよ?
逆光で表情が分からないが、手招きされたので近くに寄った。
充分に近付くと、いきなりぐいっと腰に腕を回されて、抱き締められた。
「えっ……ふぇえ!?」
前世も今世も男の子に免疫がないので、思わず変な声が出てしまった。抱き締められたりも、ましてやキスだってしたことないし!
このバックンバックン言ってる心臓は収まらない。抱き締められているからきっとこの音はフィアに筒抜けだ。
恥ずかしいぃいいいっ。
「殿下!? このような場所で、一体何を!?」
襲うの!? でも部屋に呼び出されたってこと、私の取り巻き達知ってるからね! 帰ってこなかったら怪しまれるよ、止めときな!
その意味を込めてフィアを咎めようとすると、耳元で囁かれる。
「問題ない……今日は誰もここに来ない……」
ぐはっ。なんて色気駄々漏れのお声。吐息混じりの低い声なんて、私に聞かせないで! 萌える!!
「で、殿下、私のこと、好きじゃないのでしょう!? いきなりこんな……!」
「何を言っているんだ……。あぁ、今まで誤解していたからか……? すまない、一生かけて責任とるから……」
「誤解ですか? ななな何のです!?」
慌てていると、少し身体を離されて、不満げな表情を私に見せつけてきたイケメン。
「私に罪を再確認しろと?」
「罪? 何の話ですか! 別にあの女学生のことは……もう……」
ヒロインが関係しているのかと思って探って見ようと思ったら、何故か後頭部に右手を回された。左手は未だに私の腰を拘束している。
フィアは優しく微笑み、私の額にキスをした。
「って、きっ、きききっ!」
「昨日、お前が医務室で泣き叫んでいるのを聞いてしまってな……。そんなにまで追い詰めてしまったのかと、自分を責めたよ……」
あ、あれを聞いたのか! なんていうこと! 恥ずかしい!
「酷いですわ……。あんなの、聞いてしまうなんて……」
恥ずかしいのと、なんか悔しいので、顔をしかめながらフィアを見上げた。
すると何故か嬉しそうな顔をされた。
「前々から、可愛らしいとは思っていたんだ。マリアンヌ嬢と話していると睨んでくるところも、可愛いと思った。だが、マリアンヌ嬢にしていると聞く苛めの数々を聞いて疑ったが……」
そこでフィアは、呆然としている私に軽く口づけた。
「ふぁー……」
「昨日のあれを聞いてな。苛めをしているとは思えないものだったから、もっとちゃんと調べることにするよ……」
それよりファーストキスを奪われて放心してます今日この頃。
「好きだ、アリア。政略結婚じゃない。愛をもって婚姻を結ぼう」
「は、はい………………?」
最後が疑問系になったのは許して欲しい。
乙女ゲームの中じゃなかったっけ、ここ。こんな場面あったっけ。急展開過ぎて頭がついていかないよ?
「アリア……?」
「で、でんっ……んぅっ」
ふぇええええキスされたぁあああああっ。セカンドキスがぁああああっ。
「でん、ぷはっ、んんっ!」
息継ぎの仕様がない。
ってか舌ぁああああああっ! 入ってこないでぇええええええっ!?
裏側舐められるとゾクゾクしちゃうから! 息がぜえぜえしてて、息継ぎするとき私のとは思えない変な声が出るからッ!!
卑猥な水の音を聞きながら、私は非常に困惑する。なんかもう、色々と。
「アリア……?」
「ぁっ……」
嫌だぁああああっ! こんなの私の声じゃないよ! 耳とか舐めないでよ!
わるぅ~い笑顔を浮かべていらっしゃる第2王子殿下は、それはそれは楽しそうだ。
「あぁ、そんなに私を煽らないでくれ。上気した頬や潤んだその瞳を見ると、襲ってしまいそうだ」
「そういう状態にさせたのは殿下でしょう! キスなんて初めてなんですからね!? 慣れてないことされりゃ誰でもこうなりますわよ!!」
「ほう……?」
あ、目がきらんっと光った。怖いよ?
「慣れれば良いんだな……?」
墓穴を掘ったようデスネ!
「思う存分キスしてやろうじゃないか」
「え、ちょっとまっ、んっ!? んんんんんっ!!」
「ほら、色気のない声は止めないか……。こうすればいいのかな……?」
「ぅ……ひゃんっ!」
学生服の下に手が潜り込まされて、下着の上から胸の先端を撫でられた。
「せ、セクハラ……!」
「私とお前は婚約者だろう? それに、お前が素直に声を出してくれないから……」
「そりゃあんな変な声……あぁ……」
どうしてだ! どうしてこんな甘い声が!
「でん……か、ぁっ……やぁっ……」
直接先端を撫でたり摘まんだりして刺激してくる器用な指先は、私の制止の声も聞かずに悪戯し続けた。
「うん、この声はいいな……」
「うっ、ううっ……」
ドウシヨウ。
全力で抵抗すれば止めてくれるかなぁ。でも今世の記憶が、この人がどれだけ素晴らしいかを訴えてくる。
それにやっぱり、私はこの人が好きなんだ。婚約破棄とか、没落とか、そういうのは関係なく、好きなんだ。抵抗すれば捨てられそうで、そう思うと抵抗できない……。
言葉でちゃんと伝えればいいのか、と思ってフィアを見上げると、僅かに目を見開かれた。
そして、悪戯していた方の手で自分の顔を覆って表情を隠した。
「ああ……本気でまずい……。襲いそうだ……」
「不吉なことを仰らないで下さいませ!」
「ねぇ、卒業なんて待たないで、どちらも18歳になったらすぐに結婚しないか?」
私とフィアは同い年だ。学園でも同じ学年。
で、18歳になったら結婚だぁ? 早いね? でも私が18歳になって1か月後には卒業だよ? それくらい待てるだろ。
「そうじゃないとここでお前を襲いそうで……。初夜はちゃんと迎えたいんだ……」
「不純な動機ですねぇ……」
私は乱れた制服を直しながら、フィアを睨み付けた。
致したいなら花街にでも行ってこい! と、言いたい。
だけど私の考えを読んだかのように、フィアは笑ってこう言う。
「お前しか抱く気にならない」
ちゅどーん。撃墜。
意外とエロ王子だったんだなぁ、この人。
まぁいいさ、それも承知で婚約してたんだ。受けて立とうじゃないか!
「ふっふっふ……。殿下、私、実は大きな秘密があるのですわ……」
「え、浮気か?」
「何でそうなるんですか! そんなものじゃありませんわよ! これからの生活を楽しくさせるものですわ!」
「ほう?」
私は前世のことを話すと決めた。あの乙女ゲームは、フィアがどういう選択をすれば色んな人と友好関係を築けるかも分かるようになっていた。
そのことを話して信じてくれるか分からない。嫌われるかもしれない。
でもその時はその時だ。いいじゃん別に。
私は腹を括って、過去のことを全部話した───。
──────
大国、マルディン王国には、その時代一番のあまあま夫婦がいると言われた。それは多くの国に伝わっており、それを聞いた夫婦は『そこまではちょっと……』と言ってしまうほどに、あまあまな話である。
あまあま夫婦と言われる、その国の第2王子とその妃は、未来を見通しているかのようと恐れられてもいた。
そんなあまあま夫婦は、いつでもいちゃつき、周りの人々の胸焼けの原因になっていたのだとさ────。
End.
お読みいただきありがとうございますm(__)m 感想など頂ければ、今後の参考に致します。