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未来はどこにある  作者: しぐ
魔法の世界で決着
13/43

1-13

 隊列を組み、盾を持った前衛に続いて城へなだれ込む。

 迷っている暇はない。進まなくては敵兵が集まり過ぎてしまう。

 もとより機動力を活かした電撃戦である。王座まで周到に計画されたルートを迷いなく走る先頭。それに続く長蛇の列はまるで蛇のように敵を締め上げていくのであった。


 その勢いに、未だ集合できず疎らに廊下を歩く衛兵たちも道をあける。多勢に無勢では立ち向かう気にもなれないのだろう。

 ベルたちの勢力としてもむやみに死を招くことはない。目的は王を討ち取ることなのだから。


 そうして、広い玉間にたどりつく。ここを占拠して拠点にするようだ。

 再生魔法が使える者はここで待機してけが人の治療に当たるように指示がくだる。

 無視してキヨを探しに行こうかと思ったベルだが、ここまでの道のりで息は絶え絶えである。

 距離と速度は大人にしてみれば戦闘をこなしながら進める程度だったが、子供の足には堪えるものがあったようだ。

 もう歩けない。もしもっと期間があれば体を鍛えただろうが、決着は目前に迫っているらしくそうもいかなかった。


 玉間に来る間に負傷した者たちの治療をしながら機会を伺うことにした。負傷していない戦闘員は王を探しに城に浸透していく。

 クラウスも攻撃の要である。とはいえ前衛を張れるような装備ではないため、拠点防衛のため玉間に待機していた。

 ベルとクラウスは目が合うと、互いに頷き合って自らの仕事に戻る。

 移動の披露を回復させたベルは治療に入る。あたりの治療班が驚くほどの早さで回復させていくベルをみて感心している。

 第一波の負傷者を治したところで、ベルは治療班と接触を図っておくことにした。


 ホルスト率いる魔法治療班、アルマ率いる魔法を使わない医療班は今回ばかりは争うわけにもいかなかった。分担を不満をたれながらもこなしていた。

 骨にまで達している傷、輸血の必要な者には医療班があたる。軽い治療魔法ですぐに再起できる者には魔法による治療を行う。

 手当たり次第に治していくベルはどちらから見ても異常に映った。

 しかしここは戦場であり、使えるものは使わねばならない。ベルを放置するほかなかった。

 ホルストも想定していた治療時間が大幅に短縮されていることに気づく。それはこの場の異常、ベルが原因であることが察せられた。


 一段落終わったためホルストも一声かけておこうとベルに近づく。

「ホルストさんですよね。ここではよろしくおねがいします」

 ベルから先に声をかけられ一瞬怯むがすぐに対応する。

「ベルくんだね。聞いていた通りの手腕だ。昨日追い返してしまったのは間違いだったようだ」

 ホルストもベルの魔法を直接みて、認めざるを得なかった。

「いえ、昨日のは取り乱してお恥ずかしいばかりです」

 自然に返すベルのその様子をみたホルストには、何かを演じているように感じられた。


 玉間の扉が勢いよく開け放たれる。

 敵襲かと身構えたベルだったが、いつまでも攻撃は行われなかった。

「城を制圧しました! が、王の姿が見えません。よって分隊ごとに分かれて、各自城の捜索にあたってください」

 分隊が明確に決まっていないベルは、さてどうしたものかと考える。

 城にきてからの既視感から考えるに、この城の地下にキヨがいるだろうと当たりをつけていた。

 制圧も完了しているという話だし、地下へ向かうことを決意する。


 ベルは一応の知り合いであるホルストとクラウスを呼び寄せて、心当たりがあると説明する。

「ベルちゃんがそう言うなら俺はそれでいい」

「私も城の地下にはなにかあると睨んでいたんだ。ここは助手に任せておくとして一緒にいこう」


 ホルストは嘘をつく。城など興味はない。

 しかしベルの能力には興味がある。ベルはクラウスに対して強いこだわりがあるようだし、一緒にいればベルの真価が図れるだろうという打算があった。

 ベルがホルストに声をかけたのはこの世界の魔法の知識が必要だったからだ。

 キヨを見つけたところで物理的な破壊が有効であるとは確証がなかった。

 魔法治療の司令塔としての役割もあるため、連れていける確証もなかったが幸運にも都合がついたようだ。

 キヨの状態がこの世界でどういった位置づけであるのかはっきりしたことがわからない以上、ベルとしてはホルストが必要だった。


 そうして即席チームを結成し、すぐさま地下へと向かう。

 計画の際に重要人物として強く関わってきたホルストは地下までの道には詳しかった。

 階段を降り、中庭を渡り倉庫のような部屋の奥に地下への階段を発見する。ホルストいわく、ここ以外に地下らしい場所はないのだという。

 クラウスとしても王が逃げる隠れるとすれば、地下だろうと考えていた。

 そのためここに目標がいるかもしれないという緊張が走る。

 ベルは階段の質感がキヨの地下室のものと同じであることを確認する。やはりここにいる。キヨと決着のときだ。


 少し湿った階段に足をとられないように気をつけながら降りる一行。

 各々緊張の面持ちで金属で出来た硬質な扉をゆっくりと押し開ける。

「待っていましたよ。あなたが決着屋としてこの世界に来たベルさんでしょう」

 そこには赤いスーツを着た女性がいた。この世界で継ぎ目のないそのスーツは異質であった。しかし、ベルにはそのスーツもその女性の顔にも見覚えがあった。

「もしかして、あなたはコニシさんなの?」

 舞台に上がっていない四人目の登場人物であるコニシでしかこの会話は成立しないはずだ。


「おや、そちらの白衣の方がベルさんかと思ったのですが。少女の姿だったとは盲点でした」

 ベルはこの世界に来て形が大きく変わってしまった。

 しかし対照的にコニシはその姿をもとの世界と寸分たがわず維持していた。

 体質である。決着機と真に同調した者はその姿を失わない。

 正体がすぐに割れてしまう反面、決着機の世界に入ってすぐに行動を起こすことができる。始めから自分の状態のわかる、決着屋としての適正のひとつといえよう。

 この世界にきてすぐに体に慣れず、教団に捕まってしまったベルと比べるとその優位性は一目瞭然である。


「さて、決着をつけましょう。世界の法則はもうわかっているんでしょう。ここへ来たことが何よりの証しよ」

 そう言うとコニシが放った火球はベルたちに襲いかかる。

 ベルはとっさに横に転がるようにして避けるが、ホルストが影になって反応の遅れたクラウスの右腕をこする。


 火球はそのまま金属でできた扉にぶつかる。

 とびらは跡形もなく溶け落ちる。壁には焦げ後がはっきり残っている。破壊の痕跡はコニシの攻撃が大変な熱量だったことを物語っていた。

 今まで見たことのない破壊力であった。これほどの威力を破壊魔法で再現できるとはベルも思っていなかった。

 それもそのはずで、ベルと同じく決着屋として送り込まれたコニシもまたキヨの恩恵を受けた破壊魔法の使い手として最大の強さを誇る。


 クラウスは右腕を抑え顔を歪ませているが時間はないため、ベルは応急処置的に治す。

「外へでよう!」

 クラウスの怪我も地下室という狭さ、味方の数によるものである。

 それをすぐに分析したホルストは外への移動を促す。


 いまだに熱を発する溶けた金属を避けて階段を駆け登る。

 ベルは扉の跡に再生魔法をかけて扉を再生させる。

 開ける時間ぐらいは稼げるだろうと踏んでいた。

 しかしコニシもこれを逃さない。魔法で強烈な突風を起こすと、扉ごとベルたち三人を地上まで吹き飛ばす。

 ここで倒れこんでいては焼き殺されてしまう。三人は意思を同じくして倉庫のようなその部屋を脱する。


 部屋を出れば広い中庭である。こちらの人数の利も使えれば、隠れ潜むこともできる。

 と思われたのもつかの間。コニシは走りだすと中庭の中央に踊り出る。

 中庭の中央を目とした竜巻を起こす。

 ベルは必死に柱にしがみつくが巻き込まれるのも時間の問題である。


「どうにかならないのクラ!」

 ベルはクラウスに助けを求める。

 クラウスは床に張り付くようにして風の影響を少なくする。背中に背負っていた魔法銃を構えるが銃身が安定しない。

「ホルスト先生、支えてくれ」

 ホルストも声を聞きつけて、這いずるようにクラウスに近寄っていく。

 それをみてコニシも風を生み出す力を強める。


 持たされた能力の差の理不尽にベルは歯噛みした。

 ベルに持たされたのが破壊魔法だったらと考えるが、それはただの現実逃避である。事実がそうならなかったのだからベルにはそれを受け入れる他にはない。

 ベルの考えうる限りの手をすべて尽くさなければならない。


 ホルストの到着とともにクラウスは集中する。いまこの防風の中使える手は限られている。

 一発だ、一発当てれば現状をどうにかできる。どこでもいい当たってくれ。そう祈りながらクラウスは銃を撃つ。

 クラウスは放たれた銃弾を全力で保護する。

 狩りと同じで威力ではない。あてるためには真っ直ぐに弾が飛びさえすればいいのだ。そのためクラウスの使う魔法銃の要はもっぱら銃弾の軌道修正にあった。

 クラウスの破壊魔法はより小細工に特化している。高速で動く親指ほどの大きさの銃弾を正確に捉え、それを後押ししつつ視覚情報のフィードバックだけを元に随時軌道修正する。 一芸に秀でようとしたために鍛えぬかれたクラウスのいわば切り札である。


 コニシの破壊魔法はこの世界で最も優秀である。しかしその高出力もこの中庭を吹き飛ばさん勢いで広範囲に行使されている。

 そこへクラウスの銃弾は親指ほど。いくらクラウスの魔法が微弱であろうともこのサイズ比にはかなわない。


 真っ直ぐにコニシへ向かう銃弾。


 しかしコニシもなにも考えずにこの竜巻を起こしたわけではない。竜巻の中央、つまりコニシの周辺になるほどその風は威力を増すように調整されている。

 コニシにあたる寸前の最も風の強い部分を銃弾が通過したとき、クラウスの魔法の力はわずかにコニシの力に負けてしまう。

 ほんのわずかにそらされてしまった弾の軌道は、コニシの左胸から左肩へと進路変更を余儀なくされた。


 コニシの左肩を突き抜ける。致命傷には至らないがそれなりの消耗にはなるはずだ。

 コニシの魔法は中断され、現場は静けさに包まれる。

 聞こえるのはコニシのうめき声だけである。

 待っている暇はない。クラウスは次弾の用意を進める。

 そこへ城の衛兵たちがどこからか立ち現れる。

「お前たちは包囲されている。投降しなければ即刻攻撃に移る」

 ベルたち三人に死刑宣告のように言い渡される。


 考えても見れば制圧までが早すぎた。おそらくは城の外などに集まってから攻め入ったのだろう。後攻めの利である。

 それにも気づかず、王を探すと言って散開してバラバラになってしまった。

 そこを各個撃破されたのだろう。お粗末な作戦はここにきて祟ったのである。


 もはや状況は一変した。こちらは三人、敵は数え切れないほど。さらにコニシまでついている。

 ベルは逃げの一手を考えるが、いまどの行動を起こしてもすぐに制圧されてしまう。

 何か手はないかとベルが考えているとコニシが動く。が、それをベルは見逃さない。


 ベルに向けて風の弾丸が撃ちだされる。すぐにベルも回避行動に移る。

 回避が早いかベルの後ろにいた衛兵たちを風の弾丸が突き抜ける。もはやコニシも打つ手を選ばないようだ。


 狂ったようにあたり一帯に魔法を撃ちこむ。

 コニシもまた、痛みには慣れていなかったのだ。銃弾に貫かれた左肩を抑えながら殺意の炎を燃やす。

 一方冷静を保つベルは遅れを取らない。

 柱の影に隠れるとクラウスとホルストに逃亡の意思表示をした。

 コニシが図らずも逃げる機会をあたえてくれた。

 そのためベルたちは混乱に乗じて城を抜け出す算段をつける。


 クラウスは魔法がもう使えないため、魔法銃に比べて半分ほどに小型化された銃に切り替える。

 精度の低い単発式の火薬を使った銃でコニシを牽制する。

 銃声で位置を把握したコニシはクラウスに向けてやや溜めのある魔法を撃とうとする。

 強力で正確だが時間のかかる魔法。コニシは殺意に呑まれ、柱ごと吹き飛ばさん勢いでいる。


 しかしベルたちはこの時間を無駄にしない。階段で二階のバルコニーを目指す。

 階段を登り切ったところで床の一部が崩れ落ちるのが視界の隅に映る。クラウスのいた柱が破壊されたのだろう。

 崩れた床を飛び越えるのはリスクが高いと判断し、それとは反対側の部屋にはいる。

 客室だろうか、綺麗に整えられたベッドがある。

 窓からは人影は見えない。ここから降りてすぐの裏口から出れば城下町に出られるだろう。


 窓からバルコニーへ、ベルはクラウスとホルストを押しやるようにする。

「早く行ってください。降りて怪我しても私かホルスト先生が魔法を使えばすぐに走り出せます」

「ベルちゃんはまた無茶を言ってくれるなあ。ホルスト先生信じてるよ」

 クラウスはそう言って足から飛びおりる。飛び降りると言っても数メートルである。手をつけられないほどの怪我にはならないだろう。

 クラウスの無事を見届けたホルストも飛ぶが、降りる間際に扉が突き破られるのを見る。が、もはやホルストは重力に引っ張られるまま落下するのみである。


 コニシの放った炎をまとった大風がベルを襲う。バックドラフトのように、大きな炎の龍が飲み込むようにベルを焦がし焼く。


 ベルはこれを予想していた。

 コニシの魔法の基礎は風と炎である。かつ、部屋に追い込むような遠隔攻撃。

 だとすればこのように炎に風で指向性をあたえるやり方が容易に考えついた。

 そこでベルは対策をうった。いや、対策といえるようなしっかりとしたものではない。大変粗末なものだ。


 骨まで焼く灼熱のなか、ベルは正気を失わなかった。ならばベルに死角はない。

 ベルは自らを再生させながらホルストの後を追う。計画的に受けた苦痛ならば正気を失わない。

 そう決めたのだ。

 それ以外に方法がなかった。ホルストの魔法を使うことや二人に消耗を負ってもらうことも考えた。

 しかしそれではその身を再生させながら逃れることは出来ない。

 ベルは自分にはできると決めた。

 できないならば相手を前にして敗北を認めるしかないからだ。

 前に進みたい、明日を生きたいそういった感情の高まりがベルを奮い立たせ、正気を保たせたのである。


「ベルくん大丈夫か。なぜ私のときにそれができなかったのだ」

 困り顔で顔をのぞかせるのはホルストである。

 気づけばベルはホルストの腕の中にいる。降り際の様子からただでは脱出できないだろう。そう察したホルストはベルを受け止める用意をしていたのだ。

 ここならば完全にコニシにとっては死角である。ここから目の前の扉を開ければすぐに城下町である。人混みに紛れれば簡単には見つからないだろう。


 一方でコニシの苛立ちは最高潮に達していた。

 肩は調整した魔法の火で止血した。しかし獲物は仕留め損なってしまった。

 その仕留め損なったという事実を自覚とともににコニシはそれを受け入れた。

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