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イケメンVS恋少女

 中学1年の夏休みの花火大会をめぐる、イケメンと恋少女のお話である。


 イケメンは女にもてた。

 が、イケメンは恋愛より卓球と勉強に全力で打ち込みたいと願っていた。

 イケメンは同性愛者・ホモではない。覚えたてのエロ本を見ながらのマスターベーションはその後の人生で1日も欠かした事はない。

 ただ、

「勉強」

「スポーツ」

「恋愛」

「友情」

 この4つに優先順位を付けると恋愛が最下位になるのだ。


 イケメンは誰にも親切で、クラスメイトの恋少女にもやさしかった。恋少女はイケメンの「八方美人」を個人的な恋愛感情と勘違いしてしまったのだ。

 早熟な恋少女は大好きなイケメンと花火大会に行きたいと願った。一生に一度しかない中学1年の夏休み。それは恋少女が年老いてお婆ちゃんになった時、心温めてくれる甘美な思い出となるはずだった。

 その夜の為に用意した浴衣を身にまとい、夜店で金魚すくい。たこ焼きを食べ、夜空に開く花火にまだ幼い顔を色鮮やかに染められる。隣を見れば恋するイケメンが立っている。恋少女の眼差しに気付いたイケメンが柔和な笑顔を向け、恋少女は頬を赤らめ恥ずかしさにうつむく。その恋少女の手をイケメンの手が優しく包む。


 以上、恋少女は「今時幼稚園児でもこんな事、考えねーよ!」という原始少女漫画の世界に立っていた。


 イケメンは恋少女から上質な紙の手紙を受け取った。これでもかと何重にも折り畳まれた、やたらと読みにくい極小の文字で書かれた手紙だった。そこには以上の妄想が書き連ねられていた。


「勘弁してくれよ!」

 恋少女からの手紙を読んだイケメンの感想である。


 年長者なら誰でもわかるだろう。恋少女は自分の夢に、自分の想像に、自分の夢想に酔っているのだ。

 勿論、敢えてその願望を叶えてあげるのも男の器の大きさだろう。が、中学1年生のイケメンにはその余裕がなかった。


 卓球部の顧問の男性教諭は大学を卒業したばかりで、若さとやる気に満ち溢れていた。

 イケメンは朝から晩まで1日中みっちり部活動でしごかれ、ヘトヘトに疲れ切って帰宅する。風呂と食事を済ますともうテレビを見る気力さえない。「布団に横になりたい!」だがその誘惑を断ち切り、目覚まし時計をにらみ付けながら机に向かい教科書と参考書、ノートを広げる。

 卓球にもライバルはいるが、勉強にもライバルがいるのだ。その勉強のライバルの顔を思い浮かべ「負けてたまるか!」と心燃やす。


 このイケメンの生活のどこに恋少女と花火大会に行くだけの気力が残されているだろう?

 イケメンは恋少女と手などつなぎたくないのだ。

 女の子とチャラチャラ遊ぶより、卓球や勉強に燃えている方が楽しいのだ。

 中学1年生のイケメンのお小遣いに「交際費」という用途は存在しないのだ。


 花火大会を約1週間後に控えたある日、イケメンは卓球部の練習の一環として校庭を走っていた。正確には校庭を包括するように建っている校舎まで、つまり校内をグルリと囲んでいる通学路を走っていた。

 途中、校舎と校舎をつなぐ渡り廊下の部分がある。

 恋少女はそこに女生徒数人と陣取って、走るイケメンに話しかけようとした。携帯もスマホもない時代である。イケメンは卓球のライバルに負けてなるものかと全力で汗を流し走っていた。恋少女の為に足を止め、浮付いた花火大会の話など聞きたくなかった。

 後日、イケメンは恋少女に泣き付かれた。

「止まってと何度も一生懸命お願いしたのに、どうして止まってくれなかったの?花火大会の打ち合わせをしたかったのに」

 イケメンは驚いた。既成事実に。いつの間にか「花火大会でデートする」事になっているのだ。


 イケメンは優柔不断で曖昧だった。

 そして恋愛については初心うぶだった。

 イケメンは間違っていた。

 恋愛について詳細精細で百戦錬磨の手練手管だった恋少女に「YES」か「NO」をハッキリと意思表示するべきだったのだ。

 恋少女に「行く」「行かない」を明確に伝えるべきだったのだ。

 このイケメンの「やさしさ」が恋少女を生きたまま地獄に落とすのだ。それはまだ1年以上先の話だが。


 結局、イケメンは恋少女を無視し花火大会をぶっちぎった。

「どこそこで何時に待っているから」

 恋少女の言葉を聞いたような気もしたが。


 階段の如く時間を昇りイケメンは高校生になった。そしてクラス一のヤリチンに向かい言った。

「君は女がいないと生きて行けないの?」

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