白くて四角いの
試験結果が出るまでの数日間は、高校生活の中でも最も解放感に浸れる数少ない期間なのかも知れない。清々しい季節も相まって、学校中にゆったりとした時間が流れているようだ。そんなマッタリとした昼休み。いつものように黒田と松本とで弁当を突いていると、思い出したように黒田が言った。
「小惑星UFO説って知っているか?」
どうしたんだ黒田。俺にとっては昨日の今日だ。
「知ってる。まとめサイトだろ」
松本が同調する。流行っているのかUFO説。俺が嫌な顔をすると「ゴリョウさんみたいな電波な話じゃなくて、もっと科学的な話」と黒田が付け加えた。UFO説という段階で電波以外の何ものでもないと思うのだが。
「アマチュア天文家の間で話題になっているんだよ。例の小惑星が速度を落としているらしい。しかもこのまま減速すると地球にぶつかるかも知れないって」
「そうそう。複数の観測で確認されているのに、大きな天文台に照会してもそんな事実はないって否定されるんだって。なんか陰謀めいてるよね」
黒田と松本の会話に俺は軽い目眩を覚えた。
「まとめサイトに出たのはいつ?」と俺。
「さぁ? ここひと月ぐらいかな。でもアマチュア天文家の間では、もっと前から話題になっていたらしいよ」
未亜もまとめサイトを見たのだろう。少し安心している自分が恥ずかしかった。
「宇宙人だぜ、本当だったら凄くね? どんな格好しているんだろう」
「やっぱあの目のでかい、リトルグレイってヤツじゃないかなぁ」
二人ともUFO説の支持者らしい。良かったな未亜、仲間が増えたぞ。今勧誘すれば地球防衛軍に入隊してくれるかも知れない。
「なあ、その宇宙人って何をしに地球に来るんだ?」
俺が尋ねると二人はそれぞれ「侵略」「調査」と答えた。
「侵略はないよ」と松本が自信ありげに黒田の否定に取りかかる。
「宇宙進出は国家レベルの事業なんだ。ましてや他の惑星に行こうともなると世界レベルの大事業になるはず。つまり世界が平和で豊かでないと宇宙には出られないと思うんだよ。そんな連中が侵略なんて考えないよ、普通」
たしか人類の宇宙開発技術は冷戦時代に発展したと聞いたような記憶が。
「知の探求。これは知的生命体に備わった本能なんだ。いざ行かん、星々の海原へ」
松本が自分のセリフに酔っている。混ぜ返すのも可哀想なので放っておこう。それにしても未亜とは考え方がまるで違う。未亜のネガティブな思考はどこから来るのだろう。
「で、ゴリョウさんはなんか言ってないの?」と黒田。
「なにも」
面倒くさいので嘘をつく。これ以上話を広げたくない。
「今こそゴリョウさん、張り切るところじゃないの?」
願わくは張り切らないで欲しい。
放課後部室へと向かう。漫研に決められた活動日はなく、城崎先生の都合の良いときだけ集まり、城崎先生を中心に「楽しい時間」を過ごすことが日課となっていた。しかし今日からは違う。押しつけられたイベントとはいえ、漫研始まって以来の本格的な活動だ。漫画が描けないにもかかわらず、俺は不思議とやる気を感じていた。城崎先生に対する意地かも知れない。
部室に入ると岩倉が一人座っていた。他はまだ来ていない。岩倉は小さく会釈をすると、昨日はどうのこうのと消え入りそうな声で何か囁いた。どうやら昨日の礼を言っているようだ。
「何か良いアイデア出た?」
声をかけると岩倉はふるふると首を横に振った。ふと思いつき、ダメモトで聞いてみる。
「今度内緒で幡枝さんが描いた同人誌見せてよ」
やはりふるふると首を横に振る。
「幡枝さんには絶対言わないから」
もう一押しするとまたふるふると首を横に振った。その仕草が小さい頃のあかねに似ていることに気がついた俺は少し意地悪をしたくなった。これがすべての間違い。
「えー、見せろよー。減るもんじゃなしー」と言ったところに未亜が来た。
「このセクハラ大魔王!」と未亜が俺を指さす。
な、なに?
「成敗してくれる!」と未亜が部室の入口から俺に向かって突進してくる。
「未亜ちゃんキッーク!」
舞い上がったスカートからコンマ数秒間姿を現したパンツ(赤のタータンチェック)に不覚にも目を奪われ、回し蹴りを側頭部にまともに食らう。目から火花が出た。
「どうしたの」と幡枝さんと榊田さんもやって来た。
「このケダモノがトモミンに『見せろよぉ、このアマ。減るもんじゃないだろうが。グヘヘヘッ』と迫っていたのだ! ボクという愛人がいながら!」と未亜が声を荒らげた。
ちょっと待て。その言い方では完全に俺が変質者ではないか。しかもお前を愛人にした覚えはない。
「本当は何て言ったの、トモミン」
さすがに未亜の話をまともに聞くような幡枝さんではない。しかし岩倉は同人誌の話そのものをまずいと思ったのか、うつむいて沈黙してしまった。未亜が第二波攻撃準備体制に入る。状況は悪化する一方だ。事態の収拾に向け、俺は幡枝さんの同人誌を岩倉に見せてくれるよう頼んだことを告白し、岩倉と幡枝さんに謝罪した。
「そう言うことは本人に直接頼むのが筋じゃないかな」
幡枝さんが冷ややかに俺を見る。えー? 昨日頼んだけど見せてくれなかったじゃないですか! 女の人って本当に不条理な精神構造を持つ生き物なんですね。
城崎先生こそ姿を見せなかったが、この日行ったブレーンストーミングは白熱した。漫研でこれほど有意義な討論が行われるとは誰が想像しただろう。部活動をしているという実感に満ち溢れている。ただエコを語るならスペクトルマンとかヘドラとか、意味不明な不規則発言を繰り返す未亜には閉口した。書記を努める俺の労力を考えてからものを言え。
「エコロジーとは本来生態学を指す言葉なんだ」
榊田さんの言葉が印象的だった。現在使われている「エコ」という言葉には学問のニュアンスのかけらもない。「言葉の意味が推移するのは仕方ないけど、ファッション化するのは好ましくないよね」と榊田さんは言う。執拗に一部の主婦や企業を非難する幡枝さんの怒りはここにあるのかも知れない。結局アイデアはまとまらず、議論は次回へと持ち越しとなった。
いつものように未亜を家に送り届けると、ちょうど夕食時でまたおばさんに誘われた。
ここのところ断ってばかりだったし、未亜が見せたいものがあると言うので久々にお邪魔することにした。御陵家はお姉さんが留学先のアメリカで就職したため、現在はおじさんとおばさんの三人暮らしだ。ちなみにおじさんは大学で天文学を教えている。以前は学問一筋の人で、大学や天文台に籠もりきりだったらしい。しかし未亜の入院以降、家にいる時間がめっきり増えたという。
若いんだから遠慮しないで食べなさいと詰め込みにかかるおじさんとおばさん。大人は若いという理由だけで何かと若者に無理難題を押しつけてくる。
「男の子は食べっぷりがいいねぇ」とおじさんが目を細めると、更におばさんがおかわりを注ごうとする。京都人のように三回ほど断ってようやく食事が終了すると、いつの間にかスウェットに着替えた未亜が「部屋に行こう」と俺の手を引いた。ご馳走様もそこそこに席を立つ俺たちを、おじさんとおばさんが微笑ましく見ている。
えーっと。何か勘違いをされていませんかね?
部屋に入ると甘ったるい香りが鼻孔をくすぐった。言っておくがけして「女の子の甘く切ない香り」ではない。プラスチックもしくはビニール系塗料の、色気も素っ気もない工業製品的香りだ。これらの香りは部屋を埋め尽くす無数のフィギュアから発せられていた。未亜は無類のフィギュアコレクターなのだ。洋画系、特撮系、アニメ系などジャンルは様々で、高さ五センチほどの小さな食玩から、三十センチクラスの本格的なアクションフィギュアまで、壁に作られた専用の棚に整然と並んでいる。アメリカに住むお姉さんから贈られたものもあり、その幾つかはネットオークションでプレミア価格の付くレアなものだという。床にはフィギュアのパッケージが堆く積み上げられ、足の踏み場もない。とても女子高生の部屋とは思えない光景だ。
「店でも開く気なのか? 前来たときより確実に増えただろ」
呆れ眺める俺の顔前に、未亜がおもむろに手を突き出す。見ると手のひらに宇宙船のようなものが乗っていた。ジンベイザメを思わせる流線型のシルエットに、様々な構造物が突き出ている。俺もSF映画が好きで結構観てはいるがこの形に記憶はない。
「何これ、買ったの?」
「地球防衛軍の宇宙戦艦、シュピーゲル号。自分で作った」
未亜は「3Dプリンタで出力したんだ」と付け加えた。
「ずいぶん精巧にできているな! 自分でデータを作ったのか?」
「うん。七百分の一模型。実物は現在艤装中」
未亜がうれしそうに答えた。手に取り改めて観察すると、密度が半端でないことに気がつく。突き出た複数のアンテナが整然と並んでおり、途中で太さが何段階かに変化している。艦橋は電子基板のように精密でパネルラインも細く美しい。こいつにこんな才能があったとは! しかし部屋には3Dプリンタはおろかパソコンすらない。それどころか机の上に勉強道具さえ見当たらない。
「どこで作っているんだ?」
「作業場はお姉ちゃんの部屋を借りている」
御陵琉花、通称ルカ姉。
たしか七、八才ぐらい年上で、小さい頃に良くいじめられた。パンツを脱がされたような憶えもあるが、今考えると立派な幼児虐待だ。ひたすら喧嘩っ早く、近所の男子連中相手に四六時中喧嘩していたような記憶がある。未亜の喧嘩上手とオタク趣味は、ルカ姉による英才教育の賜物なのだ。それでいて中学卒業と同時に、アメリカの大学へ飛び級留学した秀才でもある。当時は新聞やテレビにも取り上げられ話題となったらしい。
今は博士号をいくつも取って、カリフォルニアかどこかの大学で教鞭を執っているという。中学生の頃から実験観測機器を自作し、特許を取得してしまうような人だったので、部屋には3Dプリンタをはじめ工作道具一式が揃っているのだろう。
「今度本物に乗せてあげるね」と未亜が俺から模型を取り上げ棚に戻した。そこには榊田さんが描いたと思われる宇宙船のスケッチがピンで留めてあった。まさにこの模型のデザイン。模型とはいえ本当に作っていたとは驚きだ。
「これ、榊田さんに見てもらえよ。きっと喜ぶぞ」
「ヒロシ」
「うん?」
未亜が模型に気をとられている俺の不意を突く。
「ヒロシは幡枝先輩が好き?」
俺は自分自身が想像以上に動揺していることに驚いた。
「な、なんでそう思う?」
「だって、いっつも幡枝先輩のこと見ているもん」と拗ねた声を出した。
「そんなことはないと思うけどな……」
いや、実は結構見ている。見ていることを気づかれないよう、見ていたつもりだった。
「じゃあ、やっぱりボクは愛人でいいや」
なぜ話がそこに繋がる? しかも俺が未亜を振ったような結末になっている。
「だから愛人ってなんだ? どうして愛人なんだ?」
どうして恋人じゃないんだ、という言葉を辛うじて飲み込む。
「愛人がダメならペットでもいいよ」
じとっとした眼差しで未亜が俺を見つめる。
「ヒロシの部屋のベッドに鎖で繋がれ、夜な夜なご奉仕するの」
こんな会話、おじさんとおばさんに聞かれたらどう申し開きするのだ。
「ペットだからもちろん生まれたままの姿。エサはペット用のボウルに入ったシリアルやミルクを、手を使わないで食べるの。お風呂はヒロシが入れるんだよ。ボクを犬のように洗うの」
耳が熱くなるのを感じた。これはからかうにしては度が過ぎている。俺も人並みに健康な男子高校生だ。新聞の週刊誌広告に踊る小さな「巨乳」という文字が、解散総選挙を伝える大見出しよりも先に目に入ってしまう年頃なのだ。しかもここは仮にも女子の部屋。身体が部分的にトランスフォーメーションする前に脱出しなければ。
「は、幡枝さんは憧れというか憧憬というかそう言うのじゃなくて」
何を言っているのだ、俺。
「とにかく、お前のエロトークに付き合っているほど暇じゃないんだ」
結局動揺を抑えることができないまま、強がりだけで逃げ切ろうとする俺を楽しそうに見つめながら未亜が言った。
「女の子だってエロい妄想に浸ることがあるんだよ」
おじさんとおばさんに挨拶をし、御陵家を出るとそのまま未亜が着いてきた。コンビニに行くという。鼻歌を歌い上機嫌だ。俺をからかい動揺させたことがよほどうれしいらしい。幡枝さんじゃないけど、ホントいつか痛い目に合う日が来るぞ。
間もなくコンビニに着いた。
「じゃ、また明日な。まんがコロシアムのアイデア、ちゃんと考えておけよ」
未亜は答えず一点を見つめていた。未亜の視線の先に道路を挟んで児童公園がある。その公園入口の街灯下に男が立っていた。こちらを向いているが、パーカーのフードに隠れ表情をうかがうことはできない。未亜はその男を見つめていた。
「ヒロシは帰って」
未亜の言葉を待っていたかのように、パーカー男が身体を左右に揺らしこちらに向かって歩き出した。俺の頭の中で警報が鳴る。
ヤバイ。何故かはわからないが「あの男はヤバイ」という確信に近い予感がある。トレカをだまし取った連中とは明らかに次元が違う。
喧嘩など一度もしたことがなかったが俺は未亜の前に立った。最悪警察を呼べば良いと、ズボンの上からポケットのケータイを確認する。車道を渡ってこちらに近づくにつれ、パーカー男が百九十センチを超える巨躯であることに初めて気がつく。
若干の後悔とともにアドレナリンがどっと吹きだした。
「危険。下がって」
未亜が俺の腕をつかみグイと引き戻す。
今危険と言ったのか? こいつは危険なのか? パーカー男は三メーターほど離れた位置で止まった。顔はやはり影で見えない。数秒の沈黙。
「み、ささっぎ、さ、ン」とパーカー男が壊れたボイスドールのような声を出した。しかも聞き取るのが困難なぐらい怪しい日本語。こいつ外国人なのか。
「げんご、てきいし、のそつうお、き、ぼうし、まっす」
な、なに? 今なんて言った?
「もう少しまともに話せないの?」
未亜が腕を組み憮然と言う。
「げん語てき意、しのそ通をき望、します?」
「もうちょい」
「言語的、意思の疎通、を希望します」
「ふん。やればできるじゃない」
「ふんやれば?」
パーカー男が唸った。
「まぁいいや。で、何の用?」
「知り合いなのか」と俺はやっとの思いで尋ねた。
未亜は俺に視線を移すと「知り合いなもんか」と口を尖らせた。
「みささぎ、さんへは、謝罪を尽く、しても尽くし、きれない。それでも、あなたの存在と行動はあまり、にも想定外。現交渉において最大の不安要素。不確定で不可思議。しかも理不尽。第三者を交え、た会合であなたの明確な意志を示し、て欲しい」
謝罪、第三者、交渉……。示談のことか。
やはりという思いがこみ上げ、胸が押し潰れそうになった。同時に「ヒロシは帰って」という言葉の意味を悟り無力感に襲われる。これは未亜が俺に聞いて欲しくない話なのだ。そして俺が聞いてはならない話なのだ。だが同時に疑問が湧く。未成年である未亜に直接話をするとはどういうことだ。どんな事情があろうとも普通は弁護士などを通し保護者とするものだ。当事者同士の接触などあってはならない。
「見つけた」と言ったな。こいつひょっとしてストーカーなのか? だとしたら……。頭の芯がキラウエアの煮えたぎる火山湖ように熱くなるのを感じた。
「お前、こんな時間に女の子をつけ回してどういうつもりだ。ストーカーか?」
危うく声が裏返りそうになったが、俺は毅然とした態度で言い放った、と思う。たぶん。
「言いたいことがあるなら公の場で堂々と言え」
よく言ったぞ俺。自分で自分を誉めてやりたい。そんな俺を驚いたように見つめる未亜。俺だってやるときはやるさ。さぁ、どう出るパーカー男。暴力だけは勘弁な。緊張が頂点に達しようとしたとき、未亜が「うふ」と俺の腕に絡みついた。
うふ?
「そうだそうだ。このストーカー野郎!」
未亜が「きゃっきゃっ」とはやし立てる。
きゃっきゃっ? 未亜の予想外の反応と、この局面にあって「未亜の胸って柔らかいな」と思っている自分自身に驚き混乱した。
「すっとっかー。日本、語は外来語の識、別と適用が困、難」とパーカー男がまた唸る。
「一昨日来やがれ、このスットコドッコイ」
二十一世紀生まれとは思えない素敵な捨てセリフを吐いたあと未亜は右手の中指をたてた。その様子を漫然と眺めていたパーカー男は、こちらはこちらで「また、来、る」とスカイネットが作った殺人ロボットのようなセリフを言うと、再び身体を左右に揺らしながら児童公園へ戻っていく。
よく分からんが取り敢えずここは切り抜けることができたようだ。しかしほっとしたのもつかの間。俺の腕から目にも止まらぬスピードで未亜が抜け出し、「隙あり!」とパーカー男の背中にドロップキックを食らわした。
キックを食らい、うつ伏せに倒れるパーカー男。
「えーっ!」と叫ぶ俺。
なぜ話をややこしくするのだ、この馬鹿女!
ところがパーカー男はもたもたと不器用に立ち上がると、何事もなかったようにそのまま公園の中に消えていった。
「うっしゃぁ!」と未亜がガッツポーズをとる。目が合うなり俺に駆け寄り、再び腕に絡みついた。
「たとえ全世界を敵に回しても、ヒロシだけは守ってみせる」
言葉の意味よりも、より一層腕に強く押しつけてくる未亜の胸の感触に、俺の全神経は集中していた。
「おい、篠原。聞いているのかよ」
黒田の顔が目前にあった。
「あ?」
「あ? じゃねえよ」
黒田が「髙野シェフのクラムチャウダーパン」を頬張っている。コンビニの期間限定商品だ。クラムチャウダーってどんな食べ物なのだろう。汁っぽい印象はある。クラムチャウダーとかオートミールとか、アメリカ映画などで名前は良く聞くけど、食ったことはおろか見たことさえない。もとを知らずしてアレンジした物を食べるのは本末転倒のように思える。
「アメリカ大統領が国連で宇宙人に関する発表を行うって話だよ」
またまとめサイトらしい。ネットは便利だ。リデュースなんて国語辞典に載っていない外来語を瞬時に検索できる。その反面真偽の見極めが難しい。まとめサイトや2ちゃんはその代表格だ。そんな書き込みに、なぜお前はそこまで熱いのだ。俺は昨夜の一件で一睡もできなかったというのに!
翌朝未亜にどんな言葉をかければ良いのか。どんな顔をして会えば良いのか。一晩悩んだにもかかわらず、未亜はいつもと変わらない笑顔で「オス」と言った。恐る恐る夕べのことを聞くと「面白かったねぇ」とケラケラ笑う。おじさんとおばさんに話したのかと聞くと「なんで?」と不思議そうに聞き返す。俺が考えていたような深刻な事態ではなかったのだろうか。だとしたら悩んだ時間を返して欲しい。
「『アメリカ大統領』を持ち出すところがハリウッド映画的で嘘くさいよ。信憑性を増すため後付けした演出を感じる」
松本もたまには良いことを言う。その通りだよ黒田くん。なんでもかんでも鵜呑みにするものじゃない。そんなことでは将来マルチ商法や霊感商法に引っかかり、全財産を失った原告団の一員としてテレビのニュース番組にその姿をさらすことになるぞ。顔にモザイク入りでな。
「なんだよ、お前も小惑星UFO説だろうが」
黒田がムッと松本を睨む。
「でき過ぎているって話だよ」
「アメリカ政府がパニックを和らげるため、情報を少しずつリークしているんだ」
人は一旦信じると、自分の都合に合わせた論理を無意識に構築していく。酷いときには見えないものまで見えると言い出す。その昔、火星に運河があると主張した人々が良い例だろう。彼らは望遠鏡を覗き、火星表面にあるという運河を克明にスケッチしてみせた。もちろん火星に運河などないし、見間違えるような地形すらない。火星人の存在を信じるあまり、運河という幻想をつくり出してしまったのだ。
そもそもリーク先がまとめサイトってあり得ないだろ普通。
「篠原」と黒田がアゴで教室の入口を指す。
見ると城崎先生が俺に向かって手招きしていた。手のひらを上にしての欧米式手招き。
「誘ってる、誘ってる。ありゃ完全にAVだよな。昭和の」
「カモーンってか?」
黒田と松本が声を潜めて笑う。昭和のAVがどんなものなのかは知らないが、いくらアメリカ人とはいえあの手招きでは誤解されても仕方ない。一応部の顧問でもある。恥ずかしい。
「ちょっと行ってくる」
ほとんど手をつけていない弁当箱を閉じ立ち上がると、「童貞捧げて来い」と黒田が俺のケツを叩いた。頼むから死んでくれ。
入口まで行くと城崎先生は何も言わず、俺に背を向けスタスタと歩き出した。どうやら「着いて来い」ということらしい。「ちょっと良い?」とか「時間ある?」とか人の都合を聞くという発想はないようだ。慌てて追いかけると一階に下り下駄箱へ向かった。そして廊下の死角になる場所まで来ると振り返り言った。
「漫研の方はどう?」
「ええ、それはもう、白熱した議論が初日から炸裂し、みんなやる気満々です」
「それは結構」
そんなことは部室に来ればわかることだ。いぶかる俺を制するように、先生はいつものハイテンションからは想像もできない、低いトーンで言った。
「御陵の何を知っているの、あなたは」
心臓がドクンと鳴った。「何を知っているの」とは何を指しているのだ。
去年の夏休み、未亜が入院していたことを知る者は少ない。教師陣はさすがに知っているだろうけど、生徒で知る者は数えるほどしかいないはず。それを聞いているのか?
「なぜ、そんなことを俺に聞くんですか」
漫研の顧問とはいえ一介の講師がなぜ俺にそんなことを聞く? しかし城崎先生はただ黙って俺の顔を眺めているだけだ。
「俺は何も知りません」と口にしてから、これは何か知っていると告白したも同然ではないかと気がつく。
「アキハバラ……」
城崎先生の呟きに思わず「え?」と聞き返す俺。
「篠原君。君はいい人ね。間違ってもポーカーに手を出してはダメよ」
城崎先生が表情を崩した。声のトーンも戻っている。
「そんなに怖い顔しないで。ほら、あの子、ちょっと変わっているじゃない? 心配だったから聞いてみただけ」
「下駄箱の前でですか」
「そう、下駄箱の前でよ。学園アニメの告白シーンみたいでドキドキしたでしょ」
城崎先生が不適に微笑む。
嘘だ。先生は何を聞こうとしている? なぜ未亜に興味を持つ?
「アキハバラってなんですか」
先生は答えず、食事中ごめんねと去っていった。
その日の放課後。部室では昨日に引き続きまんがコロシアムの会議が開かれた。何事もなかったように城崎先生も加わっている。未亜もまた何事もなかったように振る舞っている。俺の心と身体はボロボロだというのに、女どもの神経は全くどうなっているのだ。
「品質、採算。これらが伴わないリサイクルに意味ないわ」
エコの話になると人格が変わる幡枝さんが吠える。
「まだ過渡期だからね。軌道に乗るにはそれなりの時間がかかると思うよ」と榊田さんがなだめる。さっきからこの繰り返しでアイデアらしいアイデアが少しも出てこない。流れを変えたかったのだろう。榊田さんが先生に話題を振った。
「先生、アメリカのエコ事情ってどうなっているのですか」
「東海岸西海岸に住むアメリカ人は日本人以上にエコと名の付くものが好きね。セレブのエコ好きがファッション化している影響だと思う」
やっぱりファッションですか。
「アメリカって州や街によって法律や条例が極端に異なるから、どれがスタンダードだとは一概に言えないわ。換金制度が確立している街では、低所得者層の収入源としてリサイクルがそこそこ盛んだって話しは聞いたことがあるけど」
なんとも両極端なエコロジー。
「でもやっぱり好きと実践が両立していないのが実情かな。浪費大国のイメージ、そのまんまと考えてもらって良いと思うよ。だって生産される食べ物の、四十パーセントがゴミとして捨てられる国なんだもの」とアメリカ人みたいに肩をすぼませた。いや、アメリカ人だった。
岩倉が幡枝さんに何かボソボソと耳打ちをしている。この漫研において岩倉は、幡枝さん経由で自分の意見を述べることを常としていた。全く授業ではどうしているのだろう。
「それ良いじゃない」
幡枝さんが声を上げた。
「ホームレスが一番エコだって」
岩倉の言葉を幡枝さんが笑顔で伝達する。ホームレス?
「ほう」と榊田さんの顔も輝く。
「それ、良いね。究極のエコともいえる路上生活。格差社会への問題提起。現代文明に対する批判。うん、それで行こう」
なるほどそう言うことか。
城崎先生もアイロニーが効いて素晴らしいと賞賛した。大雑把なシチュエーションが決まると作画は岩倉に一任されることになった。数日中に何枚かスケッチしてくると岩倉が約束をして今日の会議は終了した。
片付けを終え部室を出ようとしたところ、いつの間にかカギ当番の岩倉の姿が消えている。先に帰るなら声ぐらい掛けろよな……と思ったが、掛けられたけど俺が気付かなかっただけなのかもしれない。仕方がないので俺が部室を閉め鍵を返却する。校門に行くと今度はそこで待っているはずの未亜がいなかった。しばらく待つが一向に姿を見せない。校舎に戻り未亜の教室を覗くが誰もいなかった。嫌な予感がする。職員室に行き外から様子をうかがうが城崎先生の姿も見当たらない。
「どうした篠原。もうすぐ下校時間だぞ」
体育の野々上先生である。運動場から戻ってきたところのようだ。
「城崎先生を捜しているんですが」
「城崎先生? さっき柔道場の近くで見たな」
「御陵と一緒じゃなかったですか?」
「あー、誰かいたような……」
野々上先生の「廊下を走るな」という怒鳴り声を背中で聞きながら俺は走った。柔道場はグラウンドを挟んで新校舎の対面にある。土足に履き替え、練習が終わり片付けをしている野球部の横を駆け抜けた。柔道場の前まで来ると足を忍ばせゆっくりと裏へ回る。未亜と城崎先生の声が聞こえてきた。
「……に、どうして干渉しようと……」
「……に覚えていな……」
良く聞こえない。何を許せないって? 仕方がないので姿をさらすことにした。
「何を、している、のですか」
息が乱れ、言葉が途切れ途切れになる。城崎先生が俺に振り返る。
「あら、ヒーロー君のご登場ね」
息を整えもう一度言う。
「何をしているのですか」
「別に。二、三質問を」
「柔道場の裏で、ですか」
「そう。柔道場の裏で、よ。学園アニメみたいでドキドキするでしょ」
城崎先生が不適に微笑んだ。やはり話すつもりはないようだ。
「ボクを探しに来てくれたの?」
未亜がウルウルした目で俺に飛びついてきた。
「わーん、怖かったよう」
あからさまな嘘泣き。どうやら酷い目には遭っていないようだ。
「何の話をしていたんだ」
「ボクとヒロシの性生活について」と上目づかいに言った。
「あのな……」
「マンネリ化しない体位の追求。セックスレスだけは許せない」
未亜も話すつもりはないらしい。
「篠原君の性癖は充分に聞かせてもらったわ。避妊だけはしっかりしてね。避妊は男の子の義務よ」
ほほほと笑うと、城崎先生は職員室のある新校舎へと戻っていった。
俺は未亜をマクドナルドに誘った。
「奢り?」と聞く未亜に「奢り」と答える。懐にゆとりなど少しもなかったのだが。
早速ハッピーなんとかセットを注文している。写真で見る限り結構なボリュームだ。この時間に食って夕食が入るのか。小さいくせに本当によく食う。俺も同じものを頼み金を払った。
「えー、なんでくれないのぉ?」
未亜が店員に何やら文句をつけている。
「こちらのフィギュアは小学生以下のお客様にお配りしているものでして……」
「ボクには小学生の弟と妹が二人もいるんだ。こっちのヒロシは妹が三人! 今日はたまたま来ていないだけ! もらえないなんておかしい! 本部に電話して断固抗議する!」
バレバレの嘘に苦笑しながら、「特別ですよ」と店員がフィギュアの入った袋を二つ手渡した。もうひとつくれとせがんでいたが、さすがにこれは断られたようだ。実に嫌な客。しかも人の奢りでこの態度だ。
「ご用意できたらお席までお持ちします」
トレイにドリンクと黄色い番号札を乗せ奥の席に陣取る。
「なぁ」
「んー?」
未亜は既にフィギュアに夢中だ。袋から取りだし馴れた手つきで組み立てると、なめ回すように眺め始めた。このままでは話にならないのでフィギュアを取り上げた。
「あ、何をする! ヒロシにはやらないぞ」
「話を聞かせてくれないか。話せるところまでで良いから」
「……」
恨めしそうに俺の手もとのフィギュアを見ている。
「昼休み、城崎先生にお前のことを聞かれた。夕べの男に関係するのか」
「……」
口をへの字に曲げて答えない。俺は思いきって聞いた。
「夕べのことは、去年の入院に関係することなのか」
俺が未亜の入院について聞くのは今日が初めてだ。今まで聞かなかったのは未亜に気を遣っていたからではない。未亜が抱える現実を知るのが怖かったからだ。
未亜が拗ねた声で言った。
「言っても信じてくれないし」
「信じるも信じないも聞いてみなければわからないだろ」
「だって地球防衛軍の話、ちっとも真面目に聞いてくれないじゃないか」と頬を膨らませ口を尖らす。なぜここで地球防衛軍の話しが出る?
「校門で一緒に隊員募集のチラシを配ったのは誰だ」
「……ヒロシ」
一言発すると黙ってしまった。あの時は成り行き上一緒に配っただけで、恩着せがましく言えるほどのものではない。だがあれが俺の「お客様相談窓口」としての第一歩だったことには違いない。
「話したくないなら話さなくて良い。でもそれはお前一人で抱えきれる問題なのか」
そう言いながら、これは自分自身に対する問いかけそのものだなと思った。俺は本当に踏み込んでしまって良いのだろうか。俺は聞いたことに対して責任が負えるのだろうか。
未亜はしばらく俺の顔を眺めたあと、コーラを一口飲んでから話し始めた。
「去年の七月二十四日、ボクはアキバにいた。なぜかは良く覚えていないけど、裏路地を歩いていた。そこに落ちてきたんだ、白くて四角いのが」
「白くて四角い?」
「エアコンの室外機」
家庭用の小さなものでも相当重いはずだが、まさかそれが?
「頭を直撃した」
未亜は自分の左の頭を指さした。
「自分の頭の骨が砕ける音を聞いた。熱く焼けたアスファルトに血だまりがザーッと広がっていくのが見えた。肉片が混じっているのも見えた。なくさないよう集めなきゃって思ったけど、指一本動かせなかった。意識が途切れる瞬間まで誰か拾ってと願っていたのを覚えているよ」
秋葉原の裏路地で倒れているところを発見され、病院に運び込まれたという。
「病院のベッドで意識を取り戻した時、ボクはボク自身でなくなっていることに気がついた。一部記憶がなくなっていた。逆にボクが知らないはずのことを知っていた。それどころか人類が本来知り得ない知識までインプットされていた。この記憶や知識がどこから来るものなのか、そしてどれがボクの元々の記憶なのか。断片化した記憶が新しい記憶と入り交じって、区別ができなくて凄く苦しんだよ。自我が保てなくて気が狂いそうだった。その時来てくれたのがヒロシだ」
俺が知る八月三十日にここで繋がるようだ。頼んでいたハンバーガーセットが届く。包み紙をバリバリと開き、ハンバーガーを頬張りながら未亜は話を続ける。
「ヒロシが昔話を聞かせてくれるようになってから、少しずつ記憶の整理ができるようになった。自分自身の記憶と新しい記憶との取捨選択ができるようになったんだ。そして新しい記憶の奥底に、この記憶の持ち主を発見した」
発見? いわゆる二重人格的なものを言っているのか。たしか解離性同一性障害って言ったっけ……。
「それがシュピーゲル号。大規模な人工知能(AI)を有するスターシップ。ペルム紀に栄えた古代文明の遺産。名前はボクが勝手につけたんだけどね」
俺は頭を抱えた。入院していたのは事実だ。入院していたのだから酷い怪我だったのかもしれない。だが古代文明とは何の冗談だ。シュピーゲル号とは榊田さんにデザインをさせ未亜が立体化したあの宇宙船のことか? こいつにはもともと妄想癖がある。取り留めもなくあふれ出る妄想をそのまま口にし周囲を混乱させる。昔俺が夢の中で未亜の今川焼きを盗んだと言って殴りかかってきたことがあった。今回もその延長なのか。
「その……シュピーゲル号? が、今接近してきている小惑星なのか」
小惑星UFO説を思い出し、口にしてみる。
「違う! ヤツらは外宇宙からの侵略者。シュピーゲル号は地球と文明の歩みを見つめてきた観察者。ボクと融合することで自我を持った……いや、ボクの自我が乗り移った? あれ? まぁ、どっちでもいいや」
未亜が喋りながらポテトを口に押し込む。融合とはどういう意味だ。
「ボクの命と思考を維持するために、失った左脳をシュピーゲル号の人工知能がフォローすることになった。秒を争う深刻な状況の中、緊急避難的措置を施したところ、誤ってお互いの思考を共有してしまったんだ」
ポテトをコーラで流し込むと再びしゃべり出す。
「もともとシュピーゲル号は不干渉主義の観察者。太古より地球を観察し続けてきた存在だ。自己補修を繰り返しながら少しずつ進化し、あるとき宇宙からの観測に飽き足らなくなって、アンドロイドを作り地上に派遣するようになった。そこへやって来たのが外宇宙からの侵略者たちだ」
「そのアンドロイドって、まさか昨日の男じゃないだろうな」
「だぁーかぁーらぁー、あれは侵略者側のガラクタロボット! ウチのは超高性能アンドロイドのハック!」と手にしたポテトを振り回す。
どちらにしてもロボットなのか。
「侵略者の活動を調査するため、シュピーゲル号がハックを派遣したんだけど、遭遇と同時に追いかけっこになっちゃって。たまたま居合わせたボクが巻き込まれたらしい。不干渉主義のシュピーゲル号としてはボクを死なすわけには行かなかったのさ。そして誕生したのが肉食系パンダことスーパー未亜ちゃんなのだ」
未亜が正義の味方のように胸を張った。しかし話が完全に破綻している。怒らせないよう矛盾点を慎重に列挙してみる。
「頭のレントゲン写真は当然病院で撮ったはずだよな? 脳みそがなくなっていたら大騒ぎになるんじゃないか。その……シュピーゲル号……の治療痕とか?」
「CTだのMRIだの、初歩的な走査機器をごまかすのは簡単。偽情報をスキャンさせちゃえばいい」
「砕けた頭蓋骨が二週間程度でくっつくとは思えないぞ」
「ある程度は医療用ナノマシンが補修してくれたけど完治はさすがに無理。当時はナノマシンも急作りで性能が低かったからね。意識が戻るまでに三日、傷が治るまでさらに四日かかった。病院に運び込まれたとき、顔と頭がパンパンに腫れ上がっていて、ボクとはわからなかったとお母さんが泣いていた」
ナノマシン。最近安物のSFで良く耳にする言葉だ。こいつ、知っている言葉をただ並べているだけじゃないのか。
「そんな事件があったのならニュースになるだろ。秋葉原の裏路地で女子高生が大けがともなれば、マスコミやワイドショーが犯人捜しでオタクを叩きにかかるはずだ」
マスコミにとってオタクは格好の標的だ。ことさら面白おかしく取り上げ晒し者にする。事件や犯罪ともなれば尚更。日頃人権人権と言いながら容赦なく潰しにかかる。
「それは城崎先生の方が詳しい」
なんだって? どうしてここで城崎先生の名前が出る?
「城崎先生ってこの件に関係しているのか?」
「城崎先生は侵略者側の犬」
「城崎先生は先生じゃないのか?」
「城崎先生は権力のバター犬」
指に付いたポテトの油を舐めながら未亜が俺を見る。ふざけろよ。
帰り道にも未亜はまくし立てた。シュピーゲル号はもともと観測船なので、榊田さんに宇宙戦艦としてデザインし直してもらったという。それを元に現在改装中で武装はまだないらしい。
「誰がそのシュピーゲル号を改装しているんだ?」
「シュピーゲル号自身」
話にならない。ただのご都合主義ではないか!
未亜がなんらかの事故に巻き込まれ、大けがを負ったのは事実なのだろう。現実的に推論すると、示談にするか法廷で争うかで加害者側と揉めているのかもしれない。だがそこにどうして城崎先生が関係するのだ。たまたま加害者側の知り合いだった? いや、そんな偶然は韓ドラでさえ聞いたことがない。一度城崎先生に正面切って話を聞いてみるか。でもあの先生、なんか苦手なんだよなぁ。俺のこと嫌っているみたいだし。
「ただね、ちょっと気になることがあるんだ」
未亜が再び自分の頭を指さす。
「何か重大なことを忘れているんだ」
「重大な事? 事故に関係することか」
「わからない。脳みそぶちまけたときに忘れてしまったんだと思う。とにかく気になってしようがない。アキバにボクの脳みそ、落ちてないかな。今からでも捜しに行きたい気分だよ」
「そもそもお前は何をしに秋葉原に行ったんだ?」
「ぬう。ショップに何か買いに行ったはずなんだけど」
「わざわざ東京まで出向くのだから、地元では買えないものということだよな」
「そうなのかな。わからない」
パーカー男が現れた児童公園まで来た。
警戒しながら通ったが何事も起きなかった。




