ミートコロッケの逆襲
ちくしょう! 不正しやがって!
俺は牛肉ミートコロッケ。ここ『なかよし食堂』での俺の人気はナンバーワンだ。それもそのはず、1個45円。女性でも食べやすい大きさの上に、いつでも揚げたてだ。カウンターの上の保温機の中で、いつも熱々と活気づいている。
同じようにフライドポテトや、野菜コロッケなんて奴らがいやがるが、やっぱ肉でしょう! 肉をガブッと小腹にいくでしょう!
しかし最近、ここの食堂の主任である中村のおばちゃんが、新メニューで鶏のからあげを保温機に投入。俺の人気が一時期危ぶまれた。
だが! そんな比ではない! 究極の危機が、俺を襲う。
不正だ! どこの会社か。俺は今まで自分の事を国産の牛肉だと信じていた。
なのに、ある日、店のTVニュースで流れる。
「大手メーカー『ニコニコ頑マル堂』……ミートコロッケなど食品数十品目、国産と偽る」
……俺は耳を疑った。どこに耳が、なんてさておき。
目を真ん丸にしてTV画面を注視した。どこに目がなんて略。
「うわぁ……大丈夫なの体? ミーちゃん」
と、同じ保温機内で熱々としているアメリカンドックなアメさんが隣から話しかけた。
「……」俺は黙ってTVを見つめた。「俺って……」
俺は初めてその時に気がついたのだ。
「俺、自分の事なのに何も知らない……」
決心した。
旅に出よう。自分探しの旅に。
自分が一体どこの誰で、どこから来たのか。そして、これからどこへ向かって行くのかを。
……なんかちょっとカッコイイ……。
そういうわけで。
「俺は行く。いつかは分からないが、いつか帰ってくるよ。それまで、この『なかよし食堂』を頼むぜ、みんな!」
「ミーちゃん!」「ミートン!」「ミ太郎!」
みんな適当に俺の名を呼んでいる。今まで呼ばれた事がないが誰だ? ミ太郎って呼んだ奴。
「中村さんに よろしくな!」
俺は涙を見せないように明るく笑ってみせた。そして食堂を後にした。
…… 1年後 ……
俺は帰ってきた。全ての真実を得て。
俺は偽りじゃなかった。
国産の牛肉ミートコロッケ! 間違いなし!
長かった。ヒッチハイクを得て、数万キロを駆け巡った。途中、嵐もあった。豚と、ののしられた事もあった。一番のピンチは中南東のテロ攻撃で、医者の手が足りず、「ミートコロッケですが、何か役立ちますか!」と問いかけたら「そこでジッとしていて下さい!」と言われた。
こんな医学の知識のないミートコロッケでも、ジッとするくらいはできる!
俺は言われた通りジッとしており、負傷者は目の前を次々と運ばれ通過して行った。
そんな混乱な中、俺はついに真実に辿りついたのだ!
ニュースで言っていた、『大手メーカー、ニコニコ頑マル堂』の極秘資料を入手!
ニコニコ頑マル堂本社に直接赴かず、子会社であるA社にバイトとしてもぐりこんだ。そして、パソコンからアクセスし、難解で幾十にも張られたパスワードを解読し、本社のパソコンへ侵入した。
発注記録、従業員のデータ、取引先の情報……そんなものには興味はない。
知りたいのは自分の事。己の身の事のみ。
そして突きつめた。答えは……。
「俺は、ちゃんと国産の牛肉ミートコロッケだったよ! 中村のおばちゃん!」
俺は外観変わりのない『なかよし食堂』の入り口の引き戸を勢いよく開けて叫んだ。
しかし。「アレ?」
「中村のおばちゃんは去年の暮れに退職されましたよ。ってか、アンタ何。誰」
俺を最初、出迎えてくれたのは、知らないフランクフルト。
「ちょっと。早く戸を閉めて。虫が入ってくる」
そして、やはり知らない焼き鳥。
「ああ、すいません……って、俺! 1年前ここにいたミートコロッケなんですけど! あらぬ疑いを かけられたので、身の潔白を証明しに行って参りました! ほらこれ、これがその証明書です!」
俺は身の保証書を食材の連中に見せた。ちゃんと『ニコニコ頑マル堂』の社長のサイン入りだ! どうだ、本物だぞ!
すると、焼きトウモロコシが口を開いた。
「確か、あの事件の時に中村さんがメーカー先に電話して、ちゃんと国産牛だったって言ってたよ」
そして、自分の持ち場へ戻っていった。
…………。
……。
3日後……。
トゥルルルル……トゥルルルル……ガチャ。
『……FAXの方は、そのままで、お待ち下さい。……ポーッ……』
やがて、FAXの紙が流れ出る。
営業時間が終わり、誰もいない『なかよし食堂』の店内で、ひっそりと、ゆっくり……FAXの紙は流れてきた。
それには、こう書き並べてあった。
『ミートコロッケ 国産
ミートコロッケ 国産
ミートコロッケ 国産
ミートコロッケ 国産
ミートコロッケ 国産
ミートコロッケ 国産
ミートコロッケ 国産
ミートコロッケ 国産
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……暗い……。
《END》