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初めての緊縛

「……から、――って」

「――とは――も、では!」


 誰かが言い争いをしているような声がして、僕は目を覚ました。

 寝かされている……? 固い感触。一応、枕はある。


「だから言ったのだ! 野放しにしていては危険だと!」

「責任転嫁をするなよな。原因を作ったのはそちらだ。人間の前でウキンを取り出すなど愚の骨頂。危機管理意識が甘かったのではないかい?」

「そもそも邪魔さえされなければ!」


 耳を済ませば、聞こえてくるのはイガーポップの声。もう一方はわからない。いったい何がどうなったんだ?


「待て、彼が目を覚ましたようだ」


 少し籠ったような、ハスキーなのに妙な存在感のある女の声。


「おはよう。それと、はじめまして。私の名前はイウコティ。きみは?」


 僕の顔を覗き込むようにしたその顔は、造形はまるで違うが、どこかシラと似通っていた。言葉が出せないでいると、イウコティは苛立たしげに舌打ちした。


「おい、返事くらいしなよ。挨拶をしているというのに」


 ヒタヒタと頬を叩かれる。ひどく屈辱的であると同時、少し興奮する。


「イガーポップ、本当にこいつ、野生の人間なのか?」

「間違いない、確かに野生の人間だ」

「ふうん。役に立つならいいんだけどね」


 知らないよ。何の役に立てるつもりだよ。


「野生野生ってな、人様を動物みたいに言うなよ」

「人間は動物だよ」

「そりゃあそうだが、敬意を払えという意味だ」

「はんッ」


 鼻で笑われる。


「敬意を払う必要があるのは尊敬できる相手だけさ。きみはまだ、そういう対象とは限らない」

「じゃあまあ尊敬しなくていいからさ、とりあえずこの、これ外せ」


 寝ている間に僕は両手を拘束されたうえ、寝台に縛り付けられていた。動かそうとしてもビクともしない。

 目を覚ました時に縛られてるって、なんだかとても非日常っぽい! 素敵! でも縛られるって、意外と痛いのです。擦れるわ体勢辛いわで。


「イガーポップ、どうする?」

「暴れないと約束するのであれば」

「だとさ」

「……わかっ」


 そう、捕らえられながらも取り乱さない、このクールな感じだ。この路線でいこう。と、思った矢先のことだ。僕は気付いてしまった。イウコティが前屈みに覗き込むことで、服の胸元に空間ができていることに。

 先端こそ見えないものの、なだらかなる双丘が白い服に吸い込まれているのが垣間見える。それはつまり僕の大好物だった。イウコティはそうと意識していない。これは偶然である。無意識なのが重要であり、最も大切な要素だ。


「暴れるぞ。解いた瞬間、盛大に暴れてやるからな」


 一秒でも長くこの至福を眺める為に、僕は言葉を選んだ。


「なんだい急に。じゃあ、このままだ」

「動くな!」


 顔を起こそうとしたイウコティを牽制する。ピクリと止まった。


「何故かな?」

「そのままで質問に答えろ」

「地味に疲れるんだがね、この姿勢。というかだね、動くなという命令に従う理由も、質問に答える義理も無い」

「どうせ、僕の力が必要なんだろう」


 僕の読んでいた物語ならば、そうでなければ説明がつかない。縛り付けるという措置も、僕を生かしておくことも。例えば、あのキャンディーを食べたことで、僕の身体に超人パワーが宿るだとか。


「まあ、そうだね。無理矢理従わせることも可能だが、自発的に協力してもらったほうがいいのは確かだ」


 読み通りだった。ならば、交渉の余地はある。


「いいよ、質問に答えよう。そうしたら、きみは私に従うこと」

「やだね。交換条件は先に言え」

「はァ……」


 この眉を寄せる。ふむ、よく見ればとても可愛らしい。困り顔の女ってやつぁ、基本的に魅力的だ。オロオロとしているのも、あらまあ困ったわみたいな感じも。それも、シラみたいに整った容姿のやはり人種がわかりにくいやつがってああ!!


「シラは!?」

「ん?」

「シラだよ! エム・シラ・ビナク! あいつはどこだ!?」

「シラに何の用だ?」

「シラはお前らの仲間なのか?」

「仲間……いや」

「イガーポップ! お前、シラの敵じゃなかったのか?」

「敵、か。シラがそう言ったのなら、そうだな。敵だよ」


 なんか普通に質問できてる。押し切れ。


「んじゃ、ここどこだよ?なんでシラは僕を攻撃したんだ!」

「ここは我々の家だ。シラがお前を攻撃したのは、お前がウキンを食ったからだ」


 家、ね。


「ウキンって?」

「お前が私から奪った丸薬だ」

「ああ、あのクソマズいやつか」


 おおよその推測はできていたが、あのクソマズいキャンディーがなんだってんだ。


「クソマズ……まあいい。あの丸薬はな、人間が食べてもいいものじゃないんだ。だからこうしてお前を拘束しているし、シラもお前を気絶させた」

「何が起こるってんだよ。あんなキャンディー一つでさ」

「以前、人間が誤ってウキンを口にした結果、百を越える犠牲が出たとの言い伝えがある」

「百人!?」


 そりゃあシラが慌てたのも仕方ない。でも、何がどうなったらそういうことになるんだ? 今のところ変調は無い。なんか超能力でも身に付くのだろうか。念じてみる。特に何もない。

 百人の犠牲。それには、ウキンを食った奴も含まれるのだろうか。


「何が起きたんだ?」

「……答える義理は無い」


 よほど語りたくないのか、僕に知られるとマズいことでもあるのか、二人とも口をつぐんだ。


「そういうわけで、きみは我々の監視下に置かせてもらうよ」

「ふざけ……」

「殺処分されないだけありがたいと思うんだね。暴れるのもいいだろう。しかし、きみの行動の一切は無駄だと教えておくよ。きみはもう、我々の管理からは逃れられない。大人しくしていれば、ある程度の自由は与えられる。どちらがいいかはきみが決めていい」


 なんだか、僕が望んだ非日常とは違うなぁ。やけにシビアだ。もしかしてこれは、夢じゃないのか?

 答えはどこからも返ってこなかった。

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