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以下略の歴史

 ひーわーざーけーらーぼーい、しーせーしーゆーれーだーぼーい。

 ひーわーずーぐーいーなっふぉーはー。

 じゃかじゃかでけでけ。


 イヤホンから目覚まし代わりの歌が流れてきて、僕はのそりと目を覚ます。


 セクハラ職人の朝は早い。

 最近はいい素材が身近にありすぎてありがたみが薄れていると愚痴をこぼした。

 まず、素材の入念なチェックから始まる。目に余る程でない限り、あまり手は加えない。ここは目視で抑えておく。


 一番嬉しいのは、やっぱり最高の一瞬を切り取れた瞬間ね。この仕事やっててよかったなと。

 毎日毎日状態が違う。機械ではできない。


 今日は撮影の時間。

 頼み込んでいたカメラが届いたのが昨日。こっそりと隠してあったそれを取り出し、無防備に眠る略を撮影する。

 将来の僕の持ち得る嗜好に合わせ、多種多様なものを作らなければいけないのが辛いところ。

 やっぱ朝の仕事はキツイね、愚痴ってもしかたないんだけどさ(笑)

 でも自分が選んだ道だからね。後悔はしてないよ。

 このアングルはダメだ。ほら、肝心な場所が写らない。


 自分が気持ちよいのももちろんだけど。

 もちろん出来上がった物は一つ一つ私自身で試しています。最近はちょっと、そんな暇も無いんだけどね。

 まあ好きで始めた仕事ですから。


 動画と、写真。

 どちらも欠かせないものだ。僕はメモリーの許す限り、撮影を続けた。メモリーカードの追加を打診しよう。

 あけっぴろげた局部のドアップなど、下品な物は作らない。それが僕のポリシーである。美学と言ってもいい。



「ふう……」


 思うさま撮影を終えて英気を補充し、それから、少し真面目に勉強の時間だ。

 簡単に、図書室というか、本の管理をしているやつの部屋に入ることはできた。

 一通りの読みたい本を借り、自室の隅に積んでおいた次第である。

 大半は僕のいた世界にあった物だが、この世界にも独自の書籍は存在する。自分達で言っていたように、創作物はつまらない。いくつか読んだが、盛り上がる箇所が一つもなく、ユーモアのセンスもひどいものだった。

 いくつか推理小説のトリックに光るものを感じたが、キャラクターと話の進行がお粗末すぎた。


 しかし、客観的な記録は別である。

 微に入り細を穿ち、公平な視線を保って、事実あるいは推測と前置きした説のみを淡々と語っている。

 歴史とは、文字に記された記録のことである。無文字文明も無いではないが、多くの文明が文字や記号で記録を残そうと試みていた。

 現存する最古の文字記録は、たしか5000年以上前のシュメール人の石版だ。文字よりも前の段階、形象的な絵は、3万年以上前のものも残されている。


 ただしその頃、以下略どもは既に記録を残すことをしていた。木の皮を剥いだ紙に、炭と水に溶いた液体で文字を書くことを、3万年以上も前に、既に行っていた。

 パねえ。


 しかも、朽ちる前に書き写す作業も行い今だ現存しているし、解読方法も失われていない。記録として、それが残っているのだ。

 全世界の考古学者に言ったら発狂しそうだが、三万年に及ぶ歴史を、今なお受け継いでいるのだ。

 パねえ。


 資料によると、以下略は頂点に立つ存在だったらしい。

 その頃、以下略どもは何をしていたか。

 なんのことはない、今とたいして変わらなかった。


 人間を捕らえ、管理し、作物を作らせ、この四次元空間で暮らしていた。

 当時の主な娯楽は音楽、演劇など。この頃はまだ、自分達も製作に参加していたという。過激なところで、人間同士の殺し合いを見世物にしてもいたらしい。まあ人間もやっていたので責めるようなことじゃない。参加者男だし。

 胸糞悪い話だが、人の皮で家具や本の表紙を作る文化もあったようだ。


 それから、ウキン。

 謎のアイテムとして、この頃すでにウキンは登場していた。

 製法や服用方法は記載されていない。狩人の一族秘伝のものだという。狩人はこれを日常的に摂取していたらしい。


 他には、誤って人間が服用した時に100を超える以下略どもが死んだという、神話のようなエピソードが載っているだけだった。

 何が起きて死んだのかとか、そういう情報はなかった。詳細な情報が多いこの本において、それは妙にあっさりと、概要だけ書いてあるように感じた。


 本を閉じ、天井を見上げる。


 これは、根深い。

 人類がまだウホウホ言ってた頃から、奴等は人間を狩っていた。

 有史以来、というやつだ。

 これを止めるということは、日本に米食を止めさせるとか、アメリカに戦争をやめさせるくらいの難事だ。


 どうして人間を狩るのか。

 調べようとして出てきたのは、「ずっとそうしていたから」という事実。

 奴等は、人間を労働力にする生活しか知らない。人間を育てるノウハウはあっても、それ以外に何もできないのだ。

 だからあんなにトロく、弱い。魔法みたいな力を持っているから問題ないのか。

 俺だって、いきなり電気やガスに頼らない生活をしろと言われても無理だ。


 これを解決するにはどうすればいい?

 悩んで出てくるような答えは、既に誰かが考えたことだろう。

 人間。

 イコールで、労働力なら。

 全てを機械化すれば……いや、この世界における仕事の話だけじゃない。主要な産業でもあるのだ。

 無理矢理でも、僕達の世界に放り込む?

 よしんばそうしたところで、どうやるのかは知らないが、すぐに戻ってきてしまうだろう。

 皆殺し。

 馬鹿な。

 うんまあ、それでも解決はするんだけどさ。

 答えの出ないまま、起き出した以下略どもの相手をしに、僕はベッドに潜り込む。






sk8er boi:Avril Lavigne

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