甘えたいられたい
具体的に、どうすりゃ勝ちになるのか。それが確定していない以上、僕にできることは少ない。
筋肉の人はどうやら戦争的な行動を採るつもりらしく、武器の手入れとトレーニングに余念がない。
何日かが経過し、ついに決行が明日へと決まった。
そんな中でも、僕を取り巻く環境は暢気なものだ。
「なあ、シラ」
「はい、なんですか」
僕を膝に乗せてニコニコ笑顔で髪を梳いていたシラは、小さく首を傾げた。
「シラは戦う準備しなくていいの? 明日、もう戦いなんだろ?」
僕だって女の子を戦わせるなんて考えたくもないが、他の女の子は戦闘準備をしている。シラだって戦闘要員なのは、イガーポップの件でわかっていた。
「わたしはほら、こうしてあなたのお世話をするのが仕事ですし」
頭を撫でられ、僕はフニャリと笑う。ゴロニャンと胸に顔を埋めれば、仕方ないですねぇと言って顎先をくすぐられた。
うむ、Eだ。
左右から両手で胸を挟む。ブラの硬さがわずらわしいが、鼻先に当たるのは間違いなく桃源郷である。
ブラと肌の境目の、肉にちょっと食い込み、はみ出した部分の感触。それは胸そのものには無い、一種の聖域、別種の感触を作り出している。全体を擬音にすれば「バイン」または「ブルン」なのだろうが、この小さな領域は「フョン」である。
この聖なる領域を、僕は天使の枕と呼んでいる。
鼻で麗しの聖域をつつく。甘い体臭が鼻腔をくすぐる。この場所でなら安楽死してもいい。
フョン。
世界が嫉妬する柔らかさ。
「あ、白髪」
「いてっ」
プツンと抜かれる。ちょっと痛い。
美少女の膝の上で撫でられ、胸に顔を埋めて甘える。ちょっとやそっとのセクハラにも動じず、丁寧にケアをしてくれる。
それはとても幸せな、午睡の夢のようだった。
「ああ……このまま時が止まればいいのに」
「ふふ、そうですねえ」
シラは僕の耳掃除をしたり、タオルで身体を拭いたり、爪を切ったり、乳首に一本だけ生えていた毛を抜いたりした。
全身テカテカの輝き。余すところなく手入れされ、残すは股の間くらいのものだが、今はそういう時間ではない。如何にしてこのエデンを継続するかに全力を傾けるべきだ。
「うん、きれいきれいー」
シラが僕の身体を撫でて、満足そうに頷いた。
「そう?」
「はい。男前ですよ」
お世辞なのかなぁ。そうなんだろうなぁ。
「明日は、シラも行くのか?」
「どうでしょうね。場合によりますけど、行かないと思います。危険なので、あなたは明日お留守番ですよ。いいですか」
「んー、モチロン。危ないのヤだし」
「いい子ですねー、よしよし」
「んー」
口に放り込まれたイチゴを齧る。甘酸っぱい。
思考能力の低下を感じる。これはアレだ。悪魔的所業である。堕落の園だ。ソドムとかゴモラだ。
我思う故に我在りを真だとするならば、ここでは思考を失ってしまい、僕が僕である根拠が消える。このままでは、僕は自我を失う。
あれ、でもそれって悪くないんじゃないかな。
何も考えない、ただ心地よく、幸せを享受する。
だってこんなに幸せなんだぜ。
残りの御付きの二人も追加すれば、ほぼ完全な布陣じゃない?
バインフョンの甘えたのシラ、スラっと長身クールビューティーのポニテ、モチモチほっぺの将来有望ちびロリ子。
どのような敵が相手だろうと、この面子が負ける訳がない。最高のハーレムじゃないか。
「おーい、交代だぞ、っと」
ロリ子がやってきて、僕とシラを見ると、ベッドに飛び込んでくる。押しつぶされたが、たいした重さはない。
「ぐえあ」
「ずーるーいー! シラばっかりー!」
顔面を拘束され、ぐいぐいと頬擦りされた。
「うほー! うひょひょひょひょ! んー!」
スンスンと僕の匂いを嗅ぎながら、全身を擦り付けるように抱きしめるロリ子。僕がロリ属性だったらヤバかった。
あ……いや、イケないこともないというか、一応、ちょっとは臨戦態勢には入っているというか。
ロリ子は腹部に当たる石の如き部位に気付き、服の上から撫で擦る。
「ここ触ると喜ぶんだよねー! ホラ!」
己の手柄を報告するかのように、ロリ子はシラに見せ付ける。
「あら、元気ですね」
「おー! 熱い! オホっ! オヒョ! ねえ、見て見て! またおっきくなった! あひゃひゃひゃ!」
テン(ション)高く、ロリアヘる秋。
薬でもやってんのかってくらい、ロリ子ははしゃいでいる。ぶっちゃけ五月蝿い。子供ってよく奇声上げるよねえ。
感触はいいけれど、なんというか、興奮とは程遠いな。
「ごがつばえいなー」
「えーっ? なにー? いひひひひひ」
何が楽しいのだろうか。諧謔する僕である。




