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恥ずかしの我が室内で

 僕の部屋。

 超豪華だ。

 天蓋つきの恥ずかしベッド。フワッフワの恥ずかし布団。アニメ絵の女の子が描かれた恥ずかし抱き枕。心地良い恥ずかしハープの調べに、緩い風を送る大きな恥ずかしうちわを持った恥ずかし侍女。喰らえこの野郎とばかりに果物の山の乗った恥ずかし皿。発想が貧困だ。なんだこの絵に書いたような金持ち感。そして抱き枕だけあからさまに不自然だろ。誰の趣味だ。恥ずかし満点。


 ええい、落ち着かぬ。


「きみの力が必要になるのはもう少し先だ。それまではここでゆるりと過ごすといい」


 と、マッチョ(人類解放戦線のリーダーらしい)は言っていた。ブドウを一つ。うむ、甘い。

 で、だ。

 こういう状況でよくある展開としては、ウキンとやらを摂取したことで僕が超能力的なものが目覚める展開だろう。でも一向にその予兆はない。この歓待から察するに僕が大事ではあるのだろうけど、その理由は?


 イウコティは僕を災害の原因になりうると言い、あのマッチョは戦いに勝つ為のものだと言った。災害と戦力に共通するものは、破壊、か。でも僕に破壊力はない。動きこそ人種以下略達よりも早いが、だからって百人を殺せるとは思えないし、そもそもウキンを食う前から僕はこいつらより早い。 

 そういえば、僕をさらった連中は、人以下略なのに機敏に動いていた。あれがシラの言っていた魔法である可能性はある。とすると僕の能力は。


 魔法の原動力。

 では、ないだろうか。

 僕の生命エネルギー的な物が唇的な場所を介して伝わり、それが魔法の強化的なことになる。キスで強くなる魔法少女。うむ、メルヒェン。シラのビームが強化されていたことの説明もできるし、イガーポップは明らかにウキンによるパワーアップを示唆していた。

 魔法の力を強化する方法は少なくとも二つ以上あり、一つはウキン、一つはキスだということ。ウキンを食った僕は、その二つの合わせ技でハンパない強化能力を持ったのではないか。

 それなら矛盾は……無いような、そんな気がする。


 え、じゃあ戦いがあるとしたら、あのマッチョとベロキスする必要性が出てくるということか?

 魔法の戦いなら男女差はないと思いたい。であれば、ホモキスは回避できる。その場合は女の子が戦うことになるのか? そうなるくらいならホモキスだろうと涙を飲んでやってみせよう。


「あのう……」


 誰かが入り口から顔を覗かせる。プライバシーとかないよなあ。扉が無いので恥ずかし行為はできなくて困る。

 というか、シラじゃないか。


「や、久しぶり」

「はい、ご無沙汰です」


 頭を下げる。つむじが一つあった。例のロリっぽい服は健在で、変わらず可愛い。この世界にいる女の子は概ね可愛い子が多いのだけど、シラはまた特別に可愛い。服装補正もあるのだろうか。元いた世界でああいう服を着てるのは八割がた魔物だったから、余計に可愛く見えるのかもしれない。別にブサイクなのが悪いということではなく、服のチョイスがおかしいという話。


「あの……あのぅ……」

「ああ! えっと、なに?」

「ごめんなさいっ!」


 土下座。

 やめてよしてダメよそういうの。


「ちょ、土下座はやめて」

「いえ! 私は謝っても謝りきれないことを!」

「なんの話ですか? 僕の貞操が奪われでもしたの?」


 僕はまだ処女のはすだ。まさか睡姦……? いや嫌いじゃないが。


「動転するあまり、私はあなたの頭を……!」


 シラは床に突っ伏し、三つ指を揃えた美しい姿勢を崩さない。

 頭を? 頭をどうしたって言うのだ。

 あなたの頭を……新しい頭に!

 パンの妖精に扮したシラが新しい頭よとか言いながら僕に頭を投げ、僕の古い頭はスパーンと吹っ飛び、新しい頭はクルクル回ってカチリとはまり、勇気六倍、僕パンマン!

 アホか。


 まあ普通に考えて、イガーポップと対峙したあの時のことだろう。気絶というのを経験したのは初めてだ。視界かブラックアウトするというのは面白い経験だった。


「気にするなよ。なんかヤバイってのは理解したからさ。仕方なかった」

「でも……」


 僕はシラの腕をとって立ち上がらせる。


「ほらシャンとして。じゃないと悪戯するぞ」


 シラは一瞬ぽかんとして、それからふっと笑った。女の子に似合う表情は意外と少ない。笑顔、泣き顔、無表情。シラは笑顔の似合うタイプだ。


「あの」

「うん?」

「不躾なお願いをしても、いいですか?」

「いいとも」

「少し、しゃがんでください」


 即座にしゃがむ。別に不躾ってこともない。


「失礼します」


 頭にそっと手が添えられ、シラが腰を折って顔を寄せる。なんだろう、どこかで見た覚えのある表情だ。性的でないにしろ、興奮したような……。

 腕が頭に巻き付いた。そのまま引き寄せられて、収まったのは腕と腕の間だった。前方には当然ながら胸部が存在していて、僕はそれに顔を埋める格好になる。一瞬、何が起きたのかわからなかった。


「え?」


 フルフル震えるシラの身体。見た目の割に力がある。柔らかい。顔が全て柔らかいものに包まれていた。


「スゥッ……はあッ……ンンッ」


 スウハアと深く息をする。髪の毛に唇を押し当て、はむはむと擦り合わせる。


「あぅ…………んッ」


 一度拘束を解いたと思ったら、今度は背中側に回り込み、背中に顔を埋めて鼻を鳴らした。意味は全く解らないが、エロスである。本能はそう決定を降すのに、理性はそれを否定する。


「あの、シラさん?」

「んー……?」

「これは一体、どういった儀式なんですか?」

「あっ、すみません!」


 パッと身体を離す。触られるのはむしろ嬉しかったからいいんだけども。


「なんというかですね、あなたを見ていると理性を抑えられないといいますか……」

「なにそれ愛の告白?」

「さあ、どうなんでしょう?」


 シラは手を後ろに回し、くるりと僕から離れた。その動作はあざとい。が、もちろん僕は好きだ。


「それじゃ、失礼しました!」

「え、あ、うん」


 帰るのか。マジで何しに来たんだ?


「あの、また来てもいいですか?」

「あー、いつでもどうぞ」


 シラは太陽のような笑顔を見せ、嬉しそうに部屋を出ていった。それが見られただけで僕がココにいる意味がある。




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