第6話
「ね、眠い…」
「問答無用。ほら、さっさと行くわよ?」
眠気満載の俺を復帰のための依頼に付き合わせようとするリーナ。
いくらなんでも強引過ぎる…
「腕まで引っ張るな…Σって痛い痛い痛い痛い…!」
「うるさいわねー…そんなに嫌なの?」
「ほぼ徹夜なんだよ…」
「えー…あんたなにしてたのよ?」
「色々。」
「教えなさい。」
「嫌だね。拒否権を行使する。」
「……じゃあ先日の魔法の件。あれを説明なさい。じゃないと訴えるわよ?」
「ゲ……」
流石に訴えられるのは勘弁。
再度言っておくと魔法使いは正式登録していなければ詐欺師扱いになる。
正式登録すればいいのだがなにしろそうすると国に呼ばれた時面倒なので。
まあ、あれだ。うん。堅苦しいのとか苦手だし?
なんか今誰かに喧嘩売った気がしたけど気にしない。
「んー…んー…」
「早くしないとレザーウルフの縄張りに縛ったうえで投げ込むわよ」
何この子怖い。
「わかったわかった…あれだ。うん。偶然魔法を教えてくれる優しい人に出会ったんだよ。偶然助けた人なんだけどな。」
「何その超怪しい話。疑問点多すぎる上にはしょりすぎよ。」
「詳細を説明しろ、とまでは言われていないので。」
「屁理屈じゃない……;」
「とにかく今日は寝させてくれ…」
「仕方ないわね…」
とにかく眠かったので今日は退散願った。
そのまま怠惰な一日が過ぎ、日も暮れてきたころ。
強烈に嫌な予感がした。
これからかなりの厄介事を任されるような…
「ただいまー☆」
「おかえり、リー…Σッ!?」
リーナの両腕には蒼く、美しい大きな卵のようなものが抱えられていた…
しかも見た途端に強烈に嫌な予感が増した。
「なあ、リーナ…それ、何の卵?っていうか、何?」
「ん?卵であってるわよ?正確には、精霊の卵じゃないかって。」
「精霊の卵ォ!?」
「じゃいかって。掘り出し物で売ってたから買ってみた。」
「朝の俺の話より100倍胡散臭い話だな!」
「まあまあ。安かったし…騙されたと思って、ね?」
「本当に騙されてるんじゃないだろうか…で、これに毎日魔力を注げと?」
「話が早いじゃない。その通りよ?注ぐ魔力量にもよるけど、成功すれば強力な味方になってくれるでしょ。」
精霊、か…地水火風、さらには闇や光、果ては元素までをつかさどる精霊がいるとは聞いていたが
滅多に会えるものではないし、会えたとしてもまともに込みにコミュニケーションをとれるかは分からない。
言語は通じるのだが、まともに話を聞く気はないらしい。
あんまり人間と精霊が深くかかわるべきではないとか何とか。
「で、俺に魔力を注げと?」
「うん。あたしは魔力の扱い方知らないしねー。」
「気楽に言ってくれる…」
精霊の卵は一定以上の魔力、厳密には魔力の元であるマナを注ぐことで孵化する。
魔法使いとは周囲のマナを集めて自分で魔力に変換して魔法を使う。
本来精霊の居る場所はマナが大量にわき出す場所なのでその心配はないのだが…
こういう人間が住む場所ではマナは少ないので注いでやる必要がある。
人間自体はマナを直接扱えるわけではないので対応した属性魔力を注ぐのだとか。
幸い外見で何の精霊の卵か大体は判断できるので恐らく水属性の魔力を注げばいいのだろうが…
「…ったく、厄介な代物を買ってきたなお前は…」
「…ごめんね?でも興味あったし…」
「後で後悔するぞ…そんなことしてると。」
言いながら精製した水の魔力を注ぐ。
恐らく中身は水の精霊、ウンディーネなのだろうが…
ウンディーネって確か女型だった気がする。
かといってリーナに任せるとどうなるかわかったものじゃない。
精霊の卵を人が扱った話はまあまあ在るが実は成功例は一例しかない。
そしてその成功例に関して記載されていることも一つだけ。
容姿等のことは不明。当時の年代も孵化させた魔法使いのことも書かれていない。
唯一書かれているのは、強力な能力をもっていることのみ。
なんでも、本来の精霊より強いとか。
そんな夢を見て多くの魔法使いたちが精霊の卵を狙ってマナの濃密な聖地に行くのだが…
精霊に返り討ちにされるか、万が一持って帰れたとしても悉く失敗に終わっている。
そんな宝くじよりも低い確率を夢見て買ったらしい。
こいつは馬鹿か。
「言っておくけど、あたしの直感って当たるのよ?」
「誰が直感で決めろって言ったよ…確実に魔力の無駄遣いだろうに…」
「まあまあ。やってみたくなったんだって。孵るような気がするし。」
「…今回だけな?」
「ありがとう、ケント♪」
リーナは目を細めて嬉しそうに笑ってくれた。
…別にデレてほしいとかではなく。…決して。
そんなわけで暫く精霊の卵に魔力を注ぐ日々が始まった。
暫くといっても、わずか5日間という短い日々ではあったが。