第5話
街の門の近くに転移した俺達はそのまま街に入ってギルドまで戻った。
クエスト達成の報告よりも治療を優先しないと手遅れになってからでは遅い。
特にリーナは大怪我から復帰した矢先のことなので尚更心配だ。
なので真っ先に治療魔法が使える貴重な知り合いに折り入って頼みこんだ。
「…………」
「大丈夫そう…か?」
「僕の治療魔法ならこれくらいは楽勝だね。流石に腕がぎりぎりつながっているような状態じゃ困るけど。」
彼はタレイル。
治療な回復魔法を使える奴で細剣をよく使っている傭兵の一人。
容姿は長身の金髪に美少年風の優男と言えば伝わるだろうか。
まあ、性格も外見と大差ないのだが。
ただしこの世界で魔法を使える人材は少なく、その中でも治療魔法を使えるのはごく少数である
なので通常は怪我した場合自然治癒を待つか医者に行くくらいしか方法がない。
しかし傭兵の世界であると治療魔法を使える傭兵はパーティに一人は必要とされている。
故に数少ない治療魔法使いはあっちへこっちへと引っ張りだこ。
多忙な割に顔も広い情報屋としても扱われる。
彼が近くにいて良かった…
ふぅ、と安堵の息を着きつつ近くの椅子をもってきて座った。
この世界の家具は割と木で出来ているものが多い。
まあ、要するに重いのでずるずる引っ張って持ってきたと言った方が正しい。
ふと、聴いてみた。
「なあ、タレイル?最近、高レベルの召喚術士とパーティ組んでないか?もしよかったら教えて欲しいんだが…」
「召喚術士か…召喚術士自体自分と同じくらい少ない存在だし…ここ最近はさっぱり。」
「……そうなのか…」
「何か強力なモンスターでも出たのかい?君たちが二人組んでここまでボロボロで帰ってくる程の。」
「そんなところだ。Aランクモンスターのハウンドウルフが一体。」
「ハウンドウルフ…?」
さしもの優男も顔をしかめる。
声も怪訝な声になって一気に雰囲気が変わった。
「そう。このあたり一帯には生息していないはずのモンスターだ。」
「ふむふむ…それで?ハウンドウルフということはレザーウルフの集団にでも襲われたのかい?」
「話が早くて助かるな。その通りだ。なんとか生還はしてきたが。」
「むしろ僕としてはラッキーな方だと思うけどね。レザーウルフの集団に襲われてもここまでの傷とは。」
「運も実力のうち、ってな。」
この辺は誤魔化さないと面倒になるからな…
魔法使いは貴重なうえに正式に登録していないと詐欺師扱いされる。
「……詳細はまた後日聞かせてもらうことにしようか。で、治療代。」
「ん、ありがとな。」
「本当にケントはいいのかい?血まみれだけど…」
「大丈夫だって。気にするな。かすり傷と返り血だよ。」
「大事にならないことを祈るよ。では、明日の昼ごろまで僕はこの街でゆっくりしてるから。」
「おお。今日は夜遅くに呼び出して悪かったな、タレイル。ゆっくり休んでくれ。」
「構わないさ。美味しいコーヒーが飲めればね。おやすみなさい。」
そう言ってタレイルは部屋を出て行った。
リーナは安らかな表情で眠っている。とにかく、生きてて良かった。
その後俺はひとまず風呂に入ることにした。
ちょっと血の量が心配だが傷は洗い流さないと膿んでしまう。
軽くシャワーだけ浴びて上がった。
風呂からあがって寝ようと部屋に戻った矢先──────
「は…………?」
目の前の状況が理解できない。
目の前の現実を否定しようともそれはれっきとした事実だ。
何があっても変わることのない。
何故だ。何故こんなことが起きている。
あり得ない。嫌だ。現実に目を向けたくない。
これは嘘だ。嘘であって欲しい。
……しかし、確かめるには一歩勇気をもって踏み出すしかない…
俺はゆっくりと窓に近づいていく…
慎重に。
唾を飲み込んで。
一歩一歩踏みしめるように。
そして一気に風に揺れるカーテンを開けたその先には────────
運命は残酷な現実を俺に叩きつけた。
つくづく現実とは残酷であり、それを叩きつけるの運命はもっと残酷だと。
まだ幻想に浸っていたかった…
包み込むような柔らかな日差しがそれを明確に示していた。
「貫徹かよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
つまるところ、完全に一晩徹夜だった。
いや一晩徹夜だった所でなんだよと思うかもしれないが魔法行使での精神疲労、肉体疲労などを考えればゆっくり休んでいたかった。
今から寝たら寝たでもれなく我が相棒、リーナお嬢が起こしに来るであろう。
徹夜の後の肉体労働はきつい…
タレイルと話している間に日付はおろか既に早朝に差し掛かる所まで話し込んでいたらしい。
のんびりとシャワー浴びて寝ようと思ったらこのありさまである。
「……ちくせう……」
こうして眩しい日差しに目を焼かれながら俺は決めた。
今から寝よう、と……
この後、約数分後に俺の幻想を満面の笑顔のリーナがぶち壊してくれたことは言うまでもなかった。
まあ可愛い子に起こされるのも悪くはない。
それが徹夜の後のわずかな休息でなければ、だが…