第3話
─────ヤバい。
何がどうヤバいかといえば、囲まれた。
この状況が、事実が、レザーウルフの集団に囲まれたというその事実が
ヤバい。
談笑していたところに急襲してきたレザーウルフ5体を倒し終えて気付いた時には遅かった。
周囲を何十体というレザーウルフに囲まれていた。
普通、レザーウルフがこれだけ集まってくるのはあり得ない。
だがそれを覆せる、大量のレザーウルフを統率できるモンスターがいたとしたら?
話は別だろう。
だが、それはAランクのハウンドウルフあたりしか思いつかない。
つまるところこの集団のどこかにハウンドウルフが居るのだろう。
しかしこちらの方がありえない。
このあたりのカラハ森林地帯には稀にBランクモンスターが出現する程度なのだ。
はっきり言って、異常。もしくは非常。または緊急事態と言い換えてもいいかもしれない。
さて、どう切り抜けようものか…
「なあ、何かこの事態を切り抜ける裏技とかってあったりするか?」
「あったら真っ先に提案してるでしょうね。そうね…ハウンドウルフの場所くらいだったら特定したわよ?」
「…どこだ」
「あたしの真正面。目線の先をたどればわかるわ。」
あいにくと背中合わせでこの集団に対峙している俺にそれを見る暇などない。
目を離して隙を見せれば待っているのは確実な死。
この狼たちに喰われるのみだ。
「さて、そろそろ緊張が崩れるぞ…」
「そうね…覚悟はいい?」
「お前こそ、大丈夫なのか?」
「…………勿論。」
そして次の瞬間。レザーウルフたちは
明確に
凶暴に
冷徹に
無情に
────────襲いかかってきた。
「……帰ったら豪華料理だ。」
「それはやる気が出るわね。」
襲い来る集団を次々と斬り伏せる。
右、左、下、上、後ろ、前、四方八方から来るレザーウルフに対応していく。
ある攻撃は体を横にひねり、ある攻撃は剣で受け流し、ある攻撃は体を掠める。
そして、次々と敵を屠る。
もはや相棒のことなど気にしている余裕はない。ただただ、自分が生きて帰ることのみ。
「数が多い……っ!」
傷が次第に増えていき、さらには疲労が体を鈍らせる。
動きも遅く、段々回避できなくなってくる。
あいつは、リーナは大丈夫なのだろうか。
リーチの短いダガーでは一体葬るのにも相当な集中力が必要だろう。
そして集中力はガリガリと削られていく。
今はお互いの生還を、祈るしかない。
【リーナ】side
やたらめったら数が多い…
お互い治療薬は複数個持っているはずだが飲んでいる暇がない。
「……上等じゃない。」
久々に燃えてきた。本気になったと言ってもいいかもしれない。
向かってくる敵は盾で殴打し、隙を見せた的にはダガーで一突き。
ああ、もっと長い獲物を頼んでおけばよかったと後悔した。
そのへんは傲慢な自分を呪うべきかもしれないが。
「しかしなんでこんなところにAランクモンスターが…」
考え事をしている暇はないが、どうしても気になる。
こんなことができるのは召喚術士のみ。
だが、召喚術士は滅多にいない。
素質の問題である。
だが、とにかく今は戦うのみ。
「帰ってからの豪華料理、楽しみますか♪」
【ケント】side
「ぐッ………」
レザーウルフのタックルを一つまともに食らってしまった。
かなりダメージはでかい。
しかし何より生きて帰ることが先決。
命があるからこそ楽しめるというのに。
死んでしまっては元も子もない。
「あー…まあ、あいつになら…いいか。」
決めた。今は些細な秘密など、どうでもいい。
そのあとが少し面倒だが質問責めにあうくらいならまだマシだろう。
俺は一旦距離を取り、集中して詠唱を始めた。
「燃え盛る業火よ、燃やしつくせ!ファイアボール!」
───────俺の手から、大きな紅蓮の火球が放たれた。
その火球はレザーウルフの集団に衝突。
一気に複数の敵を葬り、周囲の敵にも甚大な被害を与えた。
そして周囲を煌々と照らし、狼の集団を怯ませた。
「何っ!?今の爆発は!?」
リーナが驚愕し
俺は答えた。
「魔法だよ。魔法。魔術と言い換えてもいい。今失われつつある、古代の秘術。」
次の瞬間、また新たな轟音が轟いた。
熱風に煽られて怯む狼たちの中を一気に二人で駆け抜けた。
俺達はその後、必死で森を駆け抜けた。