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騎士達の管轄の外である、教会区域の周りをウルフは見回った。
と、言っても一人ではあまり大きな範囲は見回れ無いので、人通りの少ない場所で待つ。
通るのは迷った参拝者か、観光客ぐらいで街の者はあまり来ない。
適当に道案内をしたりしていると、すぐに日は暮れた。
「そろそろ時間か…?」
人の声は落ちついて来て、木々や風の音が目立ち始める。
ふ、と人の足音が近づいてくる。
振り向くと、居たのは教会の司祭達だった。
「お前は自警団…」
司祭達は嫌な物を見たかのように顔を歪ませる。
しかしウルフも面倒なモノに会ってしまったと思った。
「自警団など作りおって…人々を争いの道に巻き込む所業、いずれ天罰が下るぞ!」
「アンタらがこの街から手を引くっつーんならさっさと解散してやるよ」
司祭は小さく舌打ちしてウルフをにらみつけた。
とても聖職者とは思えない、とウルフは鼻で笑う。
「あまり教会の前をうろつくな」
「おれはこの街の住人だ。どこに居ようが勝手だろ」
「フン、貴様は…」
司祭が何か言おうとした瞬間だった。
突然、あちこちから大声が起こり、騒がしくなった。
司祭らはお互い顔を見合わせると、教会とは逆方向に早足で去っていこうとした。
「どこへ行くんだ。教会が騒がしいようだが」
「貴様には関係の無い事だ」
司祭達はそれから戻ってくる事は無かった。
ウルフはため息をつきながら、教会に急いだ。
教会を囲う石壁伝いに走り曲がり角を曲がった時だった。
「!」
「ぬあ!」
目の前に人影。
ウルフはあわてて横に飛びのき、相手も瞬時に後ろへ下がった。
教会から漏れる明かりだけを頼りに相手を観察する。
相手は異様な容貌だった。
貴族のような格好で、顔の上半分を仮面で覆っている。
頭髪は夜の色に溶けてよくわからない。
だが、怪しい人物だという事はよくわかる。
「…何モンだ?」
ウルフは腰の剣に手を添えた。
大した剣では無いし、自分も扱うのはあまり得意では無い。
だが、相手を威嚇するのには使える。
目の前の人物は怯む様子も無く機敏に立ち上がった。
「曲者」
「…斬られたいのか?」
「残念だけど、ワタシは自殺志願者じゃ無い。そこをどきたまえ。見たところ、聖騎士では無いようだが?」
「名乗る必要は無いだろ。アンタが曲者なら捕まえるってだけだ」
ウルフは今度は身構える。
この男が犯行を予告し、実行したであろう盗人か。
声や身体からして成人男性のようだが、男は不満そうに唇を尖らせた。
「面倒だなぁ…ああ、イヤだ」
「ぶつぶつ言っている暇があるのか?」
どのみちウルフがここで足止めをしていれば騎士達は来るだろう。
男は何を思ったか、突然両手を前に出して、構えた。
「来るなら来なさい!」
「…良いんだな?」
びしり、と構えてはいるが、あまり強そうには見えないし、本気そうにも見えない。
ナメられたものだと思い、ウルフは一足で男に近づき、剣を鞘から抜かずにそのまま振りおろした。
近づいた瞬間、男の唇が左右に引かれた。
「なんてね」
男はウルフの打撃を後退で避け、そのまま一瞬視界から消えた。
しかし見失うほど、ウルフは易しく無い。
男はものすごい跳躍力で飛び上がっていた。
そのままウルフの頭の上を通り過ぎ、目の前の太い木の幹につかまった。
このままでは逃がしてしまう。
ウルフは思わず手を伸ばした。
「待て…!」
ウルフの手が何かに触れた。
しかしそれは触れただけで、捕まえる事が出来ず、ふわりと夜闇に消える。
漏れた光が映しただしたのは、木の上で不敵に笑う、深い髪色の仮面の男。
「では、縁があればまた会おう」
歌うように男は言う。
そのまま彼は背を向けて去って行った。
背中には一本に纏められた髪が踊る。
どうやら自分の手に触れたものはそれらしい。
「…ふざけている」
それが彼の第一印象であった。




