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「父親を探すか…どうしたものか…」


とりあえず依頼を受けて、適当に街をブラついてみたところで見つかるわけでもない。

しかもお嬢様の注文は、見つけても捕まえずに居場所を教えてほしいとの事だった。

詳しく話を聞けば、父親はいつも地方に行くとしばらくの間姿を消すらしい。

何か秘密でやっているのではないか、と疑いを持って、父親が何をしているのか調べてほしいというのが本当のところの依頼だ。


ウルフは預かった一枚の紙を取り出す。

それはフィーネの父親の若いころの姿絵らしく、成人した時に画家に描かせた物の模写らしい。

自信に充ち溢れているような青年がそこには居る。

強い輝きを持つ瞳に深い色の髪を持っていて、口元には何故か少し笑みを浮かべている。

何よりおかしかったのは、絵の中の人物は足を組み、腕を組み、まるで絵の中からこちらを馬鹿にするような態度と視線を送っている事だ。

絵にこんなに馬鹿にされたような気分にさせられるのは初めてだ。


「まったく…親子揃って」


ふざけている、とウルフは思った。

ウルフの知る貴族はもっと、プライドが高く、狡猾で高圧的、そして虚栄心の塊のような人種だ。

物質的にはどうだか知らないが、精神的には貧しい連中が多いし、民衆には目もくれない。

だが、貴族などに興味が無いのはこちらも同じである。

ウルフは少し自嘲しながら、酒場の扉を開けた。

中では相変わらず、自警団とは名ばかりの男たちが酒宴の真っ最中だ。


「よぅ、どうだった」


ムスタファが視線もくれずに言った。

ウルフは定位置ではなく、ムスタファの目の前に座った。


「依頼は受けた。この男を探している」

「なんだ…本当に貴族じゃねえか」


依頼書を見ていたムスタファはその依頼が本物である事を確認して軽く目を見開いた。


「その男の娘が今回の依頼者。詳しい事を話す必要は無えだろ」

「ああ、そうだが。すまんがその男、この界隈では見ねえな。大体こんな目立つような男がいれば怪しいだろ」

「そうだな…貴族の格好はしていないかもしれないが…」


どこか派手な容姿だった。

変装して姿を隠しているのではあればわからないかもしれないが、そもそもこの街で貴族の客人以外で見かけない人物がいればすぐにわかる。

それほどまでにこの街の人は減り、住民たちの警戒心は強くなっている。


「変な人物が居たらすぐに教えてくれ。とりあえず俺は教会に行ってみようと思っている」

「ああ…気をつけろよ。司祭共、最近気が立ってるみたいだからな」

「騎士さえなんとかすりゃ司祭共はただの五月蝿い貴族と同じだ。あそこに神聖の司祭はいないからな」


いざという事があっても力勝負でウルフは負けるつもりはない。

それはたとえ教会に選ばれた、聖なる騎士であってもだ。


教会の前まで訪れると、いつもと雰囲気が違っていた。

いきなり足を踏み入れる事はせずに、遠巻きに眺めてみると、普段よりも守備にあたる人影が倍ほど多い。

さらに騎士達は普段は帯刀する者は少ないが、今はみな腰に剣を刷いている。

顔なじみの騎士を見つけてウルフは駆け寄った。


「いったい、何があった?」

「お前は…自警団」


上の者はどうだか知らないが、騎士や警備隊の一部とも自警団は協力する事がある。

情報交換がそのほとんどであるが、個人的な恨みが無い場合は余計な邪心は捨てている。

特に騎士と警備隊は兵力が拮抗している挙句に諍いも多いのでその間に自警団が立つ事も多かった。


「犯行予告書が届いたんだよ」

「犯行予告書…?」

「アンスヘルムの秘石を盗むだと。俺は悪戯かもしれねぇと思っているが…」

「秘石を盗む…だと」


アンスヘルムの秘石は名高き聖遺物であるが、それと同時にこの街に唯一残された希望の象徴でもある。

実物を目にした事は無いが、話によれば深緑の石にひとつの預言が刻まれているものらしい。

それは数々の預言を残したアンスヘルムが、ただひとつ、その存在を隠した聖なる石。

預言が秘された理由はよくわかってはいないが、それが彼にとって重大な物であった事は想像に難くない。

それがこの地に関する預言だった為に、希望を意味する光となった。


「やれやれ…いよいよこの街の終わる時が近づいて来たようだな」

「縁起でも無い事を…。石が盗まれたところで預言が失われるわけではあるまい」

「それはそうだな」


確かに価値ある石ではあるが、盗んでそれをどうこう出来る物では無い。

盗人はいったい何を考えているのか…あるいは本当にただの悪戯か。

しかしそんな事も、ウルフにとってはどうでも良い事。


「少し、協力してくれ」

「情報か。構わんが…お前は何と交換する?」


ウルフは今、手持ちの情報は少ない。

鑑みると、対価としては少し見合わない。


「…おれも教会警備に加わろう」

「なに…?確かにお前ならば充分に戦力になるが…司祭が五月蝿いだろう」

「ああ。だからおれは教会から少し離れて怪しい人物を見張る。その情報と交換だ。どうだ?」


騎士は考えるようにしばらく顔をしかめていたが、最終的に決断した。


「…良いだろう。目立たないように頼む」

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