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そんな調子で気がつけば窓の外は暗い夜になっていた。

しかしディータはいろいろ疲れて眠ってしまっていた。


「ん~…んぁっ…ハッ!」


ディータが事態を思い出してあわてて部屋を眺めまわす。

仮面の男は聖堂に続く扉の前で跪いて聞き耳を立てているようだ。


「…むー」

「やぁ、おはよう。よく寝ていたよ。実に間抜け顔で」

「むー…」


男は顔も視線も動かさずに言った。

よく聞けば、何やら向こうの方や外はすごく騒がしい。

その声を聞いてみると…、


「向こうだ!向こうに怪しい奴が居たぞ!」

「こっちもだーー!」


予告通り“小さな盗賊”とやらが現れたのか。

ディータは緊張を思い出して身体の芯が冷え、いっきに覚醒した。

アンスヘルムの秘石を守らなければ…。


「むー!むー!」

「ちょっとキミ、黙っていたまえ」

「むむぅ」


仮面の男は静かに聞き耳を立てていたかと思うと、突然立ち上がった。


「失礼」


言いながら男は何を思ったのか、突然棚の上の物を勢いよく床にばらまくように落としていった。

中には金物や重いものもあって当然、床にぶつかると派手な音がする。

そんな音がするものだから、当然のように廊下を走る音が聞こえてくる。

仮面の男はその身を扉横の壁に付けて身をかがめた。


「何の音だ!」


現れたのは騎士二人。

扉を勢いよく開け放ち中に入る。


「…!ディータ様!」

「むー」


自分に気づいてくれた事はうれしかったが、怪しい男がそこにいるという事を伝えたかった。

が、ディータの努力もむなしいものとなった。


「失礼!」

「ぐお!」

「うお!」


言いながら仮面の男はまず、後ろにいた騎士を膝で打倒し、声に驚いて振り向いたもう一人の騎士も両足で蹴っ飛ばした。

無駄に豪快な技の数々に驚いていると仮面の男は尻尾髪を派手に宙に舞わせながら着地した。


「では、縁があればまた会うだろう!」

「むーー!」


深い色の尻尾髪を翻し男は扉の外へと走り去っていった。

このままではマズイ。


秘石を守らなければならない。


「むーっ…!」



「ふーむ…なるほど、これが…」


男が箱の中に厳重に仕舞われたさらに小さな細工箱を手に取った。

箱を開けると中には深緑の手のひらほどの石が入っている。

これこそがアンスヘルムの秘石。

男は用済みとばかりに早々とその場を立ち去ろうとした。


「まっまっ待ってくださいィィ~!」


情けない声を必死で絞り出しながら、ディータは走った。

仮面の男を掴むつもりだったが、足が絡んで空しくぺしゃりとコケてしまった。


「ぬ、思ったよりもしつこいというか…どうやって抜け出した?」

「ぼ、僕だってこんな事できて自分でびっくりですゥ。はぁはあ…」


体力と気力の限界をとっくに迎えているディータはそれでもなんとか男の足首をつかんだ。

男の髪がふわりと風を受けて舞い、再び舞い落ちる。


「…ああ、ナルホド。そういう事か」

「そ、そ、それを持っていくのは…ダメなんで、すゥ…」

「これはあるべき処にしっかり置いておくべきだ」

「そ、それはァ」


ここでは無いのか。

しかし仮面の男は当然のようにそれを自分のポケットに仕舞い込んだ。


「さて、遊んでくれて礼を言おう。キミの顔は傑作だった」

「ひ、ひどいィ…」


仮面の男はニヤリ、と笑いながらいとも簡単にディータの手を足から離した。

薄れゆく意識の中で、ディータが最後に見たのは不敵な仮面と、背に揺れる深い色の一束の尻尾髪。


「か、怪盗…仮面怪盗…仮面怪盗シュヴァンツ…」


その名はこの街において、伝説となる。

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