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エピローグ

それからしばらくの時が流れた。


街の住人達はそれぞれ散り散りに他の街へ移り、その反骨精神で政治家や商人の横暴を許さず、活躍している者も多いと、今でも連絡をくれるムスタファに聞いた。

火だねを見極める目を持つ住人達は、今は幸せなのだろうかと問えばロマンは笑って、そんなものは知らないと言う。

しかし抗う覚悟と力があるならば、今度こそ彼らは同じ轍を踏みはしないだろうとウルフは信じている。

信じて、ウルフはロマンやフィーネに付き従った。

同じようにあの時武器を手に戦った住民の何人かは、盗賊団に入っている。

少なくともウルフは、この場所に来て良かったと感じていた。


そして、フィーネが15の歳になる朝に、ロマンは屋敷から出て行った。


「なぁ…ホントにフィーネに何も言わなくていいのか?」

「今日からはあの子がロマンとなるのだ。ワタシはもう必要無かろう」


別れの朝に、見送りはウルフただ一人だった。

他の者は何も知らない。

娘が悲しむ姿が思い浮かんで、ウルフは少し嫌な気分だ。


「君もこれからはフィーネでは無くロマンと呼ぶように」

「…なんかそれは慣れんな…」

「じゃあ、姫とでも呼んでおけばいいよ」


そっちの方がしっくりくる、と思い、ウルフはそう呼ぶことをこっそり決めた。

ロマンは扉の外の抜けるような蒼を見て、いつものように左右に唇をひいて笑う。


「なあ、ウルフ。君は自分が誰かの夢の中に居ると思った事は無いかい?」

「…なんだそれは。この世は現実では無く、誰かが見ている夢だというヤツか?」


何かそんな事を偉い人が言っていたような気がする。

しかしロマンは笑って否定した。


「そうでは無い。夢というのは理想、とかそういう意味の方だ」

「…ますますもってわからん」

「君は相変わらず馬鹿だな。まあいい。ワタシはね、ずっと誰かの夢の中で生きていて、誰かの夢の為に生きている気がしていた。それはそれで構わないのだが…」


数々の肩書を棄てて今やただの男となったロマンが靴ひもを結びなおして勢いよく立ちあがった。


「ワタシは宣言しよう。君達からいずれ、奪って見せると。ワタシという、夢を」

「…そうか」


そう言って彼は何の名残惜しさも見せずに、屋敷を去って行った。

夜明けのような深い髪を揺らして、その空へと。

彼は必ず宣言通りにするのであろう。

それが夢という形の無い、よくわからないものであっても。


ウルフがその真意を知るのは、まだ先の話である。


そうして、





夢が始まるのだ。






この話は「月と魔術師と預言者と」の番外編ですが、ある意味導入編でもあると思います。

怪盗やディータは本編には出てきませんが。

ですが、この後の話は本編や続いてますので、ちょこちょことその後の彼らの話は出てきます。


ともかく、此処まで読んでくださり、有難うございました。

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