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ウルフはフィーネとセリムと共に、貴族の屋敷の庭園の陰に居た。

貴族らは大きな屋敷に皆、籠城するつもりらしく、何層にも兵士を重ねて警備させている。

だが兵士達のやる気も士気もほとんど底辺なので、この状態でどこまでもつものかと、ウルフは思った。

その様子たるや、やる気の無くなった自警団も顔負けである。

警備とは名ばかりの隙だらけの見張り、何人も集まって談笑をする者達、剣もその辺に放置する始末。

こんな事ならもっと早くに反旗を翻せば良かったのではないだろうか。

だが、考えなおしてみれば、士気も覇気も薄いという点では自警団であろうが、騎士であろうが、兵士であろうが同じようなものだとため息をついた。


「しかし何をする気なのだ。ロマンは」

「わかりません。旦那様のやる事ですから」

「…そうか」


その一言でわかってしまう、わかられてしまうのはどうなのか。

ともかくウルフらはフィーネの護衛をしつつ事の成り行きを見守るように言われたのだ。

屋敷への潜入は容易で、何の苦労も無かった。


「ねね、何か入り口のあたりが騒がしいみたいだよ」

「ああ…静かにしていろ」


警備兵の中にも緊張が走り、皆一応の警戒態勢はとる。

だが相変わらずの隙を狙ってウルフは声の方に移動した。

入り口の門の傍に人々が集まっていた。

警備兵と、数十人の男達が一定の間合いで対峙している。

屋敷の明かりが浮かび上がらせたその男達は。


「あいつら…」

「知っているのですか?」


数十人の男達は、とても統率されているようには見えず、武器も防具もばらばらで。

しかしその顔は、それぞれウルフが知る人達であった。


「賊の正体ってあいつらか…」

「おそらく、そうだと思います。お知り合いで?」

「ああ、知り合いだな」


どういう事なのか、賊と思われるその男達は、元々この街に住んでいた住人達であった。

元自警団の者も多く、当然ウルフの顔見知りも多かった。

そして、彼らが何故武器を手にこの街にやって来たのかも大体想像がつく。


すなわち、復讐或いは解放のためであると。


「お前達に用は無い。さっさと立ち去れ」


集団の中の一人の男が言った。

当然兵士はそれに応じるはずもない。

兵士の中の隊長格であろう男が進み出た。


「聞くはずがなかろう、そのような事」


街灯すらも灯らないこの暗闇に士気が最低の兵士達。

賊がここまで近寄っていた事に気づかなくても仕方が無いが、兵士達は少し気遅れ気味だ。


「では、力づくで通させてもらうのみだ」


男が剣を抜く。

瞬時に、土を媒介に緊張感が走りぬけるように温度が変わる。

ビクリ、と動く人の緊張が地面を駆け抜け空気を震わせる雷撃のように。


「引いた方がよさそうですね…」


セリムの考察にウルフは頷きだけで同意して集団から離れた。

このままでは乱戦、混戦、泥仕合が予想されてこちらまでいらぬ火の粉を被りそうだ。

だがこの暗闇の中ではそう遠くへも逃げられない。

どうしようかとまわりを見渡した時だった。


「みなさん、こっちですゥ」


頼りの無いセリフが聞こえて振り向くと、ぼやりと輝く人影が現れる。

何故か暗闇の中でも、灯程度だがやけに全身の輪郭をハッキリさせるディータであった。


「…なんだ、お前は」

「と、ともかく早く逃げましょうゥ~」


ディータが纏う光と、彼が手に持った松明のおかげで道が開ける。

一向から離れて行こうとする時、金属のぶつかり合う音や人の叫び声、大声が交錯するように響いた。

どうやら乱闘が始まったようである。

抱き上げていたフィーネのウルフの首にまわした腕がふ、と強くなった。


「…怖いか」

「ちょっと…」

「だいじょうぶだ。お前にはおれ達がついてる。それに頼りになる、お前の父親もな」


フィーネはこくり、と頷いた。

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