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「父さま!どこにいってたの!」
フィーネが半分泣きそうな笑顔でロマンに駆け寄った。
すると、ロマンは見たこともないというか、むしろまったく似合わない満面の笑みで娘を迎えた。
「やぁ、フィーネ。怪我もなく、元気かな」
「元気っ!父さまも元気?」
「元気だとも、ああ、当然だとも」
フィーネはロマンの腰に抱きついて嬉しそうに挨拶し合った。
傍目から見ればただの普通の貴族の親子に見えるのだが。
「父さま~…あたしね、父さまに言われた通り、護ってくれる人、見つけたよ」
「ああ、父さまはなんでも知っているとも!素晴らしい、さすがは我が娘」
娘の頭をなでくしゃりながら満面の笑顔で頷く男は正直キモイ、とウルフは思った。
ついでにお前は誰だと問いたくなった。
ウルフが本気で引いていると、がっちりロマンと目があった。
「お前の事は褒めていないぞ」
「いらん」
真顔で言うので、こちらも真顔で返してしまった。
ロマンは気にした様子も無く、適当に受け流しながら娘を右手に、門の前に立ちふさがった。
彼の目の前に聳えるのは眠りについた古き獣の口。
ロマンの長い髪が風に任せるままに、翻る。
風を受け、その向きが変わった事を空気で感じさせる。
「…哀れな悲しき獣よ、吠える月を失い、何を思ったか…」
ロマンが見ている先にはいったい何があるのか。
空が陽を飲み込み、徐々に空ろな星明かりが代わりに支配を始める。
それでも古代を照らしたと言われる月は、姿を見せぬ。
夜歩く者は、いったい何に向かえば良い?
不意にそんな問いが頭を過った。
いったい自分はどこに向かって歩いていたのだ。
いったい自分はどこに行きたかったのだ。
暗闇は自分は何処へ向かおうとさせていた。
月とは、いったいどんな灯だったのだろう。
「…ああ」
ウルフの口からは、まるでこの地の獣が乗り移ったかのような音が漏れる。
漏れた声は一体なにを言いたかったのか。
それすらもわからない。
夜空を見上げようとも、何処までも星辰が覆う闇。
眼の端を深き色の髪が過ぎる。
凛然と、その男は風を誘うように両手を広げて嗤った。
「さぁ、諸君。始めようではないか」




