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領主様との話

 変化が訪れたのはご飯を食べ終わってからしばらくしてからでした。

また鍵が開けられたと思ったら、部屋の中にあの金のエンブレムのメイドさんが入ってきていて、少女の手を軽く引きながら言うのです。

「魔法を使えるそうですね。旦那様が貴女とお会いすると言っています。付いて来てください」

 しばらくただ手を引かれるままに歩いていた少女ですが、旦那様がお会いになるという言葉の意味に気づくととたんに酷い緊張に見舞われました。

急に足取りのぎこちなくなった少女をメイドさんはちらりと見ましたが、さして気にした風も無く殺風景な廊下を進みます。

そして一度北の建物から出ると、表のお屋敷に向かいます。

 表の屋敷の木目の綺麗な立派な扉をメイドさんがノックすると、中で待機していたカッチリとした召使の服を着た男性二人が扉を開きました。

メイドさんは彼らに目礼すると掃除の行き届いたピカピカの家の中を、階段を昇り並ぶ部屋の前を通りこし、館の中心と思しき場所にある扉の前に立ちました。

そしてコンコンとノックをすると、旦那様失礼致します、例の娘を連れてまいりました、と声を掛けて返事を待ちます。

「入れ」

 低く響く優美な声を受けてメイドさんは扉を開き、少女を伴って中に入り優雅に礼をしました。

少女は頭の中が真っ白でしたが、なんとかメイドさんに習ってぎこちなく頭を下げます。

「ご苦労オーガスタ。エレナ、と言ったかね。良く来てくれた」

 正面の壁を埋める書棚の前にある大きな執務机に座ったまま二人を出迎えたのは銀髪を後ろへ撫で付けた、一見優しげな目元にやや歳を感じさせるが、まだ美男といって通じそうな中年の男でした。

「どういたしまして。旦那様、御用がおありならまたお呼び出しくださいませ」

「解った、下がっていてくれ。さてエレナ、君には話がある」

 オーガスタと呼ばれた金のエンブレムのメイドは部屋から出て行き、少女……エレナだけが残されたのです。

「君は、今日娘の部屋に入ったのだね?」

 ゆったりと軽く姿勢を楽にしながら問いかける男性に、エレナは慌てながら答えます。

「え、ええと、領主様に嘘は言わないと誓います。私は門の所の番兵所でこちらで働かせていただく旨の書類を見せてから、案内されたとおりにご領主様のお嬢様の部屋へ入りました」

「なるほど。それで気を失ったね?」

「はい。なんだか黒いものに包まれて気づいたら服を着替えた部屋に移っていました」

 エレナの言葉を吟味するように目を細めながら、領主様は質問を続けました。

「意識を一度失った後も、魔法を使えたんだね?」

「はい。あの質問させていただいてもよろしいですか」

「よろしい。聞こうじゃないか」

 鷹揚に顎に手を当て頷く領主様に、聞きたいことはあるのにどれから聞くべきかがまとまらず少し口ごもってから、少女は口を開きました。

「なぜ私は部屋に閉じ込められていたのでしょうか」

「答えよう。君が体験した現象を経験した者達は皆一様に混乱に陥ることが多くてね。君が目を覚ました時にメイドが説明したはずの補助をどう受けるかを冷静に考えず、恐怖にかれて我が屋敷から逃げ出そうとする者が後を絶たなかった。君を閉じ込めたのは落ち着く時間を与える為だよ」

「私は、こんな事を領主様に言うのは失礼かもしれませんけれど、閉じ込められて余計に混乱しました。とっても怖かったです」

 エレナの言葉を笑いも、はねつけようともせず領主様は言いました。

「それはすまなかった。だが下手に部屋を抜け出されて許しも無く入られては不味い所に迷い込んだらそれこそ処刑しなければならなくなる場合もある。そこは許せ」

 領主様の己の非をある程度認めつつも、必要なことだったと諭し許せと命じる姿は実に貴族らしいものでした。

が、エレナにとってはそれは当然の態度。

逆に申し訳ありません言い過ぎましたと頭を下げます。

「理解してくれて助かる。他に聞きたいことは?」

 領主様に言われてから少し考えて、一番気になっていた事を切り出す。

「何故私が気絶した後に魔法を使えることに皆さん驚くのでしょうか。気絶しただけで魔法が使えなくなるなんて事あるわけないのに」

 その質問に領主様はエレナを手振りで近くへ寄らせます。

そして声を潜めて語りだしました。

「君は魔力食いを知っているかね」

「ええと、昔悪い魔力食いが居たせいで沢山の人が魔法を奪われた上に、他人の魔力の源を食べて力をつけた魔力食いは魔王と名乗るようになったとか」

「そう、その魔力食いだ」

 何故そんな御伽噺の存在について聞かれたのか、エレナにはなんだかぼんやり解るような気がしました。

でもそれは形になる前に、領主様が答えを言ったのです。

「私の娘は魔力食いだ。そして、今日君は私の娘に魔力を食われ魔法を使えなくなるはずだった」

 エレナは明確な形となったそれを領主様に吐き出しました。

「では私が気絶をしたのは魔力の源をお嬢様に食べられたから。領内で噂になっていた魔力を持つ女性を館に招いていたと言うのは事実、なんですね」

 彼女のどこか咎める様な視線を受け流しながら領主様は答えます。

「その通りだ。アレも哀れな娘でな。魔力食いであるが故に常に飢えを感じている。それは通常の食物で補うことは出来ず、常に精神を苛み続ける根源の渇望。私はそれを少しでも和らげようと何人もの魔力持ちを娘の糧にしてきたわけだが……」

 一度言葉を切り、優しげだった目を鋭くしてエレナを領主様が見据えます。

「そこに君が現れた。魔力の源を喰らわれたにも関わらず、再び魔力の源そのものが再生したとしか思えない君が」

 領主様の迫力に押されてエレナは一歩後ずさりをしてしまいます。

「娘以外にも魔力食いはいるだろう、と考えて行動せねばならない。君がそんな能力を持っていること他国に目をつけられたらどうなると思う?」

「わ、わかりません」

「魔力食いを探し出して養育が始まる。最初はその力は小さいだろうが五年後、十年後は?その力を他国に振るわないとどうして言える。そうならないように、私は自領の安全のために君を確保する必要がある」

 軽く身を乗り出し執務机の上に肘をつき、手を組んだ領主様に気おされながらエレナは言います。

「りょ、領主様には失礼かもしれませんが、領主様が他の領や国に同じ事をしないといいきれますか?もしそうなら、私の所有者が変わるだけで争いになるのではないでしょうか」

「ふむ。戦の源になるくらいなら死んでみるかね?」

「そ、それは……!それは……そんな事は言えないです……」

「ならば、この領に生きる家族や友人の益になると考えてこの館で、私の娘の糧となり、我が領の力となりなさい」

 あまりのことの大きさに頭が呆然としている状態で、かろうじてエレナは頷きました。

「よろしい。それでは今日から君は……そうだな、少し試してもらいたい事もある。今一度娘の部屋に行ってもらおうか」

 領主様は執務机の上の金のベルを一振りしてチリンと鳴らします。

すると部屋の外に控えていたオーガスタが入室してきました。

「お呼びですか領主様」

「ああ。これからエレナと共に娘の部屋へ行く、お前はエレナの面倒を見てやれ。それとエド、お前も来い」

「承知致しました旦那様」

 オーガスタに指示を出した後、領主様が呼んだのは、部屋の入り口近くにひっそりと佇んでいたかくしゃくとしたお爺さんと言った印象の、背筋の伸びた老執事でした。

「この後の実験の結果次第ではエレナは貴重な金の卵だ。エドには結果に見合った待遇でエレナが娘の傍に侍れるような役職を作り上げ、使用人の皆に周知してもらわねばならん」

「左様でございますか。旦那様の仰せとあればなんなりと」

「よろしい。では行くぞ」

 領主様が執務机から立ち上がり、先頭をきって歩き出すと三人は静かについていきました。

約一名は歩幅の広い領主様の歩く速度に合わせるのが大変で小走りになっていたようですが。

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