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第11話  鏡の中の本当の姿



『俺は、外見だけで中身も知らないのに、好きだとか言われても信用できないです』


 ダサ男は外見だけで告白してきた女の子達のことを言ったんだろうけど、それはまるであったこともないTVの中のアイドルにキャーキャー騒いでいるファンの子達――私のことを軽蔑してると言われたように感じて、胸が苦しくなる。

 別にダサ男にどう思われようとどうってことないはずなのに、胸がちりちりと痛む。

 ダサ男だって嫌悪していたのは自分なのに――


「ねえ、君。優真って高校でどうなの?」


 ミッキーの言葉に俯いていた顔をあげる。


「こんなダサい格好してて友達とか出来てるのかな?」

「さぁ……私はクラスが違うのでそこまでは知りません」


 本人目の前に「ダサい」って言っちゃったミッキーに瞠目する。心の中で思っていても、絶対本人の前では言っちゃダメでしょ……

 そう思ってちらっとダサ男をみると、特に気にした様子もない。

 近所に住んでて幼稚園の頃からの付き合い――幼馴染同士だから、平気なのかもしれないけど、私がダサ男って呼んでること知ったら、さすがに傷つくよね……


「僕はこんな恰好で出歩くなんて、絶対無理だけどね」


 ふっとミッキーが妖艶な笑みを浮かべる。その周りには黒いオーラが見えて、苦笑する。

 こんな恰好って……もとはといえばミッキーの提案なんじゃん。

 なんだか、カッコイイ植草君のままだと「僕の存在が霞んじゃうから、優真はその格好がお似合いだよ」ってのが本心だったりして……

 TVで見るミッキーは、ふわふわの砂糖菓子みたいな笑みを浮かべた可愛らしい男の子のイメージだったのに、目の前にいる実物は騒がれたい、注目されたい、僕の美しさは世界の宝――とか思ってそうなナルシスト、ちょい小悪魔……??

 でも、だからって幻滅しないのは、どこかでパスケースの中の眩しい笑顔を浮かべるミッキーがアイドルっていう非現実的な存在だと思っていたからなのかな……

 ナルシストで小悪魔なミッキーのキャラでも、きっと女性は騒ぐだろうな、とか思ってしまう。

 ただその瞬間、私の中でミッキーはアイドルから普通の男の子になって、憧れの対象ではなくなっていた。だから友達みたいな感覚で、そんなことを言っていたのだと思う。


「ミッキーは猫かぶらないでも、そのままのミッキーが素敵だと思いますよ」


 ミッキーは薄茶の瞳を大きく見開いて、驚いた顔で私を見ている。

 そりゃそうだよね、初対面なのに、今まで築き上げたアイドル像よりも素のままがいいなんて言われたら嫌な気分だよね。それなのに。


「変なヤツ」


 って言ってミッキーは眩しい笑みを浮かべた。

 ああ、きっとこの天使のスマイルは本物なんだ。アイドルってすごい……



「世良さんは幹のファンなんですよね」


 いつの間にか前髪をかき上げた植草君がそう言うから、私はドキドキしながら頷いた。


「うん……」

「マジっ!?」

「はい、あの、いつも歌番組で見ています。新曲も予約しました」

「サンキュー」


 白い歯を見せて笑うミッキーはスポットライトを浴びたみたいに眩しくて、鼓動が急激に速くなっていく。

 イメージと違ってても、中学の時からずっと憧れていたミッキーとこんなふうに話すことが出来たら、やっぱりドキドキしてしまう。でも。


「世良さんは幹のことが本当に好きなんですね。幹、ファンを大事にしろよ、ちゃんと優しくしてあげるんだよ」


 植草君は春の日差しみたいな暖かい笑みを浮かべた後、そうミッキーに言った。

 何も間違ったことは言っていないのに、その言葉に傷ついている自分がいた。

 ダサ男が私にはぜんぜん興味がないんだって分かる言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。




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