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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

来訪者 [ひとり語り小説]

作者: 雁野文蔵

 実験的な試みなのでタイトル通りのまま主人公である『私』のセリフだけで話は進んでいきます。

 そこから状況描写を読み取って下さい。

 会話している相手が何を言っているのか、それは読んでいるアナタだけのセリフです。





*この物語は以前にFC2小説にてMS-Rの作者名で投稿したものを改正したものです。


 ええ、私が殺しました。

 ご覧の通り、息子さんの返り血で服がほら……こんな真っ赤になってしまいましたよ。

 これではもう、クリーニングに出しても汚れは取れないでしょうね。

 お気に入りのポロシャツだったのですが……




 ええ、そうです。

 手に持っているこの包丁で何度も刺してやりました。

 息子さん、助けてくれと叫びながら苦しみもがいていましてね、おかげさまで私の気も少しばかり晴れましたよ。




 そうなんです。

 あまり苦しませてやるのも可哀想だから、最後はきっちり心臓をグサリ……とね。

 それが何か?




 何故殺したなんて言われるのは心外ですね。

 貴方がちゃんと息子さんに親らしい事をしてやっていないからこうなったんです。

 不良仲間と一緒にウチの商品を万引きするだけでは飽き足らず、娘まで傷物にされたんですよ。

 親として黙っていられる訳がないでしょうが!

 そりゃ殺してやりたくもなりますよ。

 だいたいね、おたくの息子さんには皆迷惑していたんですよ。

 学校へ何度も苦情に行ったって、貴方は呼び出しに応じてくれなかったじゃないですか!




 いえね、貴方の事を先生に聞いたんですよ。

 そうしたら子供の仕出かした事だからって貴方、目くじらをたてて逆ギレされたそうじゃないですか。

 子供が悪さをしたぐらいで騒ぎ立てるなって仰ったそうですね。

 ホント、それ聞いた時はさすがに私も呆れてしまいましたよ。

 息子さんがしてきたことは子供の悪さでは済まないって、貴方自身がまったく分かっていない証拠じゃないですか!

 窃盗に暴行、さらに女性を集団で強姦するなんて、息子さん達がしてきたことは犯罪なんですよ!

 それとも貴方は分かっているから見て見ぬふりをしていたんですか?




 ねぇ、ちゃんと聞いています?




 貴方はそんな事を言える立場ではないでしょう!

 私に子を持つ親のする事かなんて仰いますが、だったら息子さんがやった事を叱りもしない貴方の方こそ立派な親だと言い切れますか?

 ちゃんと保護者としての責任を果たしていたと言えるんですか!?




 貴方ね、子供を殺された親の気持ちだなんて言いますが、その息子さんとちゃんと向き合っていましたか?

 息子さんとはまったく話し合っていなかったでしょう。

 やはり息子さんの素行の悪さに見て見ぬふりをしていたようですね。

 なんて無責任な親なんだ、貴方は……

 私にそう思われても仕方がないですよ。




 よくそんな事を言えますね。

 そもそも息子さんの事を理解していないから躾もなっていなかったんですよ。

 やって良い事、悪い事……貴方の息子さんはまるっきり分かっていなかったじゃないですか。

 警察にお世話になったのも一度や二度じゃないでしょう。

 万引き、かつあげ、暴行……その度に補導されているのに更生の兆しも見えませんでしたね。

 大人しくなるどころかやりたい放題になっていたじゃないですか!

 貴方が警察に何度も呼び出されたのも知っていますよ。

 しかも補導された息子さんを見ても、一言も叱ったりしなかったそうじゃないですか。

 そればかりか逆ギレしてお巡りさんに食って掛かったことも聞いていますよ。




 ………………

 …………

 ……




 ねぇ、黙っていないで何か言ったらどうですか?




 人殺しだなんて聞き捨てならないですね。

 私は法律ではどうしようもない社会のゴミを掃除しただけですよ。

 貴方だって息子さんがいなくなってホッとしたんじゃないですか?

 息子さんのことを恥だと思うからこそ見て見ぬふりをしていたんじゃないんですか?




 まったく親らしい事をしないで、よく私にそんな事を言えたものです。

 ホント、困った方だ……




 それは放任主義なんていうものではありません。

 親としての責任を放棄していると言うんですよ。

 よくそれでちゃんと子供を育ててきたと言えますね。

 やはり本当は息子さんの将来を考えていなかったんでしょう?




 ちょっと待ってください!

 泣きたいのは私の方ですよ。

 嫁入り前の娘を傷物にされたんですからね。

 私だってこんな事をしたくありませんでした。

 でも娘の事を思うと、こうするしかなかったんです。

 お宅の息子さんのせいで娘は心を閉ざしてしまい、毎日怯えています。

 妻だって部屋に篭りっきりで自分を責めてばかりいるんです。

 ウチはもうメチャクチャです、どうしてくれるんですか!




 死んだ息子は帰ってこないって貴方は仰いますが、だったらウチの娘はどうなるというんです!

 娘が汚された時だって、貴方は謝りもしないどころか、私と会おうとすらしませんでしたよね。

 そんなことが言える立場だと、まさか本気で思っているんですか?




 だったら傷ついた娘を……

 娘をどうしてくれるって言うんです!!

 そもそも貴方が私達の言葉に今まで耳を傾けなかったからこうなってしまったんですよ。

 私を恨むなんて筋違いじゃありませんか?




 なんですか、貴方は……

 急に喚いて怒りだして――!

 子供が子供なら、親も親ですね。

 まったく話にならない。

 やはり伺ってみて正解でした。

 貴方みたいな親だから息子さんがあんな風になったのを、あらためてよく分かりましたよ。

 いや、こんな事になるなら娘が汚される前に殺すべきでした。

 今さら後悔しても遅いですが……




 ちょっとなんですか、急に掴みかかってきたりして……!

 いい加減にして下さい、怒りますよ!!




 はぁ、やはり元から正すべきだったようですね。

 貴方から先に殺してあげるべきでした。




 そう怖がらなくても大丈夫です。

 苦しまないように刺してあげますから……




 暴れたら心臓を一突で刺せないじゃないですか。

 ほら……

 あっちこっちから血が噴出して痛いし、苦しいでしょう?




 あのねぇ、もっとハッキリ言ってくれませんか?

 ブツブツ言われてもね、そんなに小さな声では何を仰っているのか分かりませんよ。




 えっ、助けて欲しいですって!?

 今さらそんな事を言われても困りましたねぇ。

 こうなってはもう仕方ありませんから、諦めてもらえませんか?

 痛いのは死ぬまでの我慢ですから。




 まぁ、私がこう言うのもなんですが、あの世では今度こそ息子さんをきちんと躾けてあげた方がいいですよ。

 またあの世でも同じ愚行を繰り返さないように宜しくお願いしますね。




 …………………

 …………

 ……




 ふぅ……




 フッ、さすがに親子だ……

 その怯えて固まった顔、本当にそっくりですよ。




 おっと、もうこんな時間だ!

 では私はまだ寄るところがありますので、これで失礼します。




 そうそう、一つ言い忘れていました。

 最近この辺りって物騒みたいですね。

 なんでも素行の悪い中学生の子供がいる一家が次々に親子共々惨殺されているそうですよ。

 犯人はまだ捕まっておらず、今夜はこれで2件目でしたっけ。

 確か息子さんの不良仲間だったと思いますが、これも自業自得といったところでしょうか。

 不良グループの横行に続き、今度は連続殺人。

 ほんと怖い世の中になったものですねぇ。

 それなのに鍵の閉め忘れなんて、いくらなんでも無用心すぎやしませんか?

 戸締りはもっときちんとされた方がいいですよ。

 まぁ、もう貴方には必要のないことでしょうが……

 おっと、これは余計なお世話でしたね。




 どうもお邪魔しました。



          ‐完‐






 ご指摘があった箇所の修正及び、少しばかり手を加えました。

 また何かミス等があれば遠慮なくご指摘してくださいませ。



2012.2.13 修正しました

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― 新着の感想 ―
[一言] 一人語りの小説とのことで、読ませていただきました。 短編で気軽に読めそうなこととセリフだけでどれだけ物語がつむげるものかと興味しんしんで読み進めましたが、色々と考えさせられる物語でした。 背…
2012/02/19 19:55 退会済み
管理
[良い点] 一人語りで進む形式であるにも関わらず、きちんと「話」として成り立っている。短いながらも心に残る良作。 [気になる点] 『証拠ないですか!』 と書かれてますが『証拠じゃないですか!』の間違い…
[良い点]  面白い試みですね。この書き方をみて、西尾維新の『花物語』や、小松左京の『復活の日』を想起しました。  そういうことがあったときの親の心情が、上手に紡がれていたと思います。頭の中が混乱しす…
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