はぁー?なんで姉であり長女ある私が妹に強奪されまくっているのよ!?
「お姉さま、ごめんなさい……っ!私、ハロルドさまのことが好きになってしまったんですっ!ハロルドさまもお姉さまより私のことが好きだって……!もちろん、譲ってくださいますよね?」
「すまない、セシリア。どうか僕たちのことを認めてほしい」
セシリアはその愚かすぎる台詞を聞いてすべてを思い出した。
頭の奥でパチンと何かが弾ける音と共に、怒涛のように前世の記憶が押し寄せる。それと同時に、彼女の脳裏にひとつの『真理』が蘇った。
昔から決まっているのだ。
こたつでお茶を飲みながらテレビを見ているとき、ミカンないしポテチを取りに行くのは姉ではない。
雨の日に郵便受けに新聞を取りに行くのも姉ではない。
風呂上がりに冷蔵庫を開け、最後の一本になったアイスを涙ぐましく我慢するのも姉ではないのだと。
そう、前世で3人の弟たちの姉であったセシリアは魂の髄まで理解した。
長女こそ家庭内ヒエラルキーにおいてトップに君臨すべし存在であるということをーー。
(はぁー?なんで姉であり長女である私が妹に強奪されまくっているのよ!?)
目の前にいるは唾棄すべき愚かな妹、リリア。
これまで人形、おもちゃ、ドレス、果てはアクセサリーまで散々セシリアから奪い、その際に目に涙をためながら家族に訴えることで彼女を悪役にしてきた躾のなっていない泥棒猫だ。
「まあリリア、こんなに泣いて可哀想に……。お姉ちゃん、リリアがこう言っているわよ」
「セシリア、お前が良ければ手続きを行うが、どうだ」
リリアを溺愛している現世の愚かな両親たちが、さもセシリアが譲って当然であるかのように同調し、またしても我慢を強いてくる。
(はぁ。この人たち、本当に何もわかっていないのね)
「あのねぇ」と地を這うような声を出し、セシリアはゆっくりと腕を組んだ。
「どう考えてもおかしいでしょう?」
「え…………?」
セシリアはその場にいる一人一人をじっとりと見つめていく。
リリアもハロルドも両親も、普段の控えめで気弱でひたすら優しい『物わかりの良いお姉ちゃん』であるセシリアとは思えない絶対零度の威圧感に射竦められ、揃って息を呑んで硬直した。
彼女からは3人のやんちゃな弟の喧嘩を一括で制し、アイス強奪戦、お手伝い回避戦を勝ち取ってきた歴戦の『容量が良く、態度がデカい姉』の形容しがたいオーラが凄まじい覇気となって醸し出され、部屋中を支配していたのである。
「そもそも、この家の跡継ぎは私。ハロルドさまは三男な訳だから婿養子に入れなくなるけどいいの?まさか家督まで強請る気?冗談じゃないわよ。……婚約破棄自体は構わないわ。こんな自分の立場すら理解していないポンコツ、資源ゴミの日にでも出しておけばいいもの。熨斗をつけて譲ってあげる。でもね」
セシリアの氷のように冷たい視線が、間抜けに口を開けるハロルドからリリアへとスライドする。これから始まるのは、これまでの不当な搾取に対する完全なる『負債の回収』だ。
「リリア、思い返せばあなたはあらゆるものを私から奪っていったわね。赤ちゃんのころ持っていた大切なおくるみも、おじいさまから貰ったぬいぐるみのフェルンも、お誕生日プレゼントのお人形も、お花の着いたドレスも、はじめてお小遣いで買ったカチューシャも、おばあさまから貰ったネックレスも、他にも日ごろから何から何まで」
「だ、だってそれは……お姉さまが譲ってくださるって……っ!」
ニコリ、と。セシリアはこれ以上ないほど美しい、しかし酷薄な笑みを浮かべてみせた。そして、言葉を失って立ち尽くす妹を真っ直ぐに射抜く。
「まさか、私が『あげた』とでも思っていたの?姉のものは姉のもの、私のものは私のものよ。これまでは私の慈悲で『貸し与えていた』だけ。さあ、長かった貸出期間は今日この瞬間をもって終了よ。返しなさい。全部、今すぐに」
悲劇のヒロインを気取って絞り出そうとしていたリリアの嘘泣きすら、完全に引っ込むほどの凄まじい気迫。逆らうことなど絶対に許されない、真の支配者の帰還であった。
***
「それで、リリアから全部取り返したのかよ!うははは、これぞおねえだよ!」
「っていうかこれまでの姉さんがしおらし過ぎたんだよ。ガチで不気味だったわ」
「さすが姉ちゃんは最強だな!記憶も戻ったし、めでたしめでたしじゃない?」
「あんたたち……見た目や家柄は変わっても中身は変わらないわね」
王都の高級料理店の個室。
記憶を取り戻したことにより、これまで前世の3バカ(弟たち)がそれとなく私に接触して前世のヒントを告げていたことにもすべて合点がゆき、今、前世ぶりに4姉弟が集結している。
しかし問題はその面子だ。
長男、公爵家嫡男。
次男、宰相家嫡男。
三男、騎士団長嫡男。
弟たちは見事、絵に描いたような高位貴族へのチート転生をキメていたのだ。
一方の私は子爵令嬢。ここは王女とかに生まれるべきだったんじゃないの~!?長女なんだから!
「あんたたち!私、婚約者失っちゃったんだから、ちゃんといい人紹介してよね!いい人って言っても私は子爵令嬢なんだからほどよくいい人ね!できれば嫡男でご両親は優しくて、領地経営が安定していて、お茶会とか面倒な付き合いが少ない……」
私が堅実かつ切実な条件を並べ立てていると、3バカは顔を見合わせ、揃って盛大に鼻で笑った。
「姉さんたら何言ってるの。そんなモブみたいな男、俺たちが許すわけないじゃん」
公爵家嫡男(前世:長男)が、呆れたようにサラサラの金髪をかき上げる。うっ眩しい!無駄にイケメンで腹が立つ。
「そうだよ。姉ちゃんに相応しいのは、最低でも王太子殿下か、隣国の大公くらいでしょ。もうリストアップと根回しは済んでるから」
宰相家嫡男(前世:次男)が、どこから取り出したのか分厚い羊皮紙の束をバンッと机に置いた。根回しって何。怖い。
「俺、おねえに近づく男の身体検査担当な!腕相撲で俺に勝てないもやしっ子は全員足切りするから安心して!」
騎士団長嫡男(前世:三男)が、見事な上腕二頭筋を叩いてドヤ顔をしている。こいつは相変わらずだからちょっと安心する。
が、しかし。
「ちょっと待ちなさい!!」
私は思わず机をバンと叩いて立ち上がった。
「王太子!?隣国の大公!?あんたたち、私がただの子爵令嬢だってこと忘れてない!?そんなとこに嫁いだら、身分差でドロドロの派閥争いに巻き込まれるか、お茶会で嫌味を言われ続けて胃に穴が開くわよっ!」
「大丈夫だって。姉さんに嫌味言うような奴がいたら、俺が公爵家の権力で実家ごと社会的に抹殺するから」
「とりあえず新しい法案通して、姉ちゃんを不敬罪の対象外にしておくね」
「物理で守る!」
……ダメだ、このハイスペック・シスコン3バカ。
前世で絶対君主として君臨してきた余波か、姉に対する評価がバグっている。
「あのね、私は争いごとのない平和で温かい家庭を築いて、こたつでミカンを食べるような平穏な余生を送りたいの」
「この世界にこたつ無いじゃん」
「じゃあ俺が国家予算引っ張って、魔導具師に作らせる」
「だからそうやって権力と財力を無駄遣いするんじゃないわよ!!」
元婚約者という資源ゴミを処分し、妹への躾も華麗にキメて、スッキリした気分で新しい堅実な人生をスタートさせるはずだったのに。
この無駄に権力を持った弟たちの「最強の姉プロデュース計画」のせいで、私の前途は思っていたのとは違う方向で、ひどく波乱万丈なものになりそうだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私なりの「姉と妹もの」を書いてみました。
作者はここまでの絶対君主ではないものの、歴戦の長女として異世界で妹にたかられても絶対に譲ってあげない自信があります。サイズオーバーするのを待て、です。
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また、「攻略対象が全員『悪役令嬢』に夢中なので、ヒロインである私はイベントを自力で起こすしかない」という長編ラブコメを連載中です。お時間ある方、よろしければ……!
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