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作品ばかり褒められて

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/06/24

 

 昔。

 文豪と呼ばれた作家が居た。

 美しい作品とは裏腹に苛烈な人柄が今に伝わる――。


 曰く、誇り高き故に才無き者を見つけると宣言する。


「筆を折れ。お前がこの道に居ることが芸術に対する侮辱に等しい」


 曰く、気高き故に同志に宣戦布告をする。


「お前程度の作品は俺ならばいくらでも書ける」


 けったいな存在だ。

 誰からも嫌われていた。

 そんな人間が世を去り、彼の作品は今や古典と分類されるものとなっている。


 腹立たしくも傑作が多い。

 いや、現代にまで残る作品なのだから必然的に傑作となるのだ。


「美しい表現だ」


 作家たちは数えきれないほど繰り返す。

 何百年も変わらない退屈な感想を。

 ――退屈で、変わらないからこそ相応しい感嘆の声を。


「残るべくして残る作品とでも言うべきか」

「文字がまるで生き物のようだ」

「いや。世界が生きている――」


 あぁ。

 今日も作家たちはため息をもらすばかり。



 *



 ところ変わってここは地獄。

 生前にあの傑作を書いた作家は今日も苦々し気に呟く。


「あれは俺の作品じゃない」


 永遠に続く責め苦の中、最早顔なじみとなってしまった地獄の番人は面倒くさそうに言った。


「はいはい。そうですね。あれはあなたの作品ではありませんね」

「違う! あれは俺の作品なんだ!!」

「どっちだよ。めんどいな」


 番人は飽き飽きしていた。

 このやり取りに。


「何度も言っているだろ!? あれは確かに俺が書いた作品なんだ!」

「はいはい。そうですね。剽窃しまくったけれど確かにあなたの作品ですね」

「違う!!! 参考にしただけだ!!」

「そーですね。その『参考にしただけ』のせいでちぐはぐさが酷くて後世の人々が意訳しまくって元の形なんてないけれど、確かにあなたの作品ですね」


 きゃいきゃい騒ぐ作家の言葉を煩わしく思いながら、地獄の番人は今日も『永遠に続く責め苦の罰』を受ける罪人を見守り続けるのだった。

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