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素人がリトライダンジョン挑んでみた#1

「お? これ、ちょっと前に公式が言ってたやつか?」


 俺は手元の端末で、SNSで拡散されてきた動画のリンクを開く。タイトルは『素人がリトライダンジョン挑んでみた』。この端末は、冒険者全員に配布されているもので、冒険者資格の証明として使えるのはもちろん、能力、実績等様々な個人情報が記録されている他、情報端末として様々な情報を見たり調べたりすることができるものだ。実際、資格証明の画面を開くと、シリウス、という俺の名前に加え、顔写真をはじめ、様々なデータが表示されるようになっている。


「最近は『自作の魔術使ってみた』とか、『この魔物はこう狩れ!』とか、面白い動画いっぱい出てきてるから、ちょっと楽しみだな……リトライダンジョン、興味あったし」


『も、もう撮影してる? え、ちょ、ま。んん゛っ。――はい! 皆さま初めまして! 異世界からこんにちは! 天乃てんの月子つきこです!』


 かわいらしい制服を着た美少女が、不似合いなダンジョンの中でぐだぐだな自己紹介をしている。


「……なんだこれ。ていうかこの子、なんだ、ブイチューバ―って、何? ……なんか見た目違和感あるし、実体じゃなさそう……? それに、異世界……? かわいいけど。こういう企画なのかぁ」


 見た目のかわいい女の子がダンジョンの導入紹介して終わり、って感じかな? 最近こういうの増えたよなー。


 期待外れではあったが、動画自体は十分程度だ。このくらいならまぁ見てもいいだろう。冒険者の友人と話すときのネタにもなりそうだ。


「なんとこのダンジョン、《《死んでもまたやり直せる》》『リトライダンジョン』と呼ばれているらしいんですー……って、死!? 死ぬんですかわたくし!? ちょっと聞いてないですよなんですかそれー!!!』


 少女が悲鳴を上げながらダンジョン内を進んでいく。……結構マジっぽいな。演技巧者なのか、マジで素人なのか。


「そういや、リトライダンジョンって、死んでもやり直せる、が売りだっけ。……ってことは、この子、死ぬの?」


 ……大丈夫か? あのダンジョン、冒険者としての知識、戦略、判断力みたいな能力を鍛えることを目的としてるって聞いたけど……この子、動きとかも明らかに素人っぽいし、何にも知らないんじゃ?


『好きな武器……? 好きな武器って何? わたくし武器なんて触ったことないよ』


「やっぱりじゃん……! 武器に触れたこともないレベルの子がいきなりダンジョンは無理だろ……」


 突然緊張感が生まれた。――いや、落ち着け。別に戦闘はせずに、紹介終わり、となる可能性だってある。あるいは、意外と才能があってあっさり魔物を退治できたりするかも……?


『とりあえず危ないものには近寄りたくないんでね。リーチが長くて扱いやすい武器選びましょう。……よし、これですね。槍。突く、叩く、払う。なんでもできます』


「うん。武器の選択は悪くないな……意外といけるかも?」


 槍は初心者にも扱いやすい。ポーズをとる様子を微笑ましく見ていると――月子嬢はダンジョンの奥へと進み、魔物と遭遇した。


『ひっ、でっかい蜘蛛!』


「大蜘蛛か……毒のあるタイプじゃなさそうだけど、素早いし、何より見た目が気持ち悪いよな……案外虫とか大丈夫だったりするかな」


 生理的嫌悪感は意外と戦闘時の足かせとなる。月子嬢はどうだろうか。


『え、わたくし、アレを槍で刺し殺すの? いやいやいや。無理ですよ。だいぶ無理』


「ダメそうだ……でも、頑張ってやるしかないよな……」


『さすがにね、ちょっとかわいそうなのでちょっとそんなに強く攻撃できないんですが……ぎゃあー!!!!!』


 全然腰が入っていない槍での攻撃をみて、俺は頭を抱えた。そりゃこうなるよな……。応援しかできないのがもどかしい。


「その場にいたら、助けてあげられるんだが……そうか、そもそも『生き物を殺す』経験自体がほぼない感じか……そりゃキツイな」


 例えば、農家の子なら生きた鶏や豚に止めを刺す経験があるかもしれない。そうでなくても、この世界の人間なら、魔物という存在に対する嫌悪があり、殺すことにためらいはないかもしれないが……。


「異世界から来た、って言ってたもんな……そもそもの感覚が違う可能性もある」


 逃げ回りながらそれでも、少女が何とか進むために覚悟を決めようとしたところで――。


『これ、天井下がってきてる!? ヤバいヤバいヤバい! つぶされる!』


 天井が落ちてくるトラップ――!


「うわ、えっぐ。最初っから時間制限付きかよ……!」


 確かに、きっかけがないと決断ができない人は多い。自分の命が掛かれば、様々なしがらみは消えてなくなるだろう。だが、それにしても、厳しすぎるのでは……。


「でも、冒険者なら、そのくらいできないと、確かにダメか……」


 魔物を倒せなければ、自分や仲間、依頼者を危険に晒すことになる。素早い決断と行動は必要な要素だ。


『まずい。まずい。これ、どうなるの? ちょっと、これ、潰されるんですか!? ええ!? ちょっと。ねぇ。誰か、助けて――』


 悲痛な声が響く。何とか助けてあげたい。でも、俺は見ていることしかできない。いつの間にか、俺は天乃月子という少女に感情移入していた。


『――さて、残念ながら、本日の動画はここまでです。ではでは、異世界からさようなら。天乃月子が、お送りいたしました。また見てくださいねー』


 絶望の表情、震える声、画面は天井を映し――ブツン、と切れた。暗転後、『Bad End』という無情な表示。


「……だ、大丈夫、なのか? 本当に……」


 そう思った瞬間。


『絶対、クリアしてやるからなぁー!!!!』


 叫び声が聞こえて、思わず笑ってしまった。


「はははっ。いや、安心した」


 あのまま終わっていたら、不安な気持ちが残っただろう。それはそれで気になっただろうが……。


「これだけ負けん気が強いなら、もしかしたら先へ進めるのかもな」

 

 なんとなく、彼女のことが気になって仕方ない。#1ということは、続きがあるのだろうか。いつ公開されるんだろう? そもそも、彼女はどういう人間なんだ?


 居ても立ってもいられなくなり、とりあえず公開された彼女の動画から、チャンネル登録と高評価をしたうえで、コメントを残す。


『初めまして。動画楽しく見させてもらいました。続きも楽しみにしているので、頑張ってください。応援してます』


 取り留めのない、短い言葉。でも、感じたことを詰め込んだ。


「あ、自己紹介、あるな」


 一日前に投稿された動画。それを眺めながら、俺はぽつりとつぶやく。


「――次は、いつやるのかな」


 いつの間にか、どうやら俺は、彼女のファンになってしまったみたいだ。

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