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『送れなかったラブレターの返事』

作者: 醍醐乙兎
掲載日:2026/05/19

 送れなかったラブレターの返事が来ていた。

 僕がそれに気がついたのは、自分の部屋を掃除しているときだった。


 高校を卒業し、気分を一新するため、部屋をひっくり返す勢いで作業していた。

 あいつとの思い出を見ないですむように、不要なものをどんどんと捨てていく。

 勉強机の引き出しも順番に出して、いらない物をゴミ袋に入れていった。

 鍵のかかった引き出しにも手をかけ、僅かに震えた指先を無視し、鍵を開く。


「……あれ?」


 鍵の開いた引き出しの中に、見知らぬ白い封筒が一通入っていた。

 その代わり、僕が捨てることもできず、鍵をかけてしまい込んだはずの、あいつに渡せなかったラブレターが無くなっている。




 手の震えが止まらないまま、白い封筒をつまみ上げる。

 封筒には、黒いペンで文字が書いてあった。


『ヘタレ』


 その三文字を見て、僕の震えは止まった。

 代わりに、耳が焼けるように熱く、涙があふれそうになる。

 僕のことを『ヘタレ』と呼ぶのは、ただ一人、あいつだけ。

 手紙を持つ手に力が入った。


「……なにか入ってる?」


 指先から硬い感触が伝わってくる。

 服の袖で目頭を拭き、封筒を綺麗に開けるため、切れ味のいいハサミを探した。




 封筒を掴み直し、ハサミを置いて一息つく。


「ふう……あれ?」


 さっきまでと、指から伝わる感触が少し違っている。

 恐る恐る封筒から手を離す。

 封筒は僕の手汗で柔らかくなっていた。


「しまった……」


 急いでタオルで優しく叩く。

 なにも変わらない自分に嫌気が差した。


「こんなだから、あいつにも……」


 うつむき、そこから零れた涙が、封筒の『ヘタレ』の三文字に落ちる。

 少し滲んだ『ヘタレ』が、僕を見ていた。

 あいつの声が聞こえた気がする。

 いつものように笑う、あいつの顔が浮かんだ。



「あいつが、僕に残した物」


 慎重に、白い封筒を傾けた。

 真っ直ぐの切り口から飛び出したのは、一本の鍵。

 そして、ゆっくり落ちる一枚の手紙。

 その手紙には住所と、一言。


『来るとき連絡必須』





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