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幻想アンダーグラウンド1-8

電車の中。

依然として禍々しく黒いオーラがカナエを侵食しようとしている。


「……それから凪は作曲活動に没頭した。私はプロの講師からボーカルレッスンをさせてもらった。サポートの熊さんと染谷さんは、間違いなくプロレベルだった。凪が作る曲を瞬時に理解して、形にする。新しい音楽はどんどんできていった」

「それでも、君には居場所が必要だったんだね。」

「半年間は目まぐるしい日々で感傷に浸る暇もなかったんだけどね。凪も取り憑かれたみたいに曲を書き続きた。そして、しっかりと期日までに曲を完成させた。どれも紛れもない名曲をね」

「オカルト集団の悪魔くん崇拝だニャー!」


居眠りをしていた駅員猫が声をあげた。


「そう。私たちはバンド名を『オカルト集団』に変えて、ファーストアルバム『悪魔くん崇拝』を半年で完成させた。都内とライブ物販の限定発売。全国ツアーの前に都内で何度もライブして、CDはあっという間に増販されて、一万枚を超えた。」

「一万枚!?二千枚でも凄い数なんでしょ?」

「八木山は本当にやり手だった。SNSや口コミサイトを上手く使って、噂は勝手に一人歩きしていた。東京以外では私たちは知られていないはずなのに、チケットは連日ソールドアウトしていた。」


カナエの周りのオーラが一気に強まる。


「何もかも怖いくらいに順調だった。凪との関係も良好だった。全国ツアーが終わるまでは。アイツが……あんなことさえしなければ……!」



百道浜海岸。

夕日が海面を染め、波音は静かに繰り返す。


全国ツアーは後半戦を迎え、残りわずかとなっていた。

福岡公演を終え、束の間のオフ。

凪とカナエは海岸で夕日を見ていた。


「俺、サーフィンできるんだぜ」

「そうなんだ」

「スノボーも得意だし」

「うん」

「……ツアー大変だったな」

「うん。でも、みんなに応援してもらえたし、楽しいよ。残りはたしか十二公演だね」


凪がカナエの顔色を伺う。


「カナエ……楽しい?」

「歌うのは好きになったかな。この前、最前列で大号泣してる高校生いたよね。楽しみに待っててくれる人がいるんだなって。」

「サチコがさ、カナエから返事がないって心配してたんだ。無理してないかなって」

「なにそれ」


カナエは立ち上がって、スカートの砂を払う。

上空を指差した。


「福岡タワー!いってみよう」


暗い雰囲気を打ち消すように手を振って歩く。

エスカレーターに乗って、展望台へ向かう。


「ラブロック。愛の南京錠だって」


フェンスには恋人たちが愛を誓いあった証がびっしりと整列していた。


「これ、買ってもいい?」


凪は無言で頷き、自販機にお金をいれた。

カナエは手渡された南京錠にマジックで『バファリン』と書いた。


「バファリンで、イブって、寒すぎ」


バンドはオカルト集団に改名され、カナエは神秘性を持たせるために『イブ・プロフェン』という名を八木山に付けられた。イブプロフェンはバファリンに配合されている薬の成分である。


その下に、イブ、凪、と書き足す。


「私のいないとこで、私の話して、私ってそんなに厄介?歌だけ歌っとけって感じ?」

「そんなことない。お前がいなければ、俺はここにいない。俺の曲に、お前が息吹を宿してる」

「私は、私はただ、凪がギターを弾いてたから」

「うん」

「なんで、こんなことになっちゃったんだろう。わからない」


カナエは凪のライダースを掴んだ。


「私も着てくればよかった、ライダース。捨て猫みたいに寄り添えたのに。でも凪がいれば私は大丈夫、私は歌い続ける」

「そうだね」


カナエは凪の胸で泣いた。

二人で色違いのライダースを着て、どこまでも寄り添えば、きっといつか居場所は見つかる。


知らない街で見上げると、凪の顔がある。

カナエはそっと目を閉じた。


あの日、どうしたの?と声をかけられた日からーー


ツアーが終わったら、もう偽るのはやめよう。私は私の着たい服を着て、好きな人たちと好きな時間を過ごそう。


しかし、


カナエの想いが叶うことはなかった。



「デデーン!さて、問題ニャ!」


駅員猫は、ハテナが書かれたシルクハットを被ってふざけている。


「回想前に出てきた『アイツがあんなことさえしなければ…』とは誰のことでしょうか!?死神くん、わかるかニャ?犯人はこの中にいるニャ!」

「よせよ、ふざけるのは」

「これで最後なのニャ。カナエの楽しい想い出は。ほら、見るニャ!」


球体の映像は乱れ、バチバチとノイズを発していた。嵐のように風が吹き荒れると、黒いオーラと同調していく。


「お前が正解を当てたら、この嵐も収まるかも!?」

「え、わかんないよ……そうだな……ブルドッグのレタスとか?」

「ブブー!よりにもよって、なんでレタス!しかも……ブルドッグって……何?」


カナエが不意に吹き出す。


「フフッ……ブルドッグって。確かに似てるけど」


黒いオーラがすこし和らぐ。


「ほんとに弱めてどうするニャ……。とにかく、全国ツアーも東京公演でツアーファイナル!カナエの審判の日が始まるニャ」


(続く)

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